Spider man3








うっ・・・・
っと。

丁度顔に日光が当たって、熱くて目が覚めた。
昨夜雑魚寝した布団はぐちゃぐちゃになって、どれが誰の布団やら枕やら
分からなくなってる。


「ん・・・・・・。」


隣で呻いたのは社で、塔矢はいない。
トイレか、それとももう起きて飯でも作ってるのか買いにいったのか。


「社・・・。」

「ん・・・?もう朝か?」


額に手首を当てて影を作り、片目だけ開ける。


「みたい。えっと・・・8時・・・30分ぐらい。」

「まだ起きんでええやん。・・・塔矢は?」

「さあ。」

「さあ、て。」


怠惰にごろんごろんと寝返りを打ち、窓から離れて奥に移動する。
途中でオレを巻き込み、スリーパーを掛けて来た。


「や、やめっ!ギブギブ!」


寝起きでぼーっとしてる所に後ろから絞められて、取り敢えずタップする事しか出来ない。
コイツ何で起きたばっかでこんなに体動くんだ?

げほっ、げほっ、


「おまえ、根性ナシやの。」

「放っとけよ。碁は根性で打つんじゃねーの。」

「で、塔矢は。」

「ホントに知らねえよ。さっきから気配ないから、外に行ったんじゃね?」

「ふ〜ん・・・。逃げた、かいな?」


・・・ああ。
夜中に何か、ぼそぼそしゃべってるのが聞こえたような気がする。
逃げるとか逃げないとか。
別に興味ないしそのまま寝ちゃったけど。


「自分な・・・。もうちょい塔矢の事、考えたれや。」

「いつも考えてるよ。どうやったら勝てるかって。」

「そういう意味やないて分かるやろ?」

「分かんない。」

「・・・あのな、オレが言う話やないかも知れんけど。」

「ん?」

「塔矢がオマエから逃げへん、あすこまで・・・あんな事されて
 逃げへん意味、ちょっとは考えろや。」

「・・・・・・。」


塔矢が逃げる・・・?
なんて事、考えたこともなかった。
だってここ、アイツん家だし。


「塔矢は、おまえを必要としとるんや。もっと言うたら、」

「社。」

「何や。」

「もしかして、塔矢がオレに惚れてるとか言うつもり?」

「・・・そや。」


オレは思わず、布団の上でくの字になって笑ってしまった。
な、何を言い出すかと思ったら。
有り得ねーっ!


「何が可笑しいんや。」

「はは、あはははっ!だって、あの塔矢が男をっ!しかも、オレ、あはははっ・・・」


社が睨む。
ああ、何か言わなきゃ、と思うほどに笑いの発作は止まらない。


「アイツはそんなんじゃないよ、アイツは、」

「あのな!」


急にでかい声出されて、のし掛かられて、やっと笑いが引っ込んだ。


「可笑しないで。何で、『あの』塔矢があんな無茶なセックスを受け入れて、
 おまえに仕返しもせんと、側におると思うねん。」

「・・・・・・。」

「何で何も言わんと、昼間は普通に打って、夜は、」

「ちょい待ち。それはおまえも同じじゃん。」

「オレは・・・副産物や。塔矢は別にオレの事何とも思ってないけどな。
 放っといたらオマエ際限なく壊しそうやから見張っとるだけで。」

「んな事ねえよ、おまえだって昨夜、一緒にどっか行こって言ってたじゃん。」

「・・・聞こえとったんか。」

「ちょっとだけな。」

「オレは行かへん。アイツかてそれ分かっとって言うたんや。」

「・・・・・・。」

「確かにアイツは、逃げたいねん。・・・でも、逃げられへんねん。」



オマエから。



「・・・分かったれよ。それくらい。」



解放、したれよ・・・。







「オレが?塔矢を?」

「そや。」

「・・・オレ・・・別に何も。」

「アイツがおまえに逆らえへん事が分かっとって、好き放題するのは十分拘束や。」

「・・・・・・。」

「オレにはアイツが、蜘蛛の巣に掛かった蝶に見えるで。」


オレには分からへんけど、何かおまえの中の甘い匂いに釣られて
わざわざ罠に掛かりに来たんや。

哀れなもんや。
糸に絡め取られても、必死で羽ばたいて他の奴からは優雅に空飛んどるように見せて。
何もない顔で、碁を打って勝って・・・。






オレは、困った。

コイツがこんなにロマンチストだとは思わなかった。
好きになってしまいそう。
こんな事に巻き込んで、ちょっと悪かった。

それでも、どうしても苦笑してしまう。


「社・・・。アイツは、そんなんじゃないよ・・・。」


背中を抱いて引き寄せると、あっけなく降りてくる。
横たわったまま口を寄せると、普通にキスしてから「あ。」と言って顔を顰めたけど
オレが更に追うと、もう抵抗せずに舌を受け容れた。


「・・・オレも、網に掛けるつもりか?」

「いや・・・。」

「無駄やで。」

「だろうな。」


社はそれを証明するようにまた跨り、上からオレの顔を押さえつける。
主導権を握っているのは自分だと。
いつでも犯せるぞ、と。

ああだからおまえは愛すべきバカなんだ。


「・・・塔矢にも、優しくしたれや。」

「・・・・・・。」

「おまえかて、憎からず思とるんやろ?やから。昨日おまえが居らへん時に
 オレが抱いたら怒っとったんやろ?」


・・・自由に、してやれ。あの蝶を。






「社。」

「何や。」

「おまえはそれでいいの?」

「?」

「想像してみろよ。もう塔矢の体を味わえないって。」

「・・・・・・。」

「塔矢を解放するってのは、そういう事だぜ。」

「・・・・・・。」


社は、しばらく考えた後、面白い程に青ざめた。
きっと、今やっと分かったんだ。

・・・気が狂いそうになるだろ?
・・・オレ達、もう塔矢のカラダなしじゃやってけないだろ?


「・・・いや・・・そんな。」

「口でいくらきれい事言っても、塔矢を二度と抱けないって想像しただけで
 餓えるだろ。乾くだろ。」

「・・・・・・。」

「そんなバカなって思うだろ?でも否定出来ないだろ?・・・怖いだろ。アイツは、」


気付かずに済めば、幸せだった。
だけど、オレ結構アイツとの付き合い長いし。



「・・・・・・多分、バケモノだ。」



そんで、獲物は、塔矢じゃなくてオレ達の方なんだ。
巨大な蜘蛛の張った網に閉じこめられているのは。






「なんで、そんな、アイツはオマエを。」


・・・塔矢がオレの事好き?
そりゃ好きだろうよ、美味しいエサだからな。

無茶なセックス?
なら、何故オレ達がすればする程、アイツは強くなる?


「おまえを巻き込んだのは、オレ一人だったら保たないから。」

「・・・意味が・・・。」

「あいつはアレを体の中に取り込む程に強くなるんだ。」



     あいつが本当に必要なのは、オレ達の精液だけなんだ。



社は。
笑いそうな顔をした後、恐らく色々と思い当たる事を思いだし、
それを否定し
肯定し、
何度も顔色を変えて・・・やっと「絶望」という名の表情に辿り着いた。


そう。

オレ達が塔矢に勝つには、まず与えないようにしなきゃならない。
抱くことをやめるしかない。
どうしたら、そんな事出来る?
一度知ってしまった快楽。


蜘蛛の網に捕らえられ、生きながら体液を吸われる。
墜ちてゆく、麻薬の快楽。

逃れたくて、逃れられないのは、オレ達の方だ。







「・・・ただいま。」

「おう!メシだメシ!」

「すまない。自然食品の弁当屋まで行ってたら遅くなった。」

「わざわざあんなトコまで行ったんだ。」

「ああ。・・・長生きして欲しいからね、キミたちには。」



ちらりと、オレと社を見る。

おれは冥い、冥い目をした社と、長い間見つめ合ってしまった。









−了−







※お読みいただいてありがとうございました。
  こういう感じでファンタジーなのは初めてですね。
  終わってみると「盲日」じゃなくてOctopusと似てるぽい。
  しかし何者なんでしょうね?


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