042:メモリーカード
042:メモリーカード(前編)










国際親善囲碁大会が終わった日の夜のホテルで、シャワーも浴びて
さて寝ようかと思った時に、韓国選手の高永夏から電話があった。
今から自分の部屋に来いというものだった。

するとあれは本気だったのか・・・。

昼間の出来事を思い出す。
高が彼との対局の前に、冗談めかして言ったのだ。『賭けないか。』と。
『何をですか。』と言ったら、ボクのスーツの腰を撫でた。

正直バカバカしい、と思ったし冗談なら笑えないと思ってそのまま無視したが
結果、ボクは負けた。
それでも高は何も言って来なかったから、やはり悪ふざけだったのかと思っていたが。


高の真意を測りかねたまま、受話器を置く。
正直また服を着るのは面倒だったが仕方なくまたワイシャツを着て
少し迷ったがネクタイは絞めずに彼の部屋に向かう。

安心させるようににこにことボクを迎え入れた彼はしかし、ドアを閉めた途端に豹変した。
ボクをベッドに押し倒したのだ。


『何のつもりですか?』

『キミが欲しい。』

『・・・ボクは男ですが。』

『そんな事は分かっている。』


ボクの上にのし掛かってくる男はあくまでも真顔だ。
ベルトを外そうとするのに鳥肌が立ち、思わず平手打ちしようとした手を
素早く掴まれた。


『賭を、しただろう?』


覗き込む目はやはり笑っていない。本気だ。
ボクが勝った場合は何を得たのだと、聞きたいが今更聞いても意味がない・・・。


『・・・どうすればいいのですか。』

『大人しくしていれば手荒な事はしない。』


ボクはしばらく全力で高を睨み付け・・・そして目を閉じて力を抜いた。






全裸になったボクを、高はベッドから離れて観察した。


『・・・何かするなら、さっさと終わらせて下さい。』

『怖くはないのか?』


盤上ならともかく、こんな場合に体力的に圧倒的に差がある相手に
無駄な抵抗をするのはあまり賢明ではない。
それに、フェアではないとは言え、ボクは賭けに負けた。


『怖くないわけはない。それに気持ち悪い。』

『だけど抵抗しないんだ?』


「まな板の上の鯉」という日本語を知っているかと聞こうかと思ったが
これ以上こんな相手と余分に話したくなかったので黙り込む。

高は自分も服を全部取り去った後椅子の上に置いて、そして再びベッドに乗り、
ボクの隣に横たわった。
そして手も触れないでまたまじまじと舐め回すようにボクを見る。


『用がないのなら、帰して下さい。』

『あるさ。でもキミがいい子にしてるから、優しくする事にしたよ。』

『?』


ボクの手を取り、握手をする。
今の状況ではこれ以上ない程敵同士なのに、奇妙なハンドシェイク。
男同士で手を繋ぎながら全裸でベッドに横たわっているのは、何というか、妙だった。


『少し震えているな。』


恐怖と怒りと緊張で、体が妙に堅くなっている自覚はある。
呼吸もいつもより速い。
でもそれを正面切って指摘されると、少し落ち着いて来るのが不思議だ。
それに今の所彼が「手荒な事をしない」のは本当だと思えるし。


『セックスは初めて?』


それでも恐ろしい言葉を口にされ、自分の意志に反して手がぎゅ、と高の手を強く掴んでしまう。


『・・・ああ。』

『オレはキミが4人目だ。』

『そう。』

『前の三人は、女2人、男1人。』


それはその年で経験豊かな事で。
でもボクにとってはどうでもいい。
どうして今そんな話をするのだろう。
したいならさっさとすればいいじゃないか。


『オレも最初の時は怖かった。』

『・・・・・・。』

『柄にもなくカタカタと震えたよ。当たり前だよな、未知の世界だから。』

『あなたでも?』


こんな奴と話したくもない、と思っていたのに、思わず問い返してしまう。
無駄なおしゃべりなんかしている場合じゃなくて、さっさと終わらせて部屋に帰って
今後の対応策を決めたい(と言っても忘れるよう努力するだけだと思うが)と思っていたのに。

高は微笑んで手を離し、ボクの頭をそっと撫でた。


どうして、これから乱暴しようという相手に、そんな恋人みたいな優しい事をするんだ。

・・・こんなの卑怯だ。





撫でた手は首に触れ、そのまま滑り降りて肩に触れた。
またビク、と震えるが体には来ず、腕を扱くようにして手首に到る。
それからゆっくりと、とてもゆっくりと手の甲を通って腰の外側にそっと触れ、
足の外側をそろそろと撫でていった。

恐れていたように性器には近づかなかったので安堵の息を吐いたが、
妙にエロティックな仕草だとは思う。

膝を越え、足首を少し掴んでからまた膝に戻り、皿のあたりをさわさわと撫でる。
人形のように動かないで置こうと決めていたのに、くすぐったくて少し足を曲げてしまう。

高は構わずにまた反対側の足の外側を撫で上げ、上半身に戻り、
腕をさするようにした。


『・・・どうしてこんな事を?』

『キミは他人に体に触られるのに慣れていないだろう?オレの手に慣れて貰いたいんだ。』


だから、それが何故。
別にボクが慣れなくても、したいようにすればいいじゃないか。

手は少しづつ内側に入ってきて鎖骨に触れ、胸を撫でる。
肋骨を少し引っ掻くようにした後、腹に触れ、その時はさすがにひくついてしまったが
臍の回りを指で辿った後、それ以上下には降りてこなかった。


『キミもオレに触れていいんだぜ。』


ボクの手首を掴み、掌を自分の胸に触れさせる。
嫌だ、と手を引こうとするが、許さない。

撫でてみると確かに・・・滑らかで、温かくて。
自分以外の人間の肌にこうして触れるのは初めてで、随分不思議な感覚だ。

気付いたら高の手は既に離れているのに、ボクはその弾力を撫で、楽しんでいた。
高に習って肩を撫で、二の腕を撫で下ろす。
同じ人体でも、他人と自分ではこんなに感触が違うんだ・・・。

ボクがおずおずと彼の体を開拓している間にも、高の手は力を強めてボクに触れ続ける。
慣れというのは恐ろしく、それでもボクは緊張しなくなって来ていた。




しばらくお互いに触り合った後、永夏はボクに俯せになるように言った。


『キミの体を、全部触りたい。』


最早前側は性器以外全ての場所を触られていた。
よもや自分が、他人にそんな事を許すとは。
それでも既にボクは永夏に触れられる事に違和感すら感じなくなっていた。

枕に顔を押しつけて待つと、背筋を中心にして両手で左右対称に触る。
内側から外側に、押しつけるように。
というかマッサージのようで、妙にリラックスする。
慣れもあるだろうが前を触られるより緊張感が少なく、むしろ気持ちが良い、
ずっと触っていて欲しい、とまで思ってしまった。

腰を押さえられた時、あまりに気持ちが良くて押さえた喘ぎ声を漏らしてしまう。
尻を押し上げられるようにしても全然嫌ではなかったし、太股の裏側、膝、ふくらはぎ、
肌が永夏の手を、待っている。

その事に自分で気付いた時愕然としたが、もう、止まらない。

それからまた手は上に向かって移動し、腰から、脇腹に行った。


「あっ・・・。」


くすぐったさに思わず体を避け、横になると


『キミ、ここが弱いのか?』


高がクスっと笑って、顔を近づけ・・・唇で脇に触れた。


「・・・!」


そのセクシャルな感触に、そうだ、高は自分にマッサージを施す為に部屋に呼んだのではない、
と漸く思い出す。


『今度は口だよ。』


ボクの手を取り、指に唇を押しつけた。





高の唇、というか顔は先程手がしたように、体の外側、末端から徐々にその支配地を
広げていく。
既に彼の手ざわりを記憶させられた肌の上に、唇の感触を上書きしていく。

塗り替えられていく・・・。

唇は最後に足に戻り、ボクの足の指を含んで、舌をちろりと出した。


『やめて下さい・・・。』

『どうして。気持ちいいだろう?』


そう、その生まれて初めての感覚は、ボクを悶えさせ、苦しめた。
そして唇が全ての肌を征服したと思えば、今度は舌が・・・。

勿論最初からこんな事をされていたら、絶対に許していない。
恐らく屈辱に、舌を噛んだだろう。

それなのに手を取ることから始まったコミュニケーションは、徐々に、
気付かない程徐々にボクの肌を手なづけ、意識をも溶かし、
ボクは這い回る舌が次に何処に来るか予想し、それを待ちさえするように
なってしまったのだ。


自分が、使いやすいように、あるいは乗りやすいようにカスタマイズされていく
端末か自動車のようだと思った。


舌が冷たい線を残しながら脇腹を登り、胸をちろりと舐める。


精神が、とろけて行く・・・。
もう抵抗する気も失せて、ただただ彼に身を任せる。


今度は反対側の脇を責め、くすぐったさに笑いたいけれど何処か喘ぎ声が漏れて。


高が何処まで望んでいるのか知らないが、今なら何処までも許してしまいそうだ。
だってボクも彼の真似をするように肩を掴み、その腕に唇を付けて・・・。


首筋に軽く歯を立てられた時、痛み以上に快感のようなものが走り。


信じられない。
男と、しかもよく知らない外国人とこんな時間を持っているなんて。

そして自分が勃起しているなんて。








−続く−






※すみませんね、百題も最後の方になると色々上手く行かない事があって前後編です。
  時には優しい永夏。







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