サンライズサプライズ 「あー、腰いて。」 「当たり前だ。」 「お前は?大丈夫?」 「・・・そんな訳ないだろう。」 「終電に乗れるくらいのペースが身体にいいかなぁ。」 「あのねぇ。別に泊まっても終電の時間に寝ればいいんだよ。」 「だってー。お前が隣で寝てる、と思うと、こう勿体ないというか。」 「・・・バカモノ。」 嫌だと言っても聞かないからなすがまま、という姿勢も考え物だという 気がしてきた。 夕べは進藤の部屋に招かれて、一局打っただけでは勿論済まず 一戦交えてさて帰ろう、と思ったら、なんと迂闊なことに 終電に乗れなくなっていて。 代わりにまた進藤に乗られた。 ああだめだ。最近思考が進藤に似てきたじゃん。まずいよこれって。 「あのさ、前なんだけど緒方先生と・・・。」 「何してたか気になる?」 「何も言ってねーじゃん。」 「棋院の廊下でのことだろう?」 「別に。どうでもいいよ。」 「そう。」 「んだよ。」 「やっぱり気になるんだ。」 「ならねーって。気にして欲しいの?」 「いや。気になるならなるって言えばいいのにと思ってさ。」 「お前こそ気にして欲しいなら気にして欲しいって言えば聞いてやるのに。」 「ややこしい男だな。」 「お前がな。」 「・・・うちの母が君のことを『ヒカルさん』って言うんだ。」 「ああ、家行ったときそう呼ばれた。」 「おかしいな。」 「何が。」 「僕が『進藤』って呼ぶのに、何故母が下の名前で呼ぶんだ?」 「何、お前お袋さんにまで妬いてるわけ?」 「そういう話じゃないだろう。」 「きっかけは、あったよ。」 「ほう。」 「でもそれはお母さんとオレの秘密だ。」 「・・・ふーん。」 「腕枕、して。」 は?何を甘えたことを、と言い返しそうになったが、それはそれで 読まれているような気がして、逆に素直に腕を伸ばす。 進藤は残念ながら意外そうな顔もせず、その柔らかい髪を 僕の腕の付け根に乗せて、嬉しそうに胸に手を置いた。 その後も落ち着かなげに何度も頭を擦りつけるのがくすぐったくて、 思わず肘を曲げて進藤の背を押さえる。 「・・・ってかさ、普通、オレがするんじゃないの?」 「そうなのか?」 「うん。一度やってみたかったんだ。」 「なら君の日本語は間違ってたぞ。」 「そうかな。」 「そうだよ。」 「まあいいか。」 「いいよ。」 馬鹿な会話をしていると思う。 馬鹿な事を、していると思う。 というか腕が痺れそうな予感。 「あ、足。」 「足がどうかしたのか?」 「オレの足とお前の足、似てる。」 正座をしている者の常で、くるぶしの下あたりと甲の一点が 固くなっている。 勿論僕の方が正座歴が長いので少し固さが際だっているが 同じ方の足を並べてみると、確かに大きさと言い色と言い、よく似ている。 年頃の棋士はみんな似たようなものじゃないか、とも思うが そんな些細なことを発見して嬉しそうに笑う進藤が、 可愛い。 「明けてきたな。」 「ああ。」 「こうやって一緒に朝迎えんの、始めてじゃない?」 「あ、そうか。」 「いいよなぁ。こう、明るい未来が待っていそうな。」 「なんだよそれ。」 確かに、ニッポンの夜明けじゃ、なんて粋がりたくなるような。 例えば新婚初夜明けなんてこんな感じかも知れないけれど 別に君と僕は結婚してるわけじゃないしね。 「おい、見ろよ!塔矢。」 素肌にだらしなく毛布を羽織った進藤が、膝立ちで窓にへばりつく。 「地平線から日が昇るぅ、と。」 「ビルの隙間からだろう。」 「そんな情緒のない言い方するなよな〜。」 君の口から情緒という言葉が聞けるとは。 義務教育は一応終わってるみたいだね。良かった。 窓際に並んだ進藤と僕はしばらく無言で、眩しいけど柔らかい 朝の光を眺めていた。 日の出というのはどうしてこうも、神聖な気持ちにさせられるのだろう・・・。 「塔矢。」 「ん。」 振り向いたら至近距離に進藤の顔があってそのままキス。 神聖が台無しだ。 台無し、でもないか。 「・・・驚かすなよ。」 「へへ。始めての朝の記念。・・・お前も、驚かせて。」 ・・・僕からキスでもしろと? そういう、いつも僕が思い通りに動いて当たり前、という君の態度は 本当にどうかと思う。 第一僕はまだ君に好きだとか言った覚えもない。 細い朝日が、進藤の前髪一筋一筋をきらきらと光らせた。 薄い色の双眸の片側に光が溜まる。 僕は、吸い寄せられるように進藤に顔を近づけて、 5センチ手前で一旦停止。 琥珀色のヒカリを覗き込んで・・・・ 「・・・愛してるぜベイベー。」 進藤はこれ以上ないというほど目を見開いて仰け反った。 僕はこれ以上ないと言うほど、笑った。 −了− ※お読みいただいてありがとうございました。 「正直、いらないんじゃないかと思わなくもない。 私の中で最初アキラさんのゴールは口に出して「好きだ」と言える所だったんですね。 で、これだったんですが、今となってはなんだかもう。」 当時こんな言い訳してます。 |
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