狐惑





※こちらはイカ頭さんに頂いたリクエストによるSSです。
  今回はイレギュラーに、リク内容から。 


「姫アキラさんと嫉妬に悶える進藤さん(無論アキラさんへの愛故にですよ?)」

捻りが無いかもしれませんが、やはり真の欲求は常にシンプルなものであると。
アキラスキーなヒカアキストの本能的欲求・・・。
アキラスキーはやはり、進藤さんを翻弄するアキラを見ることに無上の喜びを感じてしまふようです。・・・

・・・リクの内容は恐らく「のどあめ」その後でジェラに唇を噛締める進藤さんの姿を見れなかったことが
よほど尾を引いているようです。
っちゅうかその時に「ああ、私が今、キリリクできたなら間違いなくリクするのに・・・!」
と思ったのを覚えとります。
今はそん時の執念は少し浄化されたようですが。
でも、「のどあめ」その後である必要はないですよ〜。お話の内容はお任せいたしやす。



との事です。
そして念押し。


「根性が姫なアキラさんと嫉妬に悶える進藤さん(念を押しますが、アキラさんへの愛ゆえですよ!)の
ラブストォリィ(ここ強調)」



ラブストォリィ強調の為にわざわざもう一通下さいました。ありがとうございます。
恐らく私がラブ話苦手だからですね。
ちょっと弱りましたが、被支配民なんで唯々諾々と従うしかありません。
頂いた「のどあめ続き」と多少被るのは許して下さい。
てことで、以下。







狐惑







多分、何でもない。何でもないんだ。
だって塔矢は韓国語が話せるし、今日の日煥との対局は横で見てても凄かった。

だから、対局が終わった後のレセプションで日煥と親しげに話していても、不自然じゃない。

はずなんだ。

なのに、オレは塔矢と日煥から、目が離せない。




日煥が後ろから塔矢に何か言ってる。
言ってるというよりは、耳に囁きかけている。きもいっての!

塔矢は答えていないように見える。
伏し目がちのまま日煥の方を見ようともしないので、日煥はますます顔を近づける。
ちょっとは避けろよ。

だってそうじゃないと、まるで、まるで、

女を口説こうとしている男と、それが満更でもない女みたいじゃん。


変だ。そんなの。




しばらくして安太善が二人に話しかけに行った。
塔矢も顔を上げて、愛想良く対応している。

どうせオレには韓国語は話せないよ。
話せたって敵チームと仲良くおしゃべりなんかしねえけどな。

塔矢が安太善と話している間も、日煥は塔矢のボディガードか何かのようにその後ろに立っている。
安太善の手前か、さっきと違って塔矢が時折後ろを見上げて何か言う。

その喉が、白い。
どうしてこんなに首筋に目が行くんだ。
塔矢なんて見慣れてるはずなのに。
襟元が開いた服を着ている訳でもないのに。

ああ、そうか。

塔矢が誰かを見上げるなんて事が、ないからだ。
普段は見上げる程誰かの近くに寄ったりしないからだ。

緒方さんと話す時だって、あんなに近づかないから、あそこまで見上げる必要はない。

どうしてどうして、そんなに近いの。

白い首を曝したまま、塔矢は微笑む。
後ろの髪の毛が、スーツの肩に触れて、さらさらと立てる音が

オレにだけ聞こえる。






「進藤くん?」

「あ、はい。」


安太善が去った後も、日煥は塔矢から離れなかった。
また二人きり。


「だからね、我々は大いに期待している訳ですよ、日本の若手には。」

「はい・・・。」

「私は碁の事はほとんど分からないが、今日の大盤解説を聞いていて・・・。」


北斗システムの多分関係者のオヤジの肩越しに、塔矢が身体を半回転させたのが見える。
日煥に・・・もたれ掛かってるみたいに見えるのは。
気のせい?


「私でもそう思った位だから、一般の囲碁ファンだって・・・」


何かおかしいよ、人前で誰かに触れるなんて。
用があったら口で言うじゃん。
ふざけてなくても、肩に手を置くことすらしない、させない、
それがおまえじゃん。

しばらく見ていると日煥がやっと塔矢から離れた。
塔矢は少し持て余したように、一人で立っている。
そして、何気ないようにオレの方を見た。
目が合って、少し笑った。
オレは、心の中で目の前のオヤジを殴るための拳を作って握りしめる。

・・・今すぐ塔矢の元に走っていきたい。


「あの、」

「ああすまないね。長いこと引き留めて。まあそういう訳で、来年の・・・」


・・・ああくそっ。日煥が塔矢の所に戻ってきた。
手には何か飲み物。

塔矢は受け取って一口飲んで、顔をしかめて返した。


「我々は大いに期待している訳ですよ、日本の若手には。」


おっさん!話がループしてるよ!
お願い。早く終わらせて。

その時。

・・・日煥が、塔矢の肩を抱いた。
塔矢は逆らわずに、身を委ねている。

身を。

どうして。


コリ。
小さな音がして、口の中に塩辛い鉄の味が広がった。
知らない間に、唇の内側を噛みしめていたらしい。

塔矢は日煥の腕の中でうっとりとした顔のままこっちを見て・・・

そんなオレをあざ笑うかのように、僅かに唇の端を上げた。ように見えた。



「では、塔矢くん、社くんと共に精進して下さい。」

「・・・ありがとうございます。」


目の前のおっさんの話は全然耳に入ってなかった。
でも一区切りついたらしく口を閉じて、ふとオレの視線の先に気付いて振り向く。

丁度日煥の手が塔矢の肩から離れていて良かった。
おっさんと目が合ったらしく、塔矢が微笑んで小さく会釈する。

おっさんも頷いてこちらに向き直り


「進藤くんも外国語を覚えてもいいかも知れませんな。
 ああやって国際親善にも一役買える。」


国際親善?アレが?

また見ると日煥が・・・今度は塔矢の頬に触れた。
周りを伺うように少し見回して・・・そしてオレと目が合った。
鋭い、目。

しばらくお互いに無表情のまま視線を合わせていたけれど、
やがて日煥が目を細め、視線を切って塔矢の顔に目を戻す。

大きな手が見上げた塔矢の頬を包み、指先が耳に触れた。

信じらんない。どうしてそんなこと許すの。
親指に力を入れたのか、塔矢の目が少し開かれ、顔と顔が触れるほどに近づき・・・。

そこから先は日煥の頭に遮られて見えなくなった。



・・・何やってんだよっっっ!公衆の面前で!



誰も気付いていない、気付いているのはオレだけ?
見ているこっちの顔が熱くなる。

かっこ悪いよ。
ねえ。塔矢。
やめなよ。
早くその男を突き飛ばせよ。

でも塔矢は動かず、日煥は何も無かったかのように顔を離して、その耳元に何か囁いた。
塔矢がまたこちらに顔を向ける。

いつもの厳しい表情に似合わず、よくわかんないけど、多分「婉然」って言葉がぴったりの
微笑み。
そんな顔で

この会場中の男を、誘惑するつもりか?



頭がくらくらする。

塔矢。塔矢。どうして。どうして。



「どうしたね。気分でも?」


目の前の男が、心配そうにオレの顔を覗き込む。


「いえ。」

「まあ今日は疲れただろうから、ゆっくり休んで下さい。」

「はい・・・ありがとうございます。」




最後にありがたい言葉を残して、おっさんがやっと去ってくれた。
オレはすぐに塔矢の方に足を向けて・・・そして固まった。



信じられない光景。



塔矢が日煥を正面から見上げている。
軽く開かれた唇から、舌を突き出して・・・少し動かした。


下品な・・・下品な誘惑。



きが、くるいそう。


そんなの、全然塔矢アキラじゃないじゃん。


娼婦。



そんなおまえ、見たくない。
日煥と、何があったの。

そんなに日煥はヨかったの。



・・・ダメだよ、そんなの。
オレだけの、オレだけの塔矢でいて。

オレだけの、ものになって。

ゆるさない。そんなの。



そのまま塔矢の舌に日煥の舌が絡むのかと思ったけれど、
さすがにこの会場では躊躇われたのか、日煥は塔矢の肩を抱いて出口に向かった。

オレは、ゆっくりと後をつけた。







エレベーターに乗った二人を見て、オレもすぐに別のエレベーターを呼んだ。
迷わず階数ボタンを押す。

運良くどこにも止まらずに到着して、エレベーターホールから顔を出すと、
やはり二人は塔矢の部屋に入る所だった。


ぱたん。

音もなく、空気を震わせただけで閉じられるドア。
オレはその前まで行って、
しゃがみこむ。


10秒・・・・・・。20秒。1。2。3。


オレは立ち上がり、ドアをノックした。







ドアを開けたのは日煥だった。
そのまま突き飛ばすように中に入ると、塔矢がベッドの上で身を起こして驚いた顔をしている。

上着は既に脱いで椅子の背もたれに掛けられていた。
ネクタイも弛められて、ワイシャツのボタンが外されている。

何回ヤったら、気が済むんだよ。

オレは背後から近づいてきた日煥に振り向きざま拳で殴りかかった。
日煥はあっさりと避けて、オレの手首を掴む。

何て馬鹿力。

この力で、塔矢を犯したのか。
そうでなければ、あの誇り高い塔矢がこんなに簡単に、


手を掴まれたまま、涙が滲みそうになる。


「出てけ・・・。出て行けっ!」


睨み上げてオレが叫ぶと、日煥が塔矢に向かって何か言った。
塔矢が韓国語で返すと、不満そうな顔をした後、
オレに顔を近づけて歯を剥き出し、何か言った。
獣みたいだ。

オレも歯を剥いて睨み返した。






日煥が出て行った後、塔矢を向き直ると、ベッドの上で横たわったまま
にやにやと笑っていた。


「で。どうしたんだ?進藤。」


塔矢。おまえ、いつの間にそんなに下品な男になったんだ?
おまえを変えたのは、アイツか?

なら、いいよな?
オレも変わっても。


獣になっても。






オレが黙って上着を脱いで隣のベッドに放り出し、ネクタイを取っても、塔矢のにやにやは
止まらなかった。

オレには出来ないと思ってる?

日煥みたいな真似は。


上からのし掛かると、初めて笑いが消えた。


「ちょ・・・進藤?!」


制止する声に構わず、ベルトに手を掛け、シャツを捲り上げる。


「進藤・・・進藤。」


本気で抵抗する気なんてないくせに。
だって、本気なら、いくら何でもこんなに好きにできないよな。

男が欲しいんだろ?
誰でもいいんだろ?

なら、オレがいつでも埋めてやるから、


だからどうか、もうほかのだれのものにも、ならないで。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





無我夢中の時間が過ぎて、気が付いたらオレの下で塔矢がぐったりとしていた。
ベッドカバーは血まみれで。
あ〜、こりゃ弁償しなきゃな。


・・・てゆうか。


「塔矢・・・?」


塔矢が顔を顰めながら薄目を開けた。
目尻にまだ涙の跡がついている。


そうだ。
塔矢、泣いてた。
本当に、痛がっていた。


「・・・・・・塔矢。もしかして・・・初めてだった?」


だとしたら、オレはなんてことを。


「・・・当たり前だ!」

「・・・・・・。」




頭が、混乱する。
だってだって、あんなに日煥と。

肩抱かれたり、顔を触らせたりキスしたり、
あんな濃厚な、有り得ねえじゃん、肉体関係でもないと。


「キスなんかしてない。ボクが気分が悪いと言ったら、風邪じゃないかと目の下や
 舌を見てくれただけだ。彼はお父上が医者らしいから。」

「・・・・・・。」


そんな・・・。
全部、オレの、勘違い?


確かに、男二人が多少親しげにしていたからといって、すぐに肉体関係があるだなんて
勘ぐるのは凄く変かも知れない。
いや、塔矢じゃなかったら、きっとそんな事思いもしなかった。

自分が、塔矢に肉欲を持っているから。

だから、そんな風に見えただけなのか・・・?


全部、原因はオレにあるのか?
オレのせいなのか・・・・・・。



そんな。



オレは呆然としたまま、彫刻のように固まってしまった。






塔矢は横たわったまましばらく天井を見ていたけれど、やがて目を閉じた。
そして口元で・・・くすり。小さな笑い。

物凄く驚いた。


「凍るなよ。」

「・・・・・・。」

「・・・日煥に気分が悪いと言ったのは、嘘だよ。」

「どう・・・して・・・。」

「分からない?」


分からない。
なんでそんな嘘を?
日煥を心配させるような事を?

・・・オレを嫉妬させるような事を。


いやまさか、オレを嫉妬させる為?
バカな。


「・・・キミがボクを好きだっていうのは、知ってた。」

「う・・・そ・・・。」


顔からさあっと血の気が引くけれど、でも思えばここまでやっておいて、今更だ。
血まみれの、ベッドカバー。

塔矢は目を開けて、流し目でオレを見た。
そんな誘う目で、傲慢に笑う。


けれど。

あ・・・れ・・・?

この世に自分の思い通りにならない事なんてない、そんな顔をして。

だけど。



「・・・ボクが、どれ程待っていたのか気付かなかったのか?」

「・・・・・・。」

「キミがあんまり怖がりだから。」

「・・・・・・。」

「キミが・・・あまりにも優しいから。」

「・・・・・・。」

「気が狂う程、苛々したよ。」



・・・目尻から流れる、一筋の水。



塔矢が目を逸らした。

頭の横に手を突いて、至近距離で覗き込む。
目が一瞬合って、揺れてそして逸らされる。


「塔矢・・・。」


囁くように呼びかけると、また目を閉じて。

そうだよ。
オレは日煥に嫉妬したんだよ。
そうじゃなきゃ、こんなに大それた事出来なかったよ。

・・・おまえの狙い通りに。

この世に、おまえの思い通りにならないことなんて、きっとないよ。

だから、おまえが欲しかった言葉を、あげよう。



「おまえの、勝ちだ。」


「オレ、ずっとおまえが、好きだった。」




塔矢は瞼を閉じたまま、小さく微笑んだ。






−了−







※当初の形からラストがえらく変わりました。(笑)
  こちらで如何でしょうか?

  イカさんの「のどあめその後」のパラレルでもあります。(えへ。ゴメン無断で)(「のどあめ」とは無関係。)
  イカさん、申告&アキラスキーらしいナイスリクありがとうございました!

  で、今回は出来ればイラも、という事だったんですが、今ツールが使えないのを言い訳に
  しょぼしょぼイラで許して下さい。センスもクソもなくてゴメ・・・。

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