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不夜城6 翌朝、汚い毛布にくるまって目覚めたら、進藤はいなかった。 夜中に出て行ったらしい。 気分が悪い。 節々が痛む。 でも、以前程ではないし・・・それ以上にもう、ボクには助けを呼べる人もいない。 ここは昨夜は密室のように見えていたが、実は小さいながらも窓がある部屋だった。 そこを段ボールか何かで適当に塞いだ上に布を掛けて目隠ししてあるらしい。 漏れた幾筋かの細い日光が、ホールとこの狭い場所を隔てている衝立に線を描いている。 ボクが動くと埃が舞って、光の通り道をはっきりと示していた。 夜しかないようなこの町にも、朝は来るのだと思った。 初めて犯された夜、緒方さんがいなければ、ボクはもっと早くそれを知っただろうか。 ・・・遅かれ早かれ、か。 ボクは子どもだったから。 毛布があるだけマシというものだ。 ・・・それにしても動けない。 昨日の、あやしげな店の人は一体何処に行ったんだろう。 まあ、どうせ店が開くのは夜になってからだろうから 動けるようになるまで休ませて貰って。 と。薄明かりの中で一眠り、した。 ・・・・・・人の気配がして、目が覚める。 どの位経ったんだろう。 「おい、起きろよ。」 目を開けると、さっきと角度の変わった光線の向こう側の暗がりで 青い竜が蠢いているのが見えた。 進藤が、いた。 無造作にこちらに背中を向けて着替えをしている。 何事もなかったかのように。 だからボクも、普通に起きた。 身体の痛みがだいぶマシになっている。 「おまえも今日取材だろ?」 「ああ・・・。」 そうだった。仕事。 ボクはプロ棋士だ。 今日は出来れば取材前に先週の棋聖戦の検討をしようなどと芦原さんと 言っていたんだった・・・。 いつもは駅辺りで気持ちを切り替えるので、この場で仕事の件を考えるのが 上手く行かない。夢の中にいるような違和感があって頭が働かない。 「・・・今何時。」 「大体・・・2時。」 検討どころか一旦家に帰るのもちょっと億劫な時間だ。 自堕落だな。 と思っていると 「2人分の着替え買ってきた。」 「・・・ありがとう・・・。」 ハンカチ落としましたよ、と言われたように、目の前の男が知らない人間に見えた。 着替えが必要になった原因と、まるで関わりのないような顔をして・・・。 実際そうなのだろう。 昨日ボクを犯したのとは別人の、昼間の進藤。 なのだろう。 ボク達は二人して、何も話さなかった。 進藤の方には言うべき事もないだろうし、ボクだって恨み言など言うつもりは初めからない。 ただまさか、この場所に戻ってくるとは思わなかったし 最初に顔を合わせた時は、もう少しは気まずそうな顔をするとか何とか そういうリアクションを無意識に予想していたので。 こんな風に普段通りの顔をされると、腹も立つし・・・何故か少し安堵したりもする。 ボクがそんな風にぼんやりとどうでも良いことを考えている間にも 進藤は立ったまま、シャツの包装のビニールを破って床に捨てた。 ・・・・・・・? ・・・・・・何だ?あれは。 その動きで窓から漏れる光に丁度さらされた、 腕の一部が、赤い。 「進藤。」 「ん?」 「それ・・・。」 二の腕に。 「ああ。いいだろ?今朝おっさん叩き起こして彫って貰った。」 腕を上げてニヤリと笑う。 頬を肩につけ、「あ。血が出てる。」と、舌を長く伸ばしてちろりと舐めたのは、 まだ彫りたてで周囲を赤く腫らして盛り上がっている、 ボクの名前。 二の腕に。 ・・・・・・え? 頬を弛めて子どものように大雑把に笑う、進藤。 の、これは、プロ棋士の顔でも夜の顔でもない、 三つ目の顔。 それは、どういう。 一体、・・・・・・。 ようやく声が出たのは、十数秒経ってからだった。 「・・・格好悪いよ。そんなの。」 「いーんだよ。」 いいもんか。一生消えないんだぞ? ・・・・・・ それからもボクはあの街に足を運び、進藤とつるみ、暴力を振るう。 殴られることも覚えたし、戦う楽しさも分かってきた。 今では進藤と同じくらいにコツを覚え、強くなり、そして狡くなったと思う。 揃いの刺青が同じように崩れる頃には、二人とももっと強くなっているだろう。 その進藤と本気でやり合ったらどうなるかなんて偶に思うけれど、 それは盤上で叶うからいいんだ。 −了− ※些か強引な終わり方。 お付き合いいただいてありがとうございました。 どうでしょうねぇ。「塔矢アキラ命」とか彫ってあったらかなり笑えますね。 アルファベットで「AKIRA」とか・・・それもなぁ。 消化してない部分があるので気が向いた時に続けるかも。 |
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