安楽椅子探偵の一日 9 最高のセックスが終わった後は、いつも腰が立たなくて最悪な気分になる。 普段の、棒に徹する淡泊な行為の方がまだマシだ……どちらにせよ射精はしてしまうのだが。 僕は……まるでバカだ。 いや、バカ以下、盛りの付いた獣だ……。 対するLは、シャワーを終えて全裸でぶらぶらさせながらキッチンを漁っている。 ああ、もう水滴が垂れて床に水たまりが出来ているじゃないか。 やがてジャンドゥーヤの残りを見つけ出し、指で摘んでぶら下げながら戻って来た。 それを見るともなしに眺めながら、ぼんやりと口を開く。 改めて確認するまでもないが、オーストリアの事件で爆死した彼女は、 「野菜ドリンクが視界に入った途端……。 無意識に思い切り振ってしまったんだな?」 ニトログリセリンの入ったビーカーを。 そうとしか考えられない。 Lは仰向いて口の上で包みの両端を摘んでいたが、止まった。 彼には珍しく、菓子を口に入れる前に僕に向き直る。 「はい」 「実際、それが正しいと思うか?」 「はい。間違いありません」 そう。 おまえがそう言うのなら、間違いないのだろう。 早朝一人で実験していたという奇妙な状況も、 異常な温度設定で冷房が掛かっていた謎も、 効き手が吹き飛んでいた理由も、 爆発した時顔が正面を向いていなかった不思議も、 全てそれで説明出来る。 「……また今回も、負けだな」 「私にですか?一応世界の切り札とか言われてるんですけど」 「ああ」 「夜神くんも十分凄いですよ。 一国の警察が手をこまねいている事件を、遠隔地からたった一日で解決したんですから」 わざとらしく上から目線で大袈裟に褒めるのが、また業腹だ。 「おまえのヒント付きでね」 「まあ、ヒントがなければ明日まで掛かったでしょうね」 嫌味が通じない。 ここまで来ると、こいつ相手に腹を立てるのも馬鹿馬鹿しくなって来た。 「でも、今回の事件みたいなのって……生き物としてのバグなのかな。 高い所に行くと、死ぬ気もないのに飛び降りたくなってしまったり」 「恐らくそんな人もいるでしょうね。 あなたにも私にも、探せばあるんでしょう」 「何だか怖いな」 「はい」 もしかしたら、こんな風に。 好きでもなければどちらかと言えば敵である男の身体で感じてしまうのも、バグの一つなのかも知れない。 「何考えてたか当てましょうか?」 「いや、いいよ」 思わず笑い混じりに答える。 どうせ、おまえには全て完璧にお見通しなんだろう。 「おまえにとって僕がただの棒であるように、僕にとってもおまえはただの穴だ」 「はあ……でも、かけがえのない穴なんですよね?」 ニヤリと笑いながら包みから取り出したジャンドゥーヤを舌先で舐める。 ああ……そうだな。そうだ。 確かに僕はおまえの肉体の虜で、おまえとのセックスなしでは生きて行けない身体になった。 そして皮肉な事に、その事が僕を自由にする。 外国でも一人で出歩かせて貰える。 まるで無言の契約のように。 「信じてくれなくても良いんですが……私、人を身体で釣ったのあなたが初めてなんです」 「ああ、そう。僕もセックスで釣られたなんて初めてだ」 「Lとキラと思えば相性最悪ですが、身体の相性はかなり良いんでしょうね、私達」 「そうだね。実際、僕が今一番怖いのはおまえが僕より先に死ぬ事だし」 「確かに。その先の性生活がどうなるのか、考えたらヤバそうです」 ああ、そうだな。 どんなに良い女を抱いても、男を抱いても、きっと僕は満たされない。 その一点においては、砂漠のような人生になるだろう。 とは言え。 さっきおまえを探しに行こうとした時の自分の心情を鑑みると、それだけでもないような気もするけれど……。 僕は少し考えた後、結局それは口に出さず、枕に頭を沈めた。 --了-- ※115000打踏んで下さいましたやまのさんに捧げます! リクエスト内容は、 キラ事件中で月の記憶がない時期、またはキラ事件は解決後、Lは生きていてライトと暮らしている、 どちらかの状況で、淡々とした二人の日常、という感じ? エドガー・アラン・ポーの「マリィロジェの謎」のように事件を論じるLとライト、をお願いしたいです。 直接依頼された訳ではない世間の注目を集つめる事件を記事からのみ、または立場上手に入れられる情報のみで部屋で座ったまま真相を突き止めるLと、先に事件に興味を持ち、その頭脳でかなりいい線まで推理するが、いつもLに一歩及ばず、というライトをお願いしたいです。 そもそも二人で別の事件(キラ事件中ならキラ事件)を追っていて、あくまでも知的好奇心から手に入れられる情報のみで会話のついでのように事件の真相を追求していく、という感じで、そしてその事件の内容は…お任せて、お願いしたいです。 そして、ちょっと濃厚気味なエッチ場面もリクエストさせて頂いていいでしょうか? 今回は月Lで。 日々、手に入る情報でまずライトが推理し、情報と自分の推理をLに披露、その上を行く推理をLが見せる。 それが悔しいライトはそんな夜は決まってLをひどく攻め立てて優越感に浸ろうとするけれど、Lはそれをとても素直に奔放に受け入れて、ライト以上の快楽を楽しげに得る。そんなLを見て、ライトはますます敗北感を感じ…というのをお願いしたいです。 長々書いてしまいましたが、見たいのは二人で椅子に座って推理、Lが常にちょっとリード、悔しい攻めライトが夜がんばる程、奔放に快楽を得ているLは楽しい、という、そんな二人です。 マリィロジェ!……ってどんなんだっけ?という所から始まりました(笑) 粗筋見て、ああー読んだ事ある〜と懐かしく思い出した次第。 ミステリっぽいネタを考えるのが苦手で、なんか馬鹿馬鹿しいオチでごめんなさい。 野菜ジュースが目について、ついコーラを振ってしまってえらい事になったのは実話です。 推理で負けた口惜しさを夜にぶつける月萌える! ますます喜ぶLも(笑) その辺りが上手く表現出来たかどうか心配です。 二人がお互いをどう思っているのかはリクエスト内容からは読み取れなかったので、セフレ?みたいな設定にしました。 でも少なくとも月は、認めたくないけどちょっとはLの事が好きなんだと思います。 やまのさん、こんな感じで良かったでしょうか? 今回も楽しいリクありがとうございました!
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