裏盲日6
裏盲日6






進藤は最近無茶な要求をする。
屋外で服を脱がせようとしたり、人前で触らせろと言ったり。

勿論断る。

でも彼は、ボクが彼のことを好きなのだから。
だから逆らうな、と強引に言い募る。

何て勝手な。
何が「だから」だ。何故ボクが。

これでもし進藤が碁で勝ちを譲れなどと言ってくるような男だったら
ボクは彼を蔑める。
でも、生憎そうではないので、碁以外の勝ちは譲ってもいいかなどと
少しでも考えてしまうボクは一体・・・。


「誰もキミを好きだなんて言ってないだろう。」

「惚れてる惚れてる。もうベタ惚れ。」

「めでたい男だな。勝手にそう思っているが、」

「好きだよ。」

「・・・・・。」

「オマエが、オレを。」

「だから。」

「だって最近ヤってても・・・。」

「シッ!誰か来る。」


ここは囲碁関係者が多数徘徊する北斗杯会場のホテルだ。
今の会話を聞かれてしまったかと冷や汗が流れたが、息せき切って
現れたのは韓国の大将、高永夏だった。

一体何があったのか、高は何か話があるなどと言って、
やや取り乱した様子で進藤の腕を引く。
当然進藤は「やだ、何すんだよ!」と抗っていたが、ウェイト差には敵わず
ずるずると引きずられて行った。

少しいい気味だなどと思いながら面白く眺めていると、
しばらく先で進藤が踏み留まった。そのまま小さくなにか言い争っている。
いや、進藤は韓国語はおろか英語すら全く話せないはずだから、
そのように見えるだけだろう。


と。

その時、いきなり高が進藤を引き寄せ、

口づけた。

長く、深い、キス・・・。

幻のような、光景だった。

特に感慨が湧いた自覚はなかったが、視界の隅がすっと暗くなり、
自分の顔から血の気が引いていくのが分かった・・・。



永遠に続くかと思われた時間が過ぎ、うっとりと微笑みながら振り向く進藤。
その顔が、火を点ける。
どす黒い腹の底で紅蓮の炎が燃え上がる。
燃え上がって心臓を焦がす。
苦しい。
いつだってボクをこんな風におかしくしてしまうのは、キミだ。

キミだけだ。

釣られるようにこちらを向いた高も、嗤っているように、見えた。





その夜初めてボクは自分から進藤の部屋を訪ねた。


「もうそろそろ来る頃だと思ってた。」


もう明日は対局がないのでのんびりしているのだろう、ベッドの上でだらしなく
転がっていた進藤が広げていた雑誌をばさりと投げ出す。
そのまま起きて手首を掴みに来るかと思ったが、
仰向いて両手を枕にくつろいだ。


「・・・高永夏は何の用だったって?」

「さあ。」


ボクを、焦らすつもりか。
恐らくボクが想像してしまったような事は何もなかっただろう。
それでも、押さえ込んだ筈の炎がちろりと舌なめずりをする。


「そんな事より、来いよ。」


自分はベッドに寝そべったまま、片手を軽く差し伸べる。
この部屋に足を運んだだけでも限界を超えた譲歩だというのに、
まだ自分から抱かれに来いと、言うのか。


「どうした?」


そんなに当たり前の顔をして、


「来ねえの?」


そんなに明るい笑顔を浮かべて、


「ん?」


キミはボクから最後の矜持まで奪うつもりか。



部屋の入り口に留まったまま逡巡し続ける。

迷うだけ無駄だ、という気もした。









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