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裏盲日2 辛い。 立つのが辛い。座るのが辛い。歩くのが辛い。 体の奥の痛みが記憶を甦らせて、心が辛い。 「よお!塔矢。」 セミナーの翌日声を掛けてきたのは確か、和谷と言ったか。 ボクに対してはキツい男だと思っていたが。 その後ろには森下門下の3人と、もう一人若手棋士。 「この後、用事ある?」 こんな時に限って何故。 まさか、進藤。 でも進藤は彼らの一番後ろで気まずそうに俯いていた。 そんな顔をするくらいなら、何故あんな事を。 みんなきっちりと、あるいはゆるくネクタイを結んでいるが、 彼の首にはそれがない。 それはそうだろう。あのネクタイは今頃くしゃくしゃになって彼のポケットか 荷物に詰め込まれているはずだ。 ・・・昨夜、進藤と同じ部屋に戻ってシャワーを浴び、さて寝ようかという時。 ネクタイで手を縛られてもふざけているんだと思った。 ベッドに押し倒されても、何の冗談だろうと思っていた。 それどころか、最後の瞬間まで度を過ぎた悪戯だと、 愚かにも信じていたんだ、ボクは・・・。 途中で気を失って今朝目が覚めると、既に進藤はいなかった。 枕カバーとシーツには点々と血が付いている。 進藤に殴られたときの鼻血。それと・・・・。 それに、進藤の腕にもボクが噛みついた傷がついている筈だ。 部屋の鏡を見ると、自分でもうんざりするほど酷い顔をしていた。 洗面所で念入りに顔を洗う。 備え付けの櫛で乱れた髪を丁寧に梳った。 鏡を覗き込む。 大丈夫、痣は残っていない、いつものボクだ。 目も腫れていない。 涙を見せるのは、絶対嫌だった。 それは彼の暴力に屈した印のような気がして。 そう、強姦されたとは思わない。 あれは、暴行だ。 それこそ犬に噛まれたのと一緒だ。 泣くほどの事でもない。 だからどこにも訴えないでおいてやるからありがたく思え。 ・・・軽く頭を振って不快な記憶を追い出したボクに、和谷が続ける。 「なら、みんなで喫茶店いかねえ?」 勿論いつもなら丁重に、しかし迷いもなく断るような誘いだ。 そうでなくても今日は一刻も早く帰宅して休みたいのに。 でも。 「・・・少しなら。」 当然断られると予想していたのだろう、和谷が目を丸くする。 「そっか。珍しいな。や、サンキュ。」 礼を言われる筋合いなんか無い。 誘って貰ったのはこっちだし、それにキミを喜ばせるために受けた訳じゃない。 キミの後ろでホラ青ざめている進藤の、 その顔が見たくて頷いたんだ。 ・・・ボクは、一生、キミを許さない。 |
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