裏盲日10
裏盲日10






昨夜は自分でも怖いくらいに乱れた。

視線のせいだ。
社の、せいだ。


体がだるい。
進藤もいつも以上にしつこかったし、社も。

浮ついた見た目に反して生真面目な男だった。
でも、タガが外れたらやはり只のオスだった。

口が疲れたら手で。
社がイったらまたそれを口で。

後ろで進藤を受け入れながらそれを繰り返すのは単純に肉体的に辛い。
でも最後の方は社が自分で動いてくれたのでボクはただ歯を立てないように
気を付けていれば良かった。
それでも顎が痛い。頬が筋肉痛だ。
こんな所が筋肉痛になる事なんて他にないだろう。
うっかり人に言わないようにしなければ。


でも正直、物凄く興奮した。

その内社にも犯されるものと思っていたが、
何故か進藤は最後まで後ろを譲らなかった。
社には無理だと思ったのか・・・それとも。
ホッともしたが、少し残念にも思った覚えがある。

自分がそんなに淫らだったとは。



それでも朝になったら、進藤が社にボクを抱かせなかった事が嬉しかった。
だが・・・、その理由は恐らく気まぐれだろう・・・。
ここまで来てボクに対して独占欲が湧いたわけでもあるまいし。

でなければ今夜のお楽しみに取ってあるのかも知れない。


観光に出る進藤と社を見送りながら頭は既に今日の対局に向かっていたが
門で振り返る社と目が合った時に、体が熱くなった。






まさか自分が東京観光するとは思わなかった。
地方から出てきた人を連れて行くなら取りあえず新宿?とか思ってたのに
いきなり東京タワーに行きたいとか言うんだもん。
ん〜、王道かも知んねえけど穴でもあるのな。
そんならいっそハトバスにでも乗って浅草とかも回るか、なんて考えもしたけど
結局オレ達はそのまま東京タワーに着く。


でけえ!


さすが何処から見ても見えるだけのことはあるわ。
単に高いところに行きたいだけなら都庁のがいいと思っていたけど、
やっぱり昔から東京を象徴してるだけのことはある。
社も素直に感動してくれるみたいで、良かった。

見上げながら思う。
これを作った人は怖くなかったんだろうか。
バベルの塔みたいに神の領域に近づいてしまうような。


はるか、はるかな高みを目指して。

エレベーターは登る。

大昔に神の怒りに触れた天の彼方へ。

ボタン一つで登って行く。


しょうがないよ、人間は高いところを目指すように出来てるんだ。

いつの時代も。

佐為がそうだったように。

オレがそうであるように。

罰が当たっても構わない。

遙かな高みに立てるなら。


その時は塔矢、オマエも一緒だよな?


神の一手を極める時も。

神の怒りに触れて地獄に堕ちる時も。




最上階に着くと・・・雲の霞むような展望台。
はるか下界が広がる町並みはまるで複雑な碁盤だった。
本当に神の視点に近いかも知れない。


塔矢と来たいな・・・。


やっぱり、そう思った。

昨夜の情事を思い出す。
塔矢の白い背中、乱れた髪。
一休みして横から塔矢と社を眺めると、テラテラした社のモノを一心に舐める
塔矢の頬に汗で貼り付いた髪が、妙に黒かった。

眉をしかめながらも必死で頬張って。
上の方を見ると社の顔も歪んでいて。

二人とも妙に苦しそうだった。

オレと塔矢も客観的に見るとこんな感じなのかな、なんて感心してみたり。
それは社に聞いてみたい。


でも・・・。


冷房が利いているはずなのに隣の社の体温がじわりと空気を伝ってくる。


「盗るなよ。」


それは不意に口をついて出た言葉だった。
自分で聞いてから思考が遅れて押し寄せる。

塔矢はオレのもんだ。オレだけのもんだ。
昔から好きだったんだ。
最初から汚したかった訳じゃなかったんだ。
でもオレ以外の人間の色に染まる塔矢を見ることになんて
耐えられなかったんだ。

もし仮に既に塔矢が緒方さんの物だったとしても。
やはりオレは奪っただろう。

そして誰にも渡さない。勿論社、オマエにも。



社から返事は返ってこない。

ああ、急に一こと言われても意味分かんないよな、と気付いた途端に
社が口を開いた。



「・・・阿呆。誰が人のもんに手ぇ出すかい。」



・・・・・・・・。

・・・そう。それはありがとう。

それって、アイツがオレのもんだって認めてくれたってことだよな?
と同時に、
もし人のもんじゃなかったら手を出したかも知れないって事だよな?

オマエはそういう気はないと思ってたんだけどな。
碁でもオレのすぐ後ろで牙を研いでると思ってたけど、
そっち方面でも油断がならない奴だったんだ。

だからこそ、面白いよ。オマエ。





家に帰ってから社は無口だった。
本当は今日は別の所に泊まりたかったんだろうけど、その手配を忘れて
いたのだろう。


「じゃあ、お風呂入ってくるから。」


夕飯後、二人きりになると沈黙が落ちた。
しばらく社はもぞもぞしていたが、


「・・・なあ。今日進藤ん家泊めて貰えへんかなぁ・・・。」

「何、突然。」

「いや、やっぱり急にこんな事言うのは迷惑やとは思うねんけど、」

「無理だって。」


急すぎるし両親もいるだろうし。ここの方が広いし。明日の朝御飯もあるし。

・・・それに、夜が楽しみじゃない・・・。

と、これは口に出しては言わなかったけど。
社はしばらく斜め上方を眺めて何か考えていたが、決心したように
真っ直ぐこちらの目を見つめた。


「あのな、じゃあな。悪いけどオレは自分らには付き合えへん。」

「何が。」

「分かるやろ?他人の事に口は出さへんけど、オレは」

「・・・・・。」

「昼間はええけど、夜は仲良うしたない。」

「・・・昨夜はあんなに、」

「昨夜はどうかしとった。」


きっぱりと言い切る、強い意志を秘めた目。
でも、遅いよ。
せっかく捕まえた獲物を放すはずがないじゃないか。
それに

そんな目をするから、余計にからめ取りたくなるじゃないか。


卓を回って、社の方ににじり寄る。
どこかで見た光景、ああつい昨夜の事だ。

すぐ側に片膝を突いて見つめる。
社は今日は逃げなかった。
逃げずに睨み返して来た。

でもその瞳に一瞬走った物を見逃すほどこっちも甘くない。

もう片方の膝を社の膝の上に乗せ、首に手を回す。


「・・・イヤやて言うとるやろが。」

「言ってないよ、目は。」

「本気でムカついて来た。しばくぞ。」

「いいよ・・・。」


社は犬歯を剥き出す。

と、風呂場の方向から微かにぱたぱたというスリッパの音が聞こえてきた。
その音を隠すように社にささやきかける。


「抱きたくないの、塔矢アキラを。」


肩を押し返してくる社の腕に逆らわず、自分の体を後ろに倒す。
でも首に絡めた腕は離さなかったから、引っ張られた社も上に倒れかかってきた。

ぱたぱたぱた・・・・。


「やめ、離せや、見られるで、」


もはや虚勢も怒ったフリもやめてただただ焦った声が耳元で聞こえる。

ぱたぱたぱた・・・・。



「抱きたいだろ・・・?」


社が目を細める。
彼は、戦っているのだろう自分と。
でも悪いけど、もうその勝負の行方は見えているよ。


ぱたぱたぱた、

ぱた。



一見社に押し倒されたような形のまま、頭上に立った影を見上げる。


首にタオルを掛けたまま、無表情に見下ろす。

ゆっくりと手を持ち上げて、濡れた前髪をくしゃりと掴んだ。

仕草が意味するモノは「妬心」じゃないかだなんて、
自惚れてしまいたくなる・・・。

その腕にボクが最初につけた歯形の傷跡が白く光った。




しかし次の瞬間、ボクらは共犯者の微笑みを交わし合った。










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