肩越し3 終わった後あかりが、ねぇ、ねぇ、としゃべりかけてくる。 眠いしな〜と思って聞こえない振りをしていたけれど、答えるまでやめるつもりはないらしい。 「ねぇ〜、ヒカルぅ。」 「ん〜?」 あかりは酒に弱い。 舌足らずな言葉に、オレも寝ぼけた声で答える。 「ヒカルってぇ。」 「ん〜。」 「塔矢くんの事、好きなんでしょ?」 「・・・・・・。」 オレもまだ酒が回ってるのか、頭が回転しなくてすぐに反応できない。 それが幸いした。見苦しくあたふたしなくて済んだから。 勿論肯定するつもりなんてない。 「ん〜とね〜、それはねぇ。」 「そしてアキラさんは、進藤さんを、なのね?」 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 言い逃れを遮る落ち着いた声に、一気に酔いが醒めた。 塔矢も息を詰めて、じっと彼女の顔を見る。 「えっと・・・どういう、意味、かな?」 かの子さんは答えずに目を伏せて、くすりと笑った。 終わった・・・と思った。 バレてる。何もかも。 オレ達にとってさっきのキスがどれ程の重さだったか。 絡めた指で、ナニをしていたのか。 でも。 あかりの表情にもかの子さんの顔にも特に変化はない。 取り敢えず怒っている訳でもないみたいだったから笑った方がいいかと思って、 オレはへら、と顔を崩した。 かの子さんもにっこりと笑った。 それをきっかけに誰からともなくげらげら笑い出したオレ達は全員、 やっぱり酔っていたのかも知れない。 あかりがまた、酒を出してきた。 「好きならぁ、やっちゃいなよ〜。」 「ええ〜?」 まだ好きだなんて言ってねぇじゃねーかよー。 「さっきだって折角機会作って上げたのにキス止まりなんだもん。」 「え、そうだったの?」 バスルームで息を潜めて、自分たちの彼氏同士がヤるの見るつもりだったの? 本当に趣味が悪い。 「しないよ〜。オレ達は、そんなんじゃない。」 「うそつき。」 ウソじゃない。 もしオレが男と寝る事があるとしても、塔矢だけはダメだって思う。 どれだけ欲しくても、手を伸ばしてはいけない果実ってのはあるんだ。 塔矢も多分同じで、それだけでもう満足なんだ。 だから、やらない。 でも悦に入ってうんうんと自分に頷いていたその時。 ひんやりとした感触に手首を掴まれて、ぞくっとした。 横たわっている塔矢の肩越しに、その向こうにいるかの子さんが手を伸ばしてきている。 彼女がオレに触れることはほとんどない。 いや、こんだけ見せ合っていて、実は初めてかも。 「あの・・・。」 ぐい、と予想外の力で引かれて裸の塔矢の上に倒れ込んだ。 不意を突かれた塔矢が、ぐ、と呻く。 「おい!重いだろう!」 「や、だって!」 言いながらも・・・初めて触れた塔矢の体温から、オレは離れることが出来なかった。 合わせた胸と胸がお互いにどきどきとして、そのぴく、とした動きに 気が遠くなりそうになる。 何も、何も考えられなくなる。 男にしては肌理の細かい皮膚、どろりとした官能の沼に足を取られたのが分かった。 早く、早く逃げないと、これは底なし沼だ・・・。 「やっちゃいなよ。」 心の中では必死に踏みとどまっていたつもりだけど、あかりに文字通り背中を押されて あっさりと突き落とされた。 ・・・もう。 もう・・・、止まれない。 どこまでも、沈んでゆく。 「進藤!キミは・・・!」 人前で、なんていうなよ。 さんざんお互いの目の前でやりまくった間柄だろ? もうさ、ダメなんだ、歯止めが効かないんだ、 抵抗する肩を押さえて、首にかじり付く。 汗でうなじに貼り付いた髪の毛ごと、舐め上げる。 「キミが・・・上か?」 思わず顔を上げて、びっくり目のまま塔矢と見つめ合ってしまって。 それからまたどちらからともなく笑い出して、オレは塔矢の首を抱えて体勢を入れ替えた。 信じられない。 あの塔矢の体が、オレの上にある。 獣みたいな顔で、腰を摺り合わせて揺らしている。 コリコリして、べたべたして、ぐちゃぐちゃと嫌らしい音がして、 今すぐいきそうなのに馴れない動きはもどかしく快感を外す。 気が狂いそうに焦らされて、それでもオレは信じられない程幸福だった。 こんな事になってしまって、この先どうしたらいいのか分からない。 それでもそんな事どうでもいいやと思えるほどの、恍惚。 今までどうしてしなかったんだろう、だなんて首を傾げたくなる。 やっぱり酔っていたからかも知れない。 少しづつ押されていた体はベッドからはみ出していたらしく、反らした頭は 支えを失って空中にぶら下がった。 その先に、逆さまのあかりの顔があった。 オレがぐらぐらと揺れると、あかりも揺れる。 何とも言えない表情をしている。 幼い頃からずっと一緒だけれど、今まで見たことがない表情だ。 快感に薄れそうになる意識を必死で呼び覚まして、その目を見続ける。 どうしてなんだかは分からない。 ただ、目を逸らしちゃダメだって思った。 あ・・・か・り・・・。 口が上手く動かない。 喘ぎで、声が出ない。 その内に鼻柱の方から流れてきた汗が目に入って滲みて、 オレは諦めて瞼を閉じた。 塔矢がいつイったのかは知らない。 気が付いたら汗びっしょりな塔矢に乗られていて、 お互いの腹の間はねとねとと濡れていて、 離れたら糸ひきそうだと思ったら、体を離すのが嫌になった。 物音がして、顔を横に向けたらあかりとかの子さんは既に服を着て鞄を手に持っている。 「じゃあ・・・私達は行くわね。」 「あか、り・・・。」 今度は声が出た。掠れていたけれど。 何か、何か言ってくれないかと思った。 今回のことはイレギュラーで、これからも今までと同じようにオレと付き合って、 また4人で会って、そういう風にしてくれるのか。 それとも、もう・・・オレ達は、終わりなのか。今日が最後だったのか。 どちらでもいいから、今後の方向を決めて欲しかった。 あかりが、かの子さんがオレ達のことをどう思っているのか、知りたかった。 けれどあかりはニコリとどうとも取れる笑顔を見せて、背中を向ける。 あかり・・・あか・・・。 「行こう、『かの子』。」 ・・・オレ、今まで逃げてきたけれど。 塔矢とのこと、ちゃんと考えなきゃな、と思った。 −了− ※あかりとかの子さんが出来てるかどうかは分かりません。 |
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