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真実へといたる道 最近緒方さんと進藤は仲がいい。 前から顔見知りではあったけれど、今では友人に近いような 空気が流れている気がする。 よく二人一緒の所を見る訳じゃ、ないけれど、 偶に見かけても沢山話しているわけではないけれど・・・・。 よりによってあの緒方さんと。 ・・・進藤が。 今日、二人がすれ違ったのを見た。 「進藤、今日俺の家に来るか。」 「ははは。やめてよー。」 家に誘うほど、仲がいい? あの緒方さんが自宅に人を呼ぶなんて。 でも進藤は、断った・・・。 その断り方が。 目上の人に家に誘われたときの返答は何パターンか考えられる。 「はい、伺います。」 「いえ、今日は用事があるので。」 他にも 「何か、ご用が?」 「え、どうしてですか?」 進藤の返答はどれにも当てはまらない。 緒方さんも、本気で誘っているようではなかった。 断られる事を前提に、敢えて言ったような。 そう、余人には分からないお約束、のような。 ・・・共犯者のような。 それが二人の親密そうな空気の正体。 ・・・いいじゃないか別に。 二人に何があったとしても僕の生活には何の関係もない。 どちらも急速に強くなった訳でもないし、打ち方が変わった訳でもない。 恐らく碁とは関係ないところなのだろう。 でも、 訳が分からないというのは存外気持ち悪いものだな。 手合いでは勝っても負けても絶対原因を究明するのに 思えば日常生活では追求というものをおろそかにしてきた。 見ようによっては流され続ける人生。 もうそろそろ僕も大人というか、何かを深く考えてみるべき 時期なのかも知れない・・・。 ということで進藤。 まず、 「ははは。やめてよー。」と答えるのは、一体どんなパターンなんだろう。 進藤が礼儀知らずなのは周知の事実だから口調はともかく。 第一に、進藤は緒方さんの家に訪問したことがあるか、ないか。 ないとしたら・・・。それでも笑いながら断るっていうのは・・・。 何か緒方さんの家に、進藤が嫌がるような物がある、という情報を 既に知っている場合。 でも緒方さんの家にある物で、特殊な物って、魚・・・? 進藤魚苦手なんだろうか。 16にもなって水槽に入った魚が苦手というのも。 あと、酒。 緒方さん割と酒癖悪いから、多少困るかも知れないけれど・・・。 敢えて自宅、というのが。 考えてみれば緒方さんはプライベートは話さない人だし、 進藤が事前に自宅の情報を知っている、という仮定自体に無理がある。 既に訪問したことがある、と考えた方が良さそうだ。 それにしても進藤が何の用事あって緒方さんの家に行くのだろう・・・。 とにかく以前進藤が訪問したとき、酒でも勧められた・・・。 でも、まさか未成年にそこまで無理強いはしないだろう。 それにそうなら、 「酒なら飲みませんよ。」の方が自然だ。 いや、進藤なら「いやです。」とはっきり言いそうだ。 礼儀知らずだから。 ・・・そうだ。碁! 二人で、碁を打った。 緒方さんの自宅で。 自宅で、というのがまたひっかかるが、あの人も「sai」に執着していたし、 進藤の中の「sai」に気付いて、強引に誘ったのかも知れない。 それならば僕だけじゃ、なかったということになる。 気付いたのは。 とにかくそれで、打った。 進藤が嫌になるくらい。 いや、でも進藤の碁は、進藤の碁だしな・・・。 僕が一番知っている。 タイトル保持者の緒方さんと打てれば、喜びこそすれ「やめてよー」には ならないだろう。 それに、負けたにしろ、万が一勝ったにしろ 絶対僕の前で並べそうな物だ。 進藤なら、そうする。言えない事じゃないし。 ・・・笑いながら、断る。 本当は嫌でもないけれど、口に出して受け入れるわけにはいかない。 しかも、その物事を、言葉にするのが、はばかられる、事。 人前で言えない、という所で「碁」は消える。 「酒」は違法だから大きな声では言えないだろうが、 僕の前なら別に・・・。 限りなく白に近いグレー、という所か。 嫌だ。 なんだか嫌な方向に思考が進んできた。 元々緒方さんは塔矢門下であり、お互いがどう思っていようと 完全に僕の方が近しいはずだ。 だから、自宅に行ったりしたら、碁会所での対局前にでも後にでも 一言くらい僕に漏らしそうなものではないか? 僕は進藤に、全く、聞いていない。 僕にも、言えないこと・・・。 笑いながら、断る・・・。 本心は嫌じゃない・・・。 でも断らなければいけない・・・。 共犯者。 急速に距離の縮まった二人。 僕の思考は先程から同じ所をぐるぐる回っている。 まるで中心に近づくのが怖いみたいに。 あの「やめてよー」には「勘弁して下さいよ」、に近いニュアンスがあった。 笑いながら「勘弁して下さいよ」。 少しなら楽しいけれど、過ぎればつらいこと。 そしてその後急速に二人が親密になってしまう、事。 「対局」もある意味そうだし、あと「酒」と ・・・・「セックス」。 うそだろう。 答えは数日後にあっさり出た。 和谷と笑い合う進藤の会話が偶然聞こえた。 一部分だけだが十分だ。 「風呂に黒いタイルは変だよ〜。緒方先生じゃあるまいし。」 ・・・実際緒方さん宅の風呂のタイルが黒いかどうかは知らない。 黒いのが変かどうかも分からない。 だが、トイレのタイルは黒・・・。 「緒方さんの家の浴室のタイルは、黒いのか?」 人の話に割り込むのは好きではないが、言わずにはいられなかった。 和谷も少し驚いていたが、進藤はもっと目を見開いた。 少し首をかしげたまま僕を見つめる。 「・・・知らないけど、それっぽいじゃん?」 ・・・ああそう答えるだろうね。 最近気が付いた事だが、進藤が首をかしげる仕草。 2回ほど見たことがあるが、 僕に、その、悪さする前と、 自宅に僕を引き入れる前。 子どもっぽく見えるがその実、悪巧みをしている時 何か隠している事がある時、に見せる動きだ。 ・・・恐らく緒方さんの家の浴室のタイルは黒いのだろう。 「いやあド紫かもしんねーぞ!」 「なんせ普通に白とか薄い色が似合わねーのな。」 「黒白ツートンとか。棋士っぽくね?」 「やりすぎだよ〜!落ち着かねえし。」 二人の会話は悪のりしてどんどん転がっていく。 随分遠く、聞こえた。 「あ、そうだ塔矢、今日オレん家来ねえ?」 「はは。・・・やめろよ。」 −了− ※内容地味だからタイトルだけ派手。 |
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