シリコン・ラブ3 翌日、緒方さんが様子を見に来た。 ひとしきり茶の間の方で何か話している声がしていたが、しばらくして 一人で奥にやって来た。 「アキラ・・・大丈夫だったか?何かされていないか?」 ボクのズボンのボタンを外す。 さぁ、昨日社も拭いていたから中には何も残っていないと思うけれど。 匂いでも嗅いでみたら?自分のと違う匂いがするんじゃない? 緒方さんが、本当にボクの股間に鼻を近づけた時・・・ 「・・・緒方先生?」 緒方さんが慌てて振り向くと、いつの間に来たのか社が腕組みをして入り口の柱にもたれ掛かっていた。 「社・・・くん。」 「何してはるんです?」 「これは。」 「それ、塔矢先生のんですよね。」 「・・・・・・。」 緒方さんはふっ、と息を吐くと少し眼鏡に触れ、そして立ち上がった。 社も柱から身を離し、二人して仁王立ちで睨み合う。 社は身長では緒方さんに迫るが、やはり若いから体の線が幼い。細い。 ケンカになれば恐らく負けるだろう。 自分でもそれが分かったのか、腰を落とすついでのように右足を引いて廊下に出し、 いざとなったら逃げられる体勢を作った。 それでもニヤリと不敵に笑える所が、さすがと言えばさすがか。 「オレもね・・・ちょっとお借りしました。」 「何だと?」 「ほら、ヤりたい盛りやから。朝から晩まで打っとると溜まるんですわ。」 「貴様・・・!」 「?」 社の計算違いは。 緒方さんがボクを使っているだけではなく、ボクに感情を持っている所まで読み切れなかった事。 そして恐らくいつもクールに見せている緒方さんの沸点が、意外と低いというのを 知らなかった事。 思わぬ剣幕で迫り寄られ、社は逃げるタイミングを逸した。 手首を掴まれて部屋に引きずり込まれ、倒れたのを睨み下ろしながら緒方さんが障子を カタンと閉める。 驚いてずるずると逃げる社の足を掴み、上にのし掛かるともう動けない。 勝負はあっけなくついた。 緒方さんは社のジーンズをずらし、尻だけ剥き出して犯した。 社は苦しそうに畳を掻きむしろうとしてやめ、(多分「塔矢先生」の家だと思い出したんだ) 全身から力を抜いて呻くだけだ。 終わった後、緒方さんは動けない社を見下ろしながら 「どうした?ヤりたい盛りなんだろう?」 と言ってあざ笑う。 社は目を閉じたまま、歯を食いしばった。 だが緒方さんは答えを求めていた訳でもなく、ただ鼻で笑って、 「やはりアキラくんの方がずっとイイな。」 ボクに向き直り、歩み寄ってそして強く抱きしめた。 その次の日社はボクに会いに来なかった。 まああんな目にあっては当たり前だろう。 人形ならぬ身にはかなり辛かったに違いない。 和谷も、一度入り口の廊下を通りかかって一瞬立ち止まったが やはり入ってこなかった。 彼の思惑に関しては分からない。ボクに対してどういう感情を持っているのか。 というか興味もない。 しかし。 はぁ・・・・・・。 これで少年達との縁が切れたか・・・。 彼等がいなくなったらまた緒方さんとの関係だけが続き・・・ お父さんが帰ってきたらどうするんだろう。 また・・・とても大事にされて、そして愛されない日々が続くのか。 溜息を吐きたい気分でいると、廊下を誰かが近づいてきた。 誰だ? 社が、気を取り直したか? 少し期待したが、入ってきたのは他の二人に比べて久しぶりの進藤少年だった。 彼は・・・ボクの相手としては少し幼い。 立ってもボクより身長も低いだろうし、何より何か未発育というか、性的な匂いがしないのだ。 案の定その手に持っていたのはローションではなく折り畳み式碁盤と碁笥だった。 「あ・・・と。ちょっと邪魔するな。あいつら、今ピリピリしてて離れたくて。」 どんな風にピリピリしているのか気になる。 ボクの事で争って・・・る訳じゃないか。 一応プロ棋士みたいだから対局でもしているのかな。 進藤はボクの前まで来てぱたん、と碁盤を広げ、白と黒の石を次々と並べ始めた。 すっかり暗記している、何度も並べた棋譜のようだ。 しかし、ある所に来て急にぱたりと手が止まった。 そこは・・・それ程悩む所じゃないだろう? そうだな。ボクなら・・・。 お父さん譲りの棋力が、ついつい頭の中で独り言を言わせる。 ・・・17の五。17の五しかないだろう? ・・・で、その次にはきっとキミは・・・ ・・・おい。17の五だ。 ・・・17の五だ・・・!! 「17の、五?」 ・・・そう。 進藤がパチ、とボクの思ったところに石を置く。 そして自分は、ボクが予想した下辺ではなく、いきなり中央に切り込んできた。 どういうつもりだ? ・・・まあいい。19の三。 「まあ、そう来るわな。」 19の三、と呟きながらその場所に石を置き・・・ そして固まった。 ボクも・・・元々人形なのだから固まるも何もないのだが、思わず思考が止まる。 「・・・おまえ今・・・。」 ・・・ボクの声が、聞こえるの・・・? 「へ?」 ・・・ボクの声が、聞こえるんだね・・・? 「・・・・・・。」 見つめ合う。お互いに口を半開きで。 「さい?!!」 ・・・は?サイって何だ? 「佐為・・・じゃないのか・・・いや、でもおまえ凄いよ!生きてるの?」 ・・・生きているというか・・・まあ。 「すんげー!すんげー!んで碁が分かるんだ!」 ・・・うん、一応ね。 それからボク達は、その棋譜を最後まで打ち切った。 その後もう一局打ったが、進藤は驚く程冷静に、そして手際よくボクの指定した場所に 石を置く。 二局ともボクが勝ち、悔しがるかと思ったが何故か非常に嬉しがっていた。 しかし・・・これはどうした事だろう。 ボクの製作にも関わっていなくて、肉体関係もない人と心が通じるなんて。 有り得ない。 進藤だって、人形がしゃべったり碁を打ったりしたら普通はもっと驚くんじゃないか? まあ絶対ないと思うから声も聞こえない訳だが。 そこの所を聞くと、以前にも似た経験があって超常現象には慣れている、という事だった。 「佐為って言ってな、平安時代の碁打ちの幽霊なんだけど、すっげー強いの!」 「最初は扇子で指して貰って、よく代わりに打って貰って。」 「塔矢先生の事、ライバル視してたなぁ。でもいっぺんネット碁で勝った事あるんだ!」 「あ、最初の事言ってなかったな。あのな、オレが小六ん時小遣いに困ってじいちゃんの蔵に・・・。」 進藤は、その佐為という幽霊に碁を教えて貰ったこと、ボクがその佐為に 少し面影が似ている事、お父さんに憧れて自分でも碁を打つようになった事などを 夢中でしゃべった。 そしてそのせいで幽霊が消えてしまった事を。 (その辺はよく理解できないが。) 恐らく今まで誰にも話した事がないのだろう。 言葉は止めどなかった。 ボクが他の誰かに話せない事を知っているからこそ、話せる。 ボク自身が彼等からすれば「超常現象」であるからこそ、話せる。 それはそれは嬉しそうに。 ボクは・・・そんな事もあるだろうな、という程度にしか思わなかったが 如何に彼がその思い出を大切にしているかが痛いほど伝わってきて・・・。 少しその佐為とやらに嫉妬してしまいそうになった。 こんなに愛されていて、必要とされていて、それで何故消えてしまったのだろう・・・。 いつも進藤といられて、何が不満だったのだ・・・? その後和谷が呼びに来て名残惜しそうに去っていき、翌日から北斗杯に出場する為 少年達がこの家を出る時にも進藤だけはボクに挨拶に来てくれた。 「塔矢・・・だよな?ここんちの子なんだから。」 ・・・まあ、ね。 「あの、名前、あるの?作ってくれた人がつけてくれたとか。」 ・・・製品コードはブライトだけど。ああ、ボクアメリカ生まれだから。 「へぇ〜!オレ、ライトだぜ。アメリカ語で言うなら。」 ・・・右? 「オレの名前は、進藤ヒカル!」 ・・・ああ、Light か。ボクはね、今は・・・うん、多分ブライトを和訳して、『アキラ』。 「アキラかぁ。塔矢アキラ!いい名前じゃん。」 ・・・ありがとう・・・。 「塔矢さ、あ、いや折角教えて貰ったけどやっぱ同じ年の男を名前で呼ぶのってちょっと抵抗あって。」 どうしても、ボクを普通の友人か何かのように扱いたいようだ。 ラブ・ドールとしてはそれは屈辱なのかも知れないけれど、何故か嫌でもないというか むしろくすぐったかったりして・・・。 何だろう。 前のご主人様にも、緒方さんにも社にも感じた事のない、この、・・・。 ・・・いいよ。ボクも進藤と呼ぼう。 「あのさ、また絶対に会いに来るから。」 ・・・・・・。 「オレ、おまえに会えて嬉しくて嬉しくて、」 そんな・・・涙ぐまなくても。 愛されるのには慣れているが、こんな反応は初めてで少し・・・混乱するというか。 「だから、絶対消えるなよ?頼んだぜ?」 ・・・大丈夫・・・。ボクはこの体がある限り、この世にあるよ。 「そっか。良かった!」 ・・・楽しみにしているよ・・・。 それから、これは後で聞いた話だが進藤は北斗杯で全勝したらしい。 海外から帰ってきたお父さんが、珍しく人を褒めていた。 「アキラくんを、オレに下さい。」 ボクの前で、進藤がお父さんに頭を下げている。 北斗杯の勝利の祝いに呼んで、何でも食べさせてやると言われてそれを断り その代わり一つ願いがあると言ったのだ。 「いや、しかし。」 「凄く高価な人形なんだとは思います。何なら、ローンになりますけど オレ、お金払います。」 「そんな事はいいんだが、・・・。」 「きっと大事にします。友だちみたいに。いや、友だち以上に。」 「いや、これは・・・。」 お父さん、説明に困っている。 勿論こんなに堂々とくれと言っているという事は、進藤はまだボクの用途に 気付いていないのだ。 「あなた。・・・私の事なら、いいのよ。」 そしてそれはお母さんも。 「進藤さん。この人が渋っているのは、実はこのお人形が買った物ではないからなの。」 「?」 「私の叔父の、遺品なのよ・・・。」 「あ・・・。」 「でも、いいのよ。あなたの様子ならアキラをとても大事にしてくれそうだし、 叔父もきっと喜ぶと思うわ。」 いいのか悪いのか。 とにかくそんな次第で、ボクは進藤に引き取られる事になった。 部屋の片隅ではやり取りを聞いていた緒方さんが 苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。 これからは進藤の部屋で暮らすのか・・・。 彼がボクに性欲を感じている訳じゃないのは分かっているのに、何故かワクワクする。 ボク達は肉体交渉はなくても毎日話し、そして碁を打つだろう。 ボクは、自分がセックス以外で求められる日が来るとは思ってもみなかったので 戸惑うばかりだが、せいぜい捨てられないように頑張ってみようと思う。 それに、進藤ももう少し大きくなればボクの本当の用途に気付く筈だ。 そうすればこちらのもの。 若い体はきっとボクの虜になる。 楽しみだ。彼は一体どんな青年に育つだろう? その時こそ体ごと愛されて、 ボクは進藤を本当のご主人様と呼べるかも知れない・・・・・・。 −了− ※18万のニアピン、179999と180001を踏んで下さったちゃぼさんともずくさんに捧げます。 今回は共有リクという事でやや気楽に考えていたのですが 書いてみたら普通のリクより長くなりました(笑) ちゃぼさんのリクは 今現在興味を持っているSDつながりで、是非「人形」をテーマでお願いしようかと思いつきまして…。 私のSDのようにヒカルとアキラの「人形」の話でもいいですし (…ただ私のSDはモドキだと思いますが…)「人形」のようなヒカルとアキラでも構いません。 ただ個人的に「重い」感じのお話は好んで読むほうでないので、「重く」ないお話で お願いしたいと思います。 もずくさんのリクは 女王蜂(と言ってもれっきとした♂)な総受けアキラさん。 只の受けではございません。甘い匂いにうっかり寄って行くと武器を隠し持っております。 争奪戦なのでアキラさんへ辿り着くまでにボロボロになってしまう奴も出て来るかも知れませんねェ。 せっかく辿り着いても下手で(何が?)お気に召さなければぽいっと捨てられる可能性あり。 チャレンジャーのメンバーはキスケさんにお任せしますが、ヤッシーは外さないでね。(好きだから) どちらも微妙なクリア具合・・・?(笑) 最初から、お一方が設定、お一方がストーリーというリクを下さったら楽だなあと 思っていまして、偶然にもその通りになったのに、実際考えてみると難しかったです。 しかも恐らくお二人とも軽い感じをお望みのようなのに「人形」+「女王蜂」て(笑) 最初は怪談風味しか浮かばなくて、もう別々にしようかと思った・・・。 今回、出来ればお互い相手のリク内容が見えない位に出来たらいいと思っていましたが 無理でした。お二人とも濃ゆいリクで(笑) しかしどちらも大変ナイスなリクで、もっと長く連載しても良かったかと思うほどです。 (みんながアキラの前でだけ素顔を曝す所やエロはもっと書き込みたかった。) 大変楽しんで書かせていただきました。 お二人ともニアキリ申告、そして共有リクという我が儘を聞いて下さって、ナイスリクを下さいまして 本当にありがとうございました! お二人のお陰で自分では絶対思い付かないようなものが書けて、とても嬉しかったです。 |
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