裏盲日5
裏盲日5






塔矢がオレを責める。
セミナーの夜のことを謝れ、と。

んだよ。謝ったら許してくれるとでも言うのか?そうじゃねえだろ?

強くなったな、と思う。
あんな目に会ってもその事から目を逸らさず、相手をこうやって責めることが
できる。
もしオレが謝ったらどうするつもりなんだよ。
オマエはオレを許さざるを得ないんだぜ?

オレなら絶対許さない。
もし仮にジジイが手を突いて謝ってきたとしても、オレは許さない。

だからオレも、謝らない。




オレの家からの帰り(それでも呼び出せばやってくるアイツの気が知れない)
近所のマンションの非常階段に逃げ込んだ。

この辺、誰か友だち住んでたっけ。

って、加賀・・・・・!

向かいのマンションの部屋の手すりにもたれて、ぼんやりこちらの方を
見ているようだった。
何でんな所にいるんだよ。
こんな天気のいい日に家の中にいるタイプでもないと思ったけど。

あ、二つ上ってことは、
受験生か・・・。


ふとイタズラ心が湧いて、まだ何か言い募ってくる塔矢を引き寄せる。
多分加賀は塔矢を覚えてるだろう。
驚くかな?
驚くだろうな。

恋人のように、抱きしめる。
肉体関係を濃厚に臭わせるように、胸や耳に触れる。


「ちょっ・・・!何するんだ!」


当然塔矢は抵抗するけど、今ひとつ力が入っていない気がするのは
戸惑っているからか、それとも。


ちらりと加賀の方を見たが、どうしたことか何の感慨もなさそうに、
相変わらず茫洋とこちらを見ているだけだ。

見えて、ないのかな?

一旦顔を離してまともに加賀を見ると、やはり目があった。
オレが笑うと笑い返す。

やっぱ見えてんじゃん。
びっくりしてくれないのはつまらない気がしたけど・・・


それでも加賀の視線に、自分でも驚くほど興奮した。



懐かしいこの感じ。

オレの情事を見つめる、青い視線。

扇の陰から

その表情は見えないけれど




・・・エスカレートする心に我を忘れて、塔矢の首筋を舐める。
シャツをまくり上げる。


と、塔矢に今度は本気で突き飛ばされて我に返った。


「キミは・・・!どういうつもりだ、こんな所で!」

「・・・こんな所じゃなきゃいいんだ。」

「何だと?!いつだってキミが無理矢理、」

「ああ、ゴメンゴメン。知り合いがいたからさ、調子に乗っちゃって。
 ホラ、あそこ。」

「?!」


慌てて振り返る塔矢に、加賀が「ごちそうさん」って感じで手を振る。
塔矢の首筋が見る見る赤く染まる。
ナイス!加賀。


すごい勢いで逃げていく塔矢を可愛いな、と思いながら見送った。

やっぱアイツってオレのこと、好きなのかなぁ。
もしかして謝ったら許してくれるのかなぁ。
こんなのって、都合良すぎるかなぁ。





「彼女かぁーっ?!」


塔矢が消えた頃、加賀が大声で尋ねる。
・・・あー、そっか。
遠目には女に見えちゃうか、あの髪型。
でも彼「女」、じゃないんだよね。


「違ーうっ!」


「恋人か」と聞かれたら、オレはなんて答えたんだろう。
「うん」・・・とは答えにくい。
かといって「違う」と答えるのは勿体ない。

オレは何とも中途半端な表情をしていたと思う。

加賀も、ひどく複雑な顔をしていた。








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