肩越し2








「遅いな・・・二人とも。」

「ああ・・・。」


何度も繰り返したイケナイ遊びに、だんだん女の子達がのめり込んでいった。

あかりとデートしていても、塔矢の話がよく出るようになって来て。
塔矢のきれいな体を褒める。終わった後の品の良さを褒める。

もしかして、オレより塔矢の方が好きになって来た・・・?
と疑ってたら塔矢の方も同じ様な状況らしく、かの子さんの口からオレの名前が出る回数が
どんどん増えてきたらしい。

けれども勿論オレ達はお互いの相手を取り替える気なんて全然なくて、
それでも求められるままにこんな密会を繰り返して。

4人で裸でいたら、いつか塔矢があかりと、オレがかの子さんとしてしまう日が
来てもおかしくないだろうけど何故かそんな気は全くしなかった。

だってオレ達はもう、満たされている。
正直オレのベクトルは・・・常に塔矢に向いていて。
塔矢とこういう関係になれただけで、十分なんだ。
口に出さないけれど塔矢もそうなんじゃないかという気がする。

そんなのあかりにもかの子さんにも悪いし、いい趣味とは言えないから
オレも塔矢も一生誰にも言わないだろうけど。

彼女たちは二人ともタチが悪い方じゃないから、そんなオレらを無理矢理煽って
自分を抱かせたりはしないだろう。




「・・・自分で呼び出しておいて、何してんだアイツ。」

「かの子も・・・遅いね。一緒に来るのかな?」

「彼女ら、結構仲いいの?」

「知らないのか?偶に会ったりしてるみだいだよ。」

「そう。」

「うん。」


あかりが指定したホテルに、オレ達は呼び出された。
丁度塔矢と同じ手合い日だったから、仕事帰りに一緒に来たけれど
男二人でこんないかがわしいホテルの門をくぐるのは、恥ずかしかった。
そして・・・ちょっと嬉しかった。


「・・・・・・前から思ってたけどさ。」

「?」

「おまえ、かの子さん呼び捨てにするんだな。」

「おかしい?」

「何となく・・・イメージ合わないかなって。それに呼び捨てにしづらい雰囲気の人だし。」

「そうだね。最初は僕もさん付けで呼んでたんだけど、彼女に言われたんだ。」

「かの子って呼べって?」

「うん。結構封建的なご家庭のようだ。」

「ふ〜ん・・・。おまえに、似合いだな。」

「そうかな。」

「うん。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


スプリングの効いた柔らかいベッドに並んで腰掛けていると、妙な気分になってくる。
だってただの・・・友だちとは、ちょっと違うだろ?オレたち。

ホントは先にシャワーでも浴びたら時間に無駄がなくていいんだろうけど
オレ達には出来なかった。
女の子たちがいない所でお互いに肌を曝すのは・・・怖い。


「・・・遅いな。」

「うん・・・。」


間が持たないな、と思ってた時、オレの携帯がけたたましく鳴りだして、二人ともぎょっとした。


・・・ピ。


「もしもし?」

『あ、ヒカル?』


聞こえてきたのは、幼なじみの押し殺したような声。


「おせーよ。今どこ?」

『ごめん!今・・・かの子さんと一緒なんだけど、ちょっと事情が出来て・・・すぐには行けない。』

「え?・・・何やってんの?」

『説明は、あと。』

「え?何かヤバい事になってる?どこ?今すぐ行くよ。」

『大丈夫!それは絶対大丈夫。』

「おい?」

『一時間後・・・一時間後にかの子さんと一緒に行くから、そこで待ってて。』

「お、もしもし?」

『絶対だよ?』


囁くような小声で一方的にしゃべった後、ぶつ、と電波が途切れた。
慌てて掛け直したけど、既に留守番サービスに変わっていた。


「あかりさん?」

「うん・・・。」

「何て?」

「遅れるって。一時間後にかの子さんと来るって。」

「え、どうして?」

「さぁ。それがさっぱり分からないんだ。」


小声でしゃべってたのがちょっと気になったけど、待てと言われた以上待つしかない。
闇雲に探しに行っても入れ違うだけだ。
心配は心配だけど、塔矢まで不安にしたくなくて、オレは軽い口調で、まあ目隠し碁でも
やりながら待つか、なんて言った。


「そう・・・あと、一時間も来ないんだ。」

「うん・・・。」


お互いに気詰まりなのは分かる。
こんな・・・部屋で、二人きりの一時間。


「・・・じゃオレから行くぜ。16三。」

「17の十六。」

「3四。」

「17の五。」


気詰まりだからと言って、それを表に出してしまったら終わりだ。


「17九。」


言いながら、今まで何百、何千というカップルがこの上でヤッたであろうベッドに
敢えて何気なくぼすっ、と横たわった。


「13の三。」


塔矢も、そっと横たわる。


「15四。」

「10の三。」

「17四。」

「・・・・・・。」


言葉が途切れて、この段階で考え込んでるのかな?と思ったら、
投げ出したオレの手に・・・そっと温かいものがかぶせられた。


「・・・・・・。」


ヤバい・・・。
塔矢に手を重ねられただけで、動悸が一気に激しくなった。

どき、どき、どき、どき、

こめかみが脈打つのを押さえたくて、ぎゅっと目をつぶる。

そしたら、最中の塔矢が、裸の塔矢が鮮明に頭に浮かんで、余計に息苦しくなる。

はぁ、はぁ、って酸欠みたいにせわしない呼吸。
聞かれたくなくて、気道を広げるために大きく口を開ける。


「・・・進藤・・・。」


塔矢の低い声が、怒ってるみたいでちょっと怖い。


「・・・そんな手、ないぜ。」

「分かってるだろう?」


分かってるって・・・何て言えばいいんだよ!
何が分かってるって?答えられる筈ないだろう!


「やめよう。」

「どうして。」

「だって・・・。」


だって、そんなのダメだもん。
違うもん。


「5の十七。」


・・・ずるい。

オレが頬を膨らませると、隣の塔矢がクスッと噴き出した。

その笑顔があんまりきれいで。
あまりにも・・・。

だから、吸い込まれた。
気が付いたらその唇に、自分の唇で触れていた。

一生の、思い出だと思った。





一瞬だけ触れた唇はすぐに離して、オレ達はまた仰向いて寝たけど
今度は重ねたままの指を、絡めた。

指相撲でもするようにお互いに握り合ったり押し合ったり、力を抜いて人差し指だけで触れ合ったり。
天井を見つめたまま、強く、弱く、優しく、激しく、指だけに全神経を集中して
まるで指でセックスしてるみたい。

こんなの、初めてだった。
最初に女の子とヤッた時、どうだっけ?
多分こんなんじゃなかった。がっついてて、記憶がない程。
もっともっと、って。一刻も早く最後まで行きたくて。

でも今は、違う。
ゆっくりゆっくり時間を掛けて、端っこから肉一片も残さず食らいつくして
味わい尽くして行きたい。


・・・どこへ?


行かないよ、どこへも。
だって塔矢だもん。
今絡めてる指も、友だち同士でふざけてるだけ。
セクシャルな意味なんてありはしない。

そういう事に、しておこうよ・・・。





・・・カチャ。


?!



急に部屋の隅で物音がして、オレと塔矢は跳ね起きてベッドの上で後ずさった。


「あかり?!」

「かの子?!」


何とバスルームから、あかりとかの子さんが現れたんだ!


「なっ、な?何やってんの?」

「ここのバスルームのドアって、明かりを点ける方によって両面マジックミラーになるの。」


え?!え?!だから?


「隠れてオレ達の様子見てたの?趣味わりぃ!」

「ごめんね。」


申し訳なさそうに首をかしげて、ただ顔の前で手を合わせるあかりに、
オレは怒れなかった。

指・・・見られたかな。
つか、それ以上の事してなくて良かった・・・。
あ!キスしたじゃん!
あれくらいならふざけてって言えるか?言えるよな?短かったし。

なんて頭の中は後ろめたさ爆発で。
覗き見してたのを咎める事すら忘れてたんだ。


「てことは、さっきの電話はそこから?」

「そう。」


何やってんだよ〜って、笑うしかなかった。
何かの冗談だと言うことにして欲しかった。

じゃなかったら、理由を問い詰めて、塔矢とオレの事疑ってるだなんて言われたら
どうしたらいいんだ?

何もない、何もないけれど。
だけど。


オレ達は何事も無かったように、塔矢とかの子さん、オレとあかり、の順でシャワーを浴び
酒を飲み始めた。






−続く−







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