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騎馬民族 塔矢夫妻が中国に行っている間に、一度はアキラの所に顔を見せに行こうと思った。 『はい・・・?』 「よっ。」 『ちょっと待ってね。』 インタホン越しの一声で何の警戒もなく引き戸がからからと開く。 「芦原さん。」 「オレじゃなかったらどうするんだ。もうちょっと用心した方がいんじゃないの?」 「何言ってるの。ボクは男だし、もう子どもじゃないよ。」 苦笑するその顔は、確かに一年前と比べて見違えるほど大人びている。 でも世間ではまだ高校生の年齢だし、そのカオじゃちょっと危ないんじゃないかな。 「今日晩飯どうするんだい?」 「え・・・と、まだ特に考えてないけど。」 「と思って食材買ってきた。」 「わあ、ありがとう。」 本当に嬉しそうに笑う。 こんな風に素直に感情表現をしてくれるのは、市河さんやオレの前だけだと思っていたけど・・・ 最近は違うんだよね?アキラ。 「芦原さん、中華も行けるんだ。美味しいなぁ。」 行けるって言っても塔矢家には中華の材料が乏しいから市販のレトルトと家から持参の 調味料で何とか誤魔化しただけだ。 探せばあるのかも知れないけれど中華の食器も目に付く所にないから、 志野の六寸に盛った青椒肉絲に、織部のワンタンといった具合。 それでもアキラは旨そうに食べてくれた。 「芦原さんには本当にお世話になりっぱなしだね。」 「今更何言ってるんだ。水くさい。」 「ううん、子どもの時から、いつも当たり前みたいにボクの面倒を見てくれたから。」 「当たり前だよ。恩師のおぼっちゃんだし、」 「・・・・・・。」 「勿論それだけじゃなくて、オレはホントにアキラが可愛いからね。」 「また子ども扱いだ。」 「子どもだもん。」 「そういう芦原さんの方が子どもみたいだよ。」 笑いながら野菜に箸を伸ばす。 「あー、言ったな?なら食うなよ。」 「はいはい、ごめんなさい。頂きます。」 以前より朗らかになった、キミは同じ年の親しい友人が出来たから、かな? 「・・・そう言えば芦原さん、覚えてる?ボクが十歳の夏、縁側で打ったとき。」 「そりゃ何百と打ったからなあ。」 「ボクにとっては特別だったんだよ。生まれて初めて芦原さんに勝てそうな、手応えが、あった。」 「いくら何でも十歳に負けたらプロ廃業だ。」 「うん。結局負けた。」 「ふ〜ん。」 「でも悔しくて悔しくて、泣いちゃって。」 「覚えてないなぁ。」 「そうなの?ボクが人前で泣くなんてなかったんだけどね。」 そう。小学生の時からりりしい男の子だった。 同じ年の、同じくらいの背格好の子ども達の中にいても、一人飛び抜けていた。 同学年なんて目じゃない、と顔に書いてあった。 その子がこうして育って、今目の前でとろみを絡ませた肉を箸でつまんでいる。 と、急に箸先を見つめて 「進藤も、こういうの食べてるのかな・・・。」 「え?そう言えば最近見ないね。」 「いやだな。碁の修行なんて言って院生仲間と長期休みを取って中国に行ってるんだって。」 そう言えばそんな話を聞いたような気もする。 「もう三週間になる。」 「そうか。でも確か来週帰って来るんじゃなかったっけ。」 「うん。そうなんだ。」 「中華って言ってもこれは和風中華だから本場ではもっと美味しい物を食べてるよ。」 「そうなの?」 「うん。それに・・・。」 同じ中国なら、塔矢先生を先に思い出してもいいんじゃないかい? 「何?」 「いや、向こうで塔矢先生に会ってるかもな、と思って。」 「・・・・・・。」 その瞬間。 ずっと微笑んでいた、アキラのスイッチが切り替わったように見えた。 いや、進藤クンの話が出た時から、少しずつ、気付かない位少しづつ 崩れ始めていた。 「院生仲間」や「三週間」というキーワードが出る度に。 「・・・アキラ?」 「三週間も、会っていないんだ。」 塔矢先生が旅立ったのは一ヶ月前だ。 「ボクに黙って話を決めて、」 「その間勝ち続ければ水をあけられるじゃない。」 「院生仲間と勝手に。」 話を聞いていない。 これほど様子の変なアキラを見るのは初めてだ。 「おいおい、キミ達はライバルだろ?進藤くんはアキラのものじゃないよ。」 「ボクの、モノだ。」 「アキラ。」 目が、おかしい。 「アキラ・・・わっ!」 飛びつくように抱きついてきて、唇をぶつけられた。 そのまま押し倒されて、更に唇を押しつけてくる。 中華味の熱い舌が滑り込んで来た。 「ん〜〜!」 取りあえずどかせようと思ったが、憑かれたようなアキラは制止の腕を物ともせず オレのポロシャツを捲り上げ、 一刻も早く脱がせなければ死んでしまうかのようにズボンのファスナーを下ろす。 「アキラ、何を、」 苛立たしげに髪を掻き上げ、萎えたままのオレのモノを何の躊躇いもなく、 口に含んだ。 生理現象とは恐ろしい物で。 男に興味ないし、それがましてや弟のように思っている相手であっても刺激されれば ちゃんと勃つんだなこれが。 アキラはオレの股間で顔を上下しながら自分で下着を取っていく。 こんな姿普段からは想像もつかないな、何で今だけこんなんなんだろう、と思っていると。 唾液の糸を引かせて顔を離し、オレの上に、馬乗りに。 「ああああっ!」 悲鳴を上げながら、自分で体を沈めてくる。 そりゃ痛いだろ?そんなトコに入れたら。自分で何やってんの? っていうか、まさかね、と思ってたんだけど。 捲り上げたままのオレのシャツを握りしめ、震えながらじっとしている。 でもやがて。 「・・・・っう、」 少しづつ、動き始める。 並足のようにゆっくりだった動きはやがて早足となり。 「・・・ボクの、・・・・。」 譫言のように何か言いながら、オレの上で激しく動き始める。 目を下に向けると、十年以上ぶり位に見るアキラのモノは(大きくなったなぁ) 腹に付きそうに固く立ち上がっていて、駆け足な動きに合わせてそれを自分で扱いている。 「しん、どう・・・。」 ・・・ああ。 彼らはそういう仲だったわけか、と思った。 で、アキラはされる方なわけだ。 ふー・・・ん。 驚かないではないけど、アキラのこの妙な行動の意味が分かってちょっとすっきりした。 オレに跨ったまま、髪を振り乱して狂ったように腰を振っているアキラ。 その喘ぎ声は聞いたこともない、女のような、雄のような。 アキラと一番年が近い友人は、自分だと思っていた。 塔矢名人や明子夫人の知らないアキラを、一番知っているのは自分だと思っていた。 やがて進藤クンが現れ、同じ年のライバルが、友人が出来たことを嬉しく思った。 その、彼がねえ。 アキラにこんな声を覚えさせたとはね。 くるくるとした目の童顔を思い出すと、そのギャップがちょっと笑える。 でも変な女に引っかかるよりはマシなんじゃない?コドモも出来ないし。 なんちゃって無責任な母心。 アキラはやがて意味不明の甘い悲鳴を上げ始め、それが一際盛り上がった所でもう一度 「進藤!」 一声叫んで射精し、がくりと崩れた。 オレはやはり男には、イかなかった。 体を引き抜いて横に転がったアキラは、そのまましばらく荒い息でいたがやがて 「あ・・・芦原さん・・・・。」 と言って勃ち上がったままのオレの股間に手を伸ばしてきた。 「いや、いいから。」 「・・・・・・ごめん、なさい。」 もう収まってきたし全然構わないんだけど、本当は何に対して「ごめんなさい」なんだろう。 自分だけイった事か、オレに馬の気分を味わわせた事か、オレを襲った事か、 それとも、進藤の身代わりにした事か。 まあ別にいいや。 自分の胸に散ったアキラのモノを拭き取り、シャツを下ろす。 オレ達はお互い無言で身繕いをした。 「・・・・・・。」 「・・・もう遅いから後片付けをしたら帰るよ。」 「いえ、そんな、片付けはします。」 「そう?じゃあお願いしようかな。」 「あの、今日は・・・。」 遅いから泊まっていけと勧めるのが礼儀だけれど、今の雰囲気ではそれは言いにくい、 と困っている顔だ。 でも何もなくても今日は泊まって行けないんだよ、なんてったって ルリクワガタ(それも三色揃い!) の標本が届いているはずなんだから。思い出しただけで顔がにやけてくる。 「あの・・・?」 「あ、ごめんごめん。今日は最初から長居をするつもりはなかったんだ。」 謝ってもらうとしたら、オレとクワガタたちの甘い時間を少し削った事に対してか。 「そう、ですか。」 アキラは控えめにホッとした表情を見せて、玄関まで送ってくれた。 「芦原さん・・・。」 「何?」 「本当に、すみませんでした。」 「・・・うん。気にするな。」 「・・・・・・・・・・あの・・・。」 「ん?」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 ああ、 「大丈夫。きれいさっぱり忘れるよ。」 「・・・・・・助かります。芦原さんがそう言うんだったら、本当にそうなんでしょうね。」 「うん。」 敬語が、ちょっと寂しい。 でも彼もすこしづつオトナになって行ってるんだ。 そしてそれは誰にも止められない。 「芦原さんのそういうところ、ボク、好きです。」 「そう。ありがとう。」 本当は。 本当は、夏の縁側、庭からの照り返しに下側が光ったキミの頬も、 その表面を滑り落ちていった涙も、 「忘れて、ね・・・。」と言った嗚咽混じりの幼い声も、 記憶の引き出しを開ければそこに鮮明に焼き付いてるんだけどね。 別にその必要もないから開けないだけで。 取りあえずそんなことより今はダッシュで帰って 早くルリクワガタちゃん達に会いたいんだ。 −了− ※一万打踏んで下さったひじりさんに捧げます。ありがとうございました! リクは『馬乗りになったハゲしいアキラさん』、 出来上がってみるとハゲしくもねえんですが、 淡泊な芦原さんと組み合わせて相対的に激しく見せようという魂胆。 一応盲日の芦原さんってことになってますが、単品でも問題ない、ですよね? アキラさんは盲日のアキラさんというよりはコワ塔矢(笑)。 |
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