裏盲日1
裏盲日1






自分が変化していくのが分かる。
ジジイの節くれ立った指に撫で回されるのは死ぬほど嫌なのに
オレのカラダは気色悪いほど反応する。



初めてこの家に連れてこられたのはいつのことだったか。
とにかくオレはガキだったんだ。菓子か何かに釣られたんだと思う。
本因坊ともあろう人が院生のガキを自宅に誘うのを、おかしいとも何とも
思わなかった。
縛られて身動き取れなくなってから、初めておかしいと思ったんだ。
バカだ。オレ。



・・・カラダが、心から離れていく。

構わない。
こうして目を閉じれば闇の中、誰の物ともつかない触手が
オレに快感をもたらしてくれる。

そしてその闇の奥に、鋭い、切ない、熱い視線を感じて、
オレは一層強く目を閉じる。

・・・佐為。


そういえば最後まで佐為とこの事については一言も話さなかった。
ジジイの家から帰る時、ポケットに手を突っ込んで俯きがちに足を引きずる
オレの視界に入らないように、アイツは遠慮がちに後ろから着いてきていた。

最中は最中でオレは固く目をつぶっていたし、佐為なら扇で顔をかくし
目を逸らしていたと思う。

それでも強く感じた、
痛ましい視線。

その視線はオレを苦しめていた筈なのに。
アイツがいなくなれば心置きなく快感に身を委ねることができたはずなのに。

一体これは。




・・・足りない。


オレを汚して。
もっと汚して。
もっともっと汚して。
真っ黒になって誰にもオレだと分からなくなるくらいに。


オレの中にも聖域がある。
黒い髪、白い肌。

碁石。
鯨幕。
ピアノ。
半紙の上の墨。

アイツの色は、いつも厳粛で清冽な何かを思い出させる。


そして黒い髪に似合わず薄い色の、
けがれを知らない真っ直ぐな瞳。

オレが汚れれば汚れるほど、純白に輝くもう一人のオレがいるから。
だから、もっと、黒く。



でもある日ジジイはオレを青ざめさせることを言った。

塔矢を、汚すと。

そんなこと許さない。
そんなことしたら、殺す。



ジジイの手を塞ぐことくらい今のオレには簡単だろう。

でも・・・。

うかつにも今まで気づかなかった。
いつまでも変わらず側にいて、いつまでもオレと打ってくれるなんて。
そんな保証はどこにもない。

打てるときに打っておかなければ。

手に入れられる時に手に入れておかなければ。

きっと、後悔する。

オレの手の届かないところに行ってしまってから
誰かの物になってしまってから

泣いてももう遅い。



だからもし、他人に汚されるくらいなら・・・いっそ、この手で。


その時の決断が正しかったのか間違えていたのか未だに分からない。

知りたくもない。




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