胡蝶之夢
胡蝶之夢








とても痛い夢を見たんだ。



対局してたら何か塔矢がすんごく怒っててさ、碁盤投げつけて来やんの。
しかも足つき。思わず逃げた。びびったー!

当たったら死ぬって。

その後、何故か場面が変わって、今度はオレがスイカ割りのスイカにされてて、
目隠しした塔矢が角材を振りながら近づいてくる。

こえー!

でもここまで来るとさ、オレも自分で夢だな〜って分かって、
何でオレが塔矢にこんなに痛い目に合わされるのか分からなかったんだけど、
それはきっと現実とリンクしてるんだろう、と思った。

そして、それはオレも望んだ事なんだろう。

だから、甘んじて、塔矢の鉄拳を受けることにした。

だけど痛かった。ホントに頭が割れるくらい。








・・・ぱち。

ぱち。



さっき投げつけられたはずの、碁盤の上に石を置く音がする。

ふうっと、意識が浮上する。

ああ、いやな夢を見ていた・・・。
痛かったよ。本当に。


ぱち。


あ、違う。石を置く音じゃない。
気が付くと進藤が寝ているボクの爪を切っていた。

どうやらボクは進藤になった夢を見ていたらしい。



ぱち。


進藤がそうっとボクの指を摘んで、爪切りを近づける。
人に爪切って貰うのって何年ぶりだろう。
進藤が、お母さんのようだ。

くすぐったいな。
でも、嬉しい。
だって、なんだかとてもセクシーだ。

爪切って貰ったり、耳掻きして貰ったり、
好きな人の前でこんなに無防備になれるのは、きっと凄くキミを信用しているから。


・・・ぱち。


っっっつ!!!


「あ、ゴメン。痛かった?」


痛いなんてもんじゃない!深爪!!!
血、血が、


「出たな。ゴメン。でも・・・。」


ぺろりと指を舐める。
突き出した進藤の舌が、ボクの血に染まる。


「オレはもっと痛い思いを、したんだぜ?」


・・・忘れてた・・・。
そうだ、ボクは夕べ進藤を、無理に。


ボクの目を見つめながら、また唇の間から舌を出して、指の傷に這わせる。
それはそれで色っぽくて、ぼうっと見ていたら白いエナメルの歯を少し覗かせて
軽く歯を立てられてもその痛みすら、甘かった。


「すまない。あの、やっぱり、痛かったんだ・・・?」

「・・・・・・。」

「でもボクは、本当に、本気でキミの事が、」


ガッ!


聞きながら一瞬目を怒らせた「塔矢」が、次の瞬間黒犬になっていた。
これは、塔矢の飼っている、
犬をけしかけるほどオレを怨んで・・・?








涙が流れて目が覚めた。

隣の布団には、塔矢がすぅすぅと寝息を立てていた。
そうだ、地方に仕事に来ていて、同じ部屋になったんだった。

塔矢、犬なんか飼ってないよな。
ああ・・・夢で良かった。

確かにオレは塔矢が好きだけど、好かれてもないのに無理矢理抱くなんて、嫌だ。
それで塔矢に嫌われたりしたら元も子もないっての。

・・・てか。あれ?オレ、途中まで塔矢になってたような。
だからって塔矢になって自分を抱くなんて我ながらキモい思考回路だな。
どうなってんだろ。



まあ、いいや。

そっと涙を拭い、布団を出る。
塔矢寝顔を覗き込もう。

障子越しの薄明かりに・・・なんてキレイな、顔。
流れる黒い髪。
睫毛も真っ黒い。

起きている時って、ついつい眼ばかりに目が行っちゃって、
あんまり顔の他のパーツって見られない。

おまけにコイツ結構勘鋭くて、横顔とかこっそり見ようと思ってもすぐ気が付いてこっち向いて、


「何か用か。」


って寄って来るんだもん。
そんな時はどきどきしちゃって、ついつい「別に。」とか「後で打たない?」とか
そっけなく答えちゃって。

塔矢と打つのは凄く楽しいし幸せだから、打ちたいってのも嘘じゃないんだけど、
本当は、ただオマエの顔を見たいから見てたってのが正解で。

それを言ったらどんな反応するのか凄く気になる。
きっとコイツなら、そういう意味で気持ち悪いとか思わないだろう。
そんなトコ、結構鈍そうだから。
でも、言わないけどね。




「何か用か。」


え。
わーっ!起きたのかよ!やべっ!


「いや・・・ただ見てただけ。気にしないで寝てていいよ。」


って、オレも寝ぼけてんのか?考える前にさっき思ってた事そのまま言っちゃうし。


「なんだ。気持ち悪いな・・・。そんなに見られてて寝られないよ。」


塔矢も起きあがって、布団の上に正座する。
気持ち悪いってっても案の定、ホモが気持ち悪いとかじゃなくて、
オレの意図が見えないのが気持ち悪いって感じだった。
見えたらもっと気持ち悪いんだろうな。

正座して、向かい合ってて、それで間に碁盤がないなんて、とても珍しいシチュエーションで。
好きだと言うなら今しかない、って感じだけど、勿論そんな事言えるはずがない。
オマエに嫌われる位なら、オレは一生この気持ちを言わない。
だから、口をついて出てくる言葉は、またそっけなくて。


「寝ないの?」

「目が覚めてしまったよ。」

「そう。オレは、眠い。」


本当に眠いんだ。夢見が悪くて目が覚めちゃっただけで、まだ全然睡眠時間足りない。
だから、こうやって、
オマエの膝の上に倒れ込んだのも、許して。


「おい!進藤。」


だって、眠いんだもん。


女の子同士でも膝枕なんかしないだろう。
男同士でこんなことやったら変だと思うよ。分かってるよ。

でも、オマエが優しいから。
きっと凄く戸惑った顔してるんだろうけど、オレが寝ぼけてると思って許してくれているから。

もうすこし、このまま・・・。





沈みかけた意識が、地殻変動で浮上した。
いや、塔矢が膝を崩したんだ。


「ん・・・・・・。」

「さすがに足が痺れてきた。」


へえ。オマエでも足痺れたりするんだ。
オレも碁を始めた頃は大変だったけどね。


「人の頭を膝に乗せたままこんなに長時間正座したのは初めてだからね。」


ったりめーじゃん。
他にこんな事する奴がいたら、許さねえ。

でも、膝の位置が低くなって寝心地は良くなった。
これって、胡座、じゃなくて横座り?
うわあ、いいなぁ。これ。
そうか、胡座かいたら股広げる事になるし、それって塔矢アキラに似合わねぇよなぁ。

で、もしかしてオレ塔矢の内股に頭乗せてたりして、オレの鼻先何センチかに、
その、オマエのモノがあるとか、言うわけ?

もうちょっと顔を近づけ・・・なんてのはあまりにあまりというか、変態っぽいな。
さりげなーく、触ったりしたら、ダメかな。
ダメだよな。
寝ぼけてるならともかく、今触るのは不自然極まりないよな。

いや、寝ぼけたフリして、ってどうだろ。
無理・・・っぽいよな。
オレも演技下手だし、コイツも鋭いし。
今度こそ本当に気持ち悪がられるぞ。


それでもオレはガマンできずに、塔矢の腰に手を回して引き付けた。

途端に塔矢に頭を押しやられた。
さすがにそれは許してくれないか。

でも、その前に一瞬、頬に、少し、


「オマエ、もしかしてちょっと勃ってる・・・?」

「な・・・・・・!」


塔矢がいきなり立ち上がって、オレの頭はごろんと転がされた。
しまった・・・オレ、塔矢アキラになんてこと言っちゃったんだろう。


「そ、そんなわけないだろう!」


背を向けて肩を怒らせる。
そうだよな・・・。オレや和谷ならふざけて済ませられる会話でも、コイツには無理だ。
下ネタで笑う塔矢なんて想像つかないし、それって塔矢じゃないし。
でも・・・


「な、なに顔触ってるんだ!」

「いや・・・さっき当たった感触・・・。」

「ふざけるなっ!」


いやオレがどうとかじゃなくて朝なんだから仕方ないよ、って思うけど、
コイツはそういう自分すら許せないんだろうな。

そんな、潔癖な所も好きなんだけど。

このままじゃ手も出せないよ。
オレも勃ってるって分からせたら、ちょっとは機嫌も直るかな。
それって気色悪いかな。

でもさ、後ろから、抱きしめたり、してもいいかな・・・。


なんて寝ぼけた事考えてたら、不意に塔矢が振り向いて、


「・・・さっきはゴメン。痛かっただろう?」


って、オレの指にテープを巻いてくれた。
優しいな・・・。都合がいいな。
でも、オマエが噛んだ指だから。

オマエも痛かっただろうけど、「ボク」も痛かったんだよ。犬に噛まれて。





って・・・・。



え?








明るい日差しに、嫌々目を開ける。

また夢か・・・。
生々しい夢。現実にあったことかも知れない。

今度は見慣れない真っ白い天井だ。
南国のような、窓の外にはひまわり。
外から子どもの声が聞こえてきたけれど、何を言っているのかさっぱり分からない。

ぼうっとベッドの上で寝返りを打つと、隣に誰も・・・いないよな。


というか、自分は、誰だ?

ヒカルになった夢を見ていた塔矢か?

アキラになった夢を見ていた進藤か?




その時、きぃ、と何処かでドアの音がして、白いTシャツを着た塔矢が
ペットボトルを持って部屋に入ってきた。


「・・・你早。(おはよう)」

「えーっと・・・。」


てことは取り敢えずオレは進藤ヒカル、か。

というかこれも夢、ですか。
塔矢にTシャツはないよなぁ。しかもオレのじゃん。ありえねぇ。
てかまた塔矢登場かよ。どんだけ好きなんだオレ。


「宿酔嗎?未成年却那様喝老酒。(二日酔いだろ?未成年のくせにあんなに老酒飲んで。)」


やっぱり夢だ。
何言ってるのか全く理解不能。変なの。

塔矢の指には、白いテープ。さっきの夢の続き。
あれ、指噛まれたのってオレじゃなくて塔矢だっけ?
噛んだのはオレ?
まあいいや。
夢だしね。


「累了嗎?多睡会儿吧。 (疲れただろ?ゆっくり寝てていいよ)」

「ええっと・・・夢、だよな?何言ってるかさっぱり。」

「因為你説想学習中国話、我才特地説漢語的呀。
      (キミが中国語を覚えたいっていうからわざわざ漢語でしゃべってるんじゃないか)」

「・・・・・・。」

「在香港、我学的漢語好像都没用。跟広州話不一様。
      (香港では漢語は役に立たないけどね。広州語とは別物だから)」


まだ・・・寝てるよな。オレ。
何でいつまでも塔矢の言ってる事がさっぱり分からない夢なんか見てるんだろ。


「記得嗎?楊海招待我們到上海、所以昨晩就来到香港了。
      (覚えてる?楊海さんに招待されて上海に来て、昨夜そのまま香港に入ったんだよ?)」

「あー。天国の夢かな?」

「・・・・・・。」

「こんなに明るくて、こんなに暖かい場所、現実じゃないよな?
 そんでオマエがいてさぁ。すごく幸せ・・・。
 目が覚めるのが嫌になるくらい。」


塔矢は変な顔をしている。
夢の中だから何も考えずにしゃべっても分かってくれると思ったのに、やっぱり愛想のない奴。



だけど夢なら、何かいい事が、

おきてくれれば、いいのに・・・。









塔矢が微笑みながら近づいてきた。




「・・・とう、や・・・?」




そしてオレにキスをした。

ああ、やっぱり天国の夢だ・・・。







「・・・昨夜真的很舒服・・・。我愛你。」



相変わらず何を言っているかさっぱり分からなかった。
でも、何だかとても嬉しかった。





何故か頭が痛くて体が重くて、もう一度ごろんとベッドに転がると、
開いた窓から異国のような風景が逆さまに見えた。







−了−














※30000hit踏んで下さったkaiさんに捧げるリクSS。
  今回のリクは非常に凝っていて!ステキな絵郡を頂戴しました。まずご覧下さい。



 「一つ、または複数の絵を自由に選べて、話を作成して下さい。
  絵を勝手に理解して下さい。曲解、連想がとてもウエルカムです!」

  出来るだけ意味のない絵を描いて下さったそうです。
  そしてヒカルとアキラが主人公、との事。
  む、難しい〜!!!(笑) でも、とても考えがいがあったし楽しかったですv

  折角どの絵を選んでもいいとおっしゃって頂いたのですが、どうしても全部の絵を使いたくなりました。
  けれどそう思うと、夢の様な、幻想的な感じしか浮かばなかったんですよ。
  それで禁断の「醒めても醒めても夢」ネタにしてしまいました。

  多分こういう使い方はkaiさんの本意じゃない。
  折角のステキリク&絵を上手く生かせてないのが心残り。すみません・・・。

  あ、そうそう、中国語部分はご本人に添削(というかほとんど製作)していただきました。
  読者参加(依頼)型小説(笑)ありがとうございました!
  ええ、勿論彼らはこの後仲良くパンダ見に行きますとも。(笑)

  ということで、kaiさん、30000hit and 申告ありがとうございました!
  



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