042:メモリーカード(後編)
042:メモリーカード(後編)










高の手は最初のように体の横を撫で下ろし、今度は初めてボクの性器に触れた。
でもボクはもうさほど驚かなかった。

指で先端に触れた後、乾いた茎をゆるく扱く。

他の部分の肌以上に、生まれて初めての他人の手の感触。

しかし高はすぐに手を離して、枕元の瓶から何かを手に垂らすと
手を摺り合わせていた。

物問いたげな顔をしてしまったのだろう、すぐに


『冷たいから。』


と笑って、その指でちょん、とボクの乳首に触れた。
確かにひんやりして思わず腹に力が入る。

その後そのぬるぬるした指で性器に触れられた時もまだ冷たかったが
恐らくマシだったのだと思う。

それよりも、すぐに始められた上下運動にボクは息を呑んだ。


「あッ・・・!」

『どうだ?』

『い、いや、やめてくれ・・・』

『キモチいいだろう?』


気持ちいいのか悪いのかよく分からないが、今まで感じた事の無いほどの波に
体が持って行かれそうになる。
体中の神経と血液がその場所に集まり、勝手に背中が反る。

もう一つの手が、宥めるように顔や首を撫でるが、それすらも下半身を
ビクビクとさせるスイッチのようだ。

徐々に、何か頼りなくて、体が全然思う通りに動いてくれなくて、
どこかに落ちてしまいそうな不安に目の前にあった体にしがみついた。


『高・・・、高・・・!』

『永夏と呼んでくれ。』

『・・・・・・!』


淵が、近づいてくる。
落ちたくないのにどんどん引き寄せられてゆく。


『永、夏だ。』


最後は白濁した頭で訳も分からない間にトリガーを引いてしまい、


『永夏!・・・あ・・・あ、あ・・・。』


躊躇いもなくファーストネームで彼の名を叫ぶと同時に、
ボクは彼の手の中で果てた。






射精後も永夏はボクのものを握っていてくれた。
しばし心地よいたゆたいの後、足に堅い物が触れているのに気付く。

そうか・・・彼も勃起しているのか・・・。

何となくボクも同じ事をお返しした方がいいような気がして、手を伸ばしたが
やんわりと遮られた。


『・・・?』

『イッた後は、少し固いかな・・・。』


足を広げられて、その間に膝を付く。
ボクの物とローションで濡れた指が、下に、ボクの尻の間に伸ばされる。
ぬる、とした感触で穴を触られたが最早抵抗する気は起きなかった。


『汚い・・・。』

『そんな事はないさ。』


更に足をMの字に持ち上げられ、無防備な場所を全て彼の前に晒されて恥ずかしかったが
ただぎゅっと目を閉じた。
ここまで来たら、どんな事にも耐えるつもりだった。

だが彼は、長い間穴の周辺を円を描くように揉んでいる。
どんどん羞恥心が消え、最初とは些か違う意味で「するなら早くしてくれ」と思う。

やがて不意に指が一本するっと入り込んできた。

反射的に力を入れて締め付けてしまったが、その前、確かにあまりに無抵抗に
ボクは彼の指の侵入を許してしまった。


『動かせないよ、塔矢・・・。』

『・・・・・・。』

『さっきみたいに力を抜いて。』


無理だ・・・。
頑張って弛めようとしてもすぐに締まってしまい、締め付けたり弛めたりを
ひくひくと繰り返すことになってしまう。


『いい刺激だけど、それはオレが入ってからにして。』


淡々とした言葉にカァッと顔が熱くなる。
と同時に、やはり最後まで行くつもりなのか、と体が震える。

それでも永夏の指は少しづつ入り込んで来て、中で動き始めた。
口が「あ。」の形に開いてしまう。

自分が、再び勃起し始めている事に気付いたからだ。

指を入れられて、感じている。
おかしいおかしいこんなのボクじゃない、と思うのに、
自分が女の子になったような、倒錯的な快感を否定できない。




やがて指先が、ふと中のどこかに触れた時、ぞくりとした。


『・・・ここ?』


同じ場所を撫でられると、またびくっと足先が震える。
何だろう、この感覚は。

いや、分かる。これは・・・明らかに性感だ。
そんな風に、小刻みに揺らされるように刺激されると、


『気持いいんだな。』


恐らくボクの性器はみるみる内に勃ち上がっている・・・。
強く当たると感電に近いような快感が走る。


『もう一本入れるぞ。』


尻の穴を押し広げられても、もう痛みは自動的に快さにすり替わった。


『もっと声を出して。』


嫌だ・・・それだけは嫌だ。
でも食いしばった歯の間から、息をする度に獣の仔のような頼りない悲鳴が漏れ。

指が、増える。
閉じた目から、痛みと快感で涙が一筋漏れる。

またさっきの所をばらばらと責められ、ボクは性器に触られてもいないのに
射精直前まで追い込まれた。





『塔矢・・・。』


名前を呼ばれてずっと閉じていた目を開く。


『キミの中に、入れてもいいか?』

『・・・・・・。』


そんな事言われて頷けるものか!
それにもう、首を横に振ることなど出来ない状況じゃないか。

ボクは仕方なく、返事の代わりにじっと永夏の目を見つめ返した。

永夏は口だけで一瞬微笑み、指を抜いて、そして自分の物を押し当てた。


『力を抜いて。』

『・・・・・・。』


ずる、と太いものが入ってきた・・・。
痛みよりも尻を犯される快感の方が優ったらしく、ボクはまだ勃起したままだ。


『痛い?』

『・・・痛い。』

『もう少し我慢してくれ・・・。』


もう入ったと思っていたのに、まだまだ奥まで入ってくる。
酷い圧迫感だ。
やっと永夏の腰が尻につき、最後まで入ってしまった・・・と
絶望のような、逆に何故かどこか安堵したような妙な感覚があった。

そして頬に息を感じ、顔に髪が触れて、そして最後に唇に柔らかいものが
押し当てられた。

目を開けると暗くて何も見えなかったので、また目を閉じる。

永夏は何度か唇だけを押しつけた後、口を開けて舌を入れてきた。
ぬめぬめとしたそれを、ボクは当たり前のように舌で受け止めた。





それからは圧迫に翻弄され、永夏が動く度に胃まで迫り上がるような気がした。
けれど前も触られ、体験した事のない厳しい快感もある。

ボクは目を閉じ、痛みの方を雑音としてシャットアウトしようと集中した。

対局前によくする事だ。
目を閉じて、心を落ち着ける。
最初は遠い咳払い、足音、誰かが紙をめくる音、あらゆる音がクリアに聞こえるが
自分の心音に耳を傾けているといつの間にか他の音が全て消えて、
真っ暗い宇宙に独り坐しているような境地に立てる。

今も、あらゆる感覚要素の中の快感だけに心を向けると
自分がもう自分でないような、下半身だけの生き物になった気がしたが
それでいいと思った。

永夏が体を引く、

快感。

入り込んでくる、

快感。

ボクの足を肩に担ぐ、

快感。

永夏の動きが早くなり、腹に擦れる。
痛みが優りそうになり、思わずはっと目を開けると、正面に永夏の顔があった。

無表情か、見方によっては皮肉に見える笑顔を浮かべている顔が印象的なので
新鮮だった。

苦痛に耐えるように歪んでいる、顔。

彼も痛いのだろうか。
と思った途端に、無意識に尻の穴に力が入った。

痛い!

しかし同時に永夏の唇が開いて食いしばった並びのよい歯が見え、
痛みが、恐ろしい程快感に直結する。

その苦しげな表情を見て何故か、初めて彼が美しい顔立ちをしていると思った。




やがて低く呻いて動きを止めた永夏は、ボクの中から出ないまま
勃起したままのボクの性器を扱いた。

ボクは意識を手放したくなるほど長く、深い快感を味わった。







翌朝は永夏の腕の中で目覚め、手が痺れたと顔を顰める彼に苦笑を一つ見せてから
バスルームに籠もった。
手も足も筋肉痛で、どうやってここまで無理な体勢に気付きもせずに耐えていたのかと
また独りで笑い、上からも下からも体の中のものを出した。

少し気分が良くなって熱いシャワーを浴びると、もう全快したような感じがしたが
永夏と交代して部屋に戻るとやはりだるくてまたベッドで休む。

そうこうしている内に朝食の時間になってしまい、ボクは一旦部屋に戻ることは諦めて
このまま行くことにした。




永夏と一緒に部屋から出ると、丁度隣から林日煥が出てきた所だった。
一瞬不味い、と思ったが、慌てると余計に怪しいので何食わぬ顔をして
『おはようございます。』と頭を下げる。

だが林は答えずに少し驚いた顔をした後、ニヤッと笑った。


それからポケットに手を突っ込んで剥き出しの外国紙幣を取り出すと、
一歩近づいた永夏の掌に押しつけた・・・。

永夏もそれを受け取ると片頬で笑った。


『おまえのせいで、負けたじゃないか。』


林が顎を上げて、ボクに言う。
自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
小さな、小さな虫が視界の隅を飛び回る。



『コイツが一晩でおまえを落とせるかどうか賭けていたんだ。
 オレはおまえがもう少し根性があると踏んでいたんだが。』


立っていられなくなって、壁に手を突く。


『まあいい。今晩はオレの相手だぜ。断ったらどうなるか、分かるよな・・・?』


手だけでは足りなくなって、肩でもたれ掛かる。
本当は少しでも早くこの二人から遠ざかりたいが、足が言うことを聞かない。


ボクの手を握った永夏。

安心させるように微笑んだ永夏。

全身を撫で、唇で覆い、舌でその感触を刻みつけた・・・高。


吐き気がしそうになる。


どうしてボクは、男にあんな事を許したのだろう?
今思うと信じられない。
少しづつ慣らされ、言うことを聞いてしまった自分が許せない。
男の前で射精してしまった自分が許せない。

射精させた男が、許せない。




尚も何か言いながらボクの肩に触れようとした林の手を、
しかしその時高が払った。


『触るな。』

『何言ってるんだ?』

『塔矢に触るなと言ったんだ。』

『・・・・・・。』


不可解そうな顔で高を見つめていた林は、やがて高を睨み付けた。
睨みながら唇だけで笑って


『ほう。』


顎を上げて高の肩をとん、と突き、背を向けて去っていった。





ボクが驚いて見上げると、高はまだ険しい顔をしていたが、
気が付いて頬を弛めるとボクと目を合わせる。


『キミはオレが守る。』


短く発してボクの肩を抱く。


『永夏・・・。』


ボクは永夏の胸に額を押しつけ、柄にもなく涙ぐみそうになった。







−了−








※永夏、これにて百題で日本勢完食。(倉田さんは枠外)







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