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或阿呆の非恋愛 「ヒカル・・・ダメだ・・・・。」 「いいじゃん。もっと顔見せて。」 塔矢の悩ましい顔。 口をすこおし開いてさ、顔赤くしてさ、 きっと、たまんない。 「ねえ、もうさ・・・」 フォンーーー・・・・ ゴーーッ、ゴーーッ、ゴーーッ・・・ ハッと目を開くと、周りがただならず騒がしくて、思わずパニクりそうになる。 そしてそんなオレを不審そうな目で凝っと見ている塔矢。 一定間隔の振動。 窓の外をすごい勢いで通り過ぎていく鉄柱とその向こうの広い空。 あ、そっか。 今オレは地方のイベントに呼ばれて指導碁に行く途中だったんだ。 にしても北斗杯の選手三人共を呼ぼうなんて、ゴージャスだよな。 呼ばれる立場で言うのもなんだけど。 でも、お陰でこうやって塔矢と二人きりで電車に乗って小旅行気分を味わえるんだから感謝しなくちゃ。 その地方と、社の学校の期末試験に乾杯。 向かいの席に座っている塔矢は、もう手元の詰め碁集の本に目を落としている。 さっき変な顔してたけど、オレ何かおかしな事言っちゃった? まだ電車は橋の上。 うるさくて、話しかけられない。 ゴーーッ、ゴーーッ。シュン・・・・・・。 ・・・カターン・・・カターン・・・ やっと通り過ぎてのどかな音が戻ってきたんで、訊いてみた。 「塔矢・・・?」 「何。」 「あの、オレ寝てたんだよな?」 「ああ。しばらくね。」 「何か寝言でも言った?」 「いや。」 「じゃあ、さっき何でオレの事見てたんだ?」 「別に・・・。起きたなと思って見ただけだ。」 それならいいんだけど。 塔矢はまたすぐに視線を落とす。 それにしても愛想ないよなぁ。 そりゃ、窓枠の照り返しに白いほっぺが光って、 微かに揺れる髪は真っ直ぐでキレイだけど。 伏せた睫毛はちょっと長いけど。 どうしてオレ、こんな奴が好きなんだろう。 なんで男の顔でイけるかなぁ。 かなり前からオレの夜のオカズは塔矢アキラだった。 何でかなんて分からない。 初めて会った時から男にしては可愛いなとは思ってたけど、それがこんなに 性欲の対象になるだなんて、思ってもみなかった。 だって、表情怖いし。 対局中のキツイ目なんか思い出すと本当に萎えちゃうんだけど、 それでも「週刊碁」の証明写真みたいな塔矢の写真を前に 興奮しちゃってるオレってどう考えても変態っぽいと思う。 何だろう。女みたいな顔してるのに表情が男くさいところがイイのかな? ボーイッシュな女の子と同じ扱いなんだろうか。 よく分かんないや。 とにかくこの旅行(いや仕事だけど)で沢山塔矢の顔を見て、 出来たら悩ましい表情の写真なんか撮れたらまた新たなオカズゲット、 ってなつもりだったんだけど。 無理っぽいよなぁ・・・。 人前で簡単に油断する奴じゃないし。 行き先は山の谷間の町、驚くほどこじんまりしたところで、 オレ達を呼んだのも町の有力者の個人的な趣味と出費のようだった。 お陰で堅苦しい手続きとか挨拶もなくて、のんびりと地元の人と話したり碁を打ったり。 ちょっとした名所に連れていって貰ったり、ホントに家族旅行みたいだった。 で、オレは景色と言うよりは塔矢の顔を撮るべくどこへ行くにもカメラ持ち歩いてたんだけど なかなかその機会が・・・。 車が急停止した時でも、道歩いてて日差しが眩しい時でも何でもいいからさ、 ちょっと目を閉じたり眉しかめたり口開けたりしてさ、色っぽい顔してくれたりしたら滅茶苦茶嬉しいんだけど。 と思って、注意深く観察してんだけど、塔矢って人前で欠伸一つしないんだよな。 目も閉じないし。 いつもの仏頂面やお愛想笑いの写真撮っても仕方ないよ。 ここは申し訳ないけど、表情崩すために一つ少しだけ痛がって貰おうかな・・・? とか思って、よろけた振りしてワザと足踏んでみたりした。 塔矢は眉一つ動かさずにオレをジロっと睨んだ。 「あの、ご、ごめん。」 「・・・今、ワザと踏んだ?」 「そ、そんなわけないじゃん!」 「そう?なら良いけれど。ボクの事が嫌いなら嫌いとはっきり言ってくれ。」 そんな!そんな、訳ないよ!オレ、オマエの顔でイけるぐらいなのに! とか言ったらコロされると思うけど! と、汗ダラダラかいてたら、くすっと笑って、 「冗談だよ。」 う・・・・ っわーーー!滅茶苦茶可愛い! オマエってそーいう顔出来るんだ!今のすごくシャッターチャンスだった!しまった! 「あの・・・、」 「何だ?」 「や、何でもない。」 と、あぶねー、あぶねー、いくらなんでも写真撮りたいからもう一回笑ってくれなんて んなこと言ったらかなりヤバい奴だって。 オレが踏みとどまったのに、塔矢はまだ訝しそうな顔でこちらを見ている。 「・・・キミ、何かボクに言いたいことがあるんじゃないのか?」 「え、な、何で?」 「よくボクの顔を見ているじゃないか。」 ・・・・・・ぎゃーあーーっ! 「気付かないとでも思っていたのか?」 バレてたですかー! すみませんすみませんもうしません。 「別に・・・。」 「なら、いいけれど。」 少し不満そうな顔をした後、髪を揺らしてくるっと向こうを向いた。 うー、さっきの可愛い笑顔は幻だったのか。 でもさ、えへへー。 今夜は最大のチャンスだかんね。 なんてったって 今日は塔矢と同じ部屋! ぜってー塔矢より遅くまで起きて、寝顔の写真撮る! 夕食は主催者に招かれて、山の幸川の幸ありで素朴だけれどとても美味かった。 酒が飲めればもっと遅くまで付き合わされたのかもしれないけど未成年だから 比較的早く返して貰えた。 旅館に帰って畳の部屋に着くと、もう布団が敷いてある。 二つ並べてあると何だか新婚さんみたい・・・だなんて、これも言ったら殺される、な。 「・・・お疲れ様。」 「ああ、お疲れさん。」 部屋に帰ってきて漸く、仕事が終わったーって感じがして、オレ達は挨拶を交わし合った。 「この後どうする?すぐ風呂に行く?」 「え。風呂?」 「ああ。温泉があると言っていたじゃないか。まさか入らない訳じゃないだろう?」 入る。入ります。入りますよ。けどね。 風呂に入るってことは服脱ぐよね。 オレの裸はいいんだ、オレのは。 でも、塔矢の裸かぁ・・・。 それはものすごーく見たいような、見たくないような。 やっぱ脱いだら・・・さすがに付いてるだろうなぁ。塔矢でも。 あまり考えた事ないけど、それってどうなんだろ。 もしそれで萎えちゃったら、せっかくのオカズが・・・。 見ない方が良い物もあるってか、知らぬが仏って言うしな。 逆に、もしそれでも勃っちゃったりしたら、余計にヤバい。 ヤバいなんてもんじゃない。塔矢に変態がバレる! 「いや、オレ後で入るから、行って来てよ。」 「何なら先に入るか?」 ノーッ!オレは絶対おまえより後に寝るんだから、 おまえは先に入って、先に出て先に寝ててくれ。 塔矢は不審な顔をしながらも、風呂に行ってくれた。 「お先・・・。」 部屋で棋譜を並べてると、襖が開く気配の後、塔矢の声がした。 「おかえ、」 ほかほかと、ふやけているせいか、いつもより色が白く見える。 上気した頬、赤い唇、黒く濡れた髪。 そして旅館の浴衣を着た塔矢は本当に・・・。 「何?」 「あ、いや、き・・・」 「き?」 キレイだなんて言われて喜ぶ男も多くないだろう。 「き、着物似合うなぁと思って。」 「着物って。浴衣と言ってくれ。」 苦笑する、その顔もとってもキレイ。 目がカメラに向く。 そうだ。今、めっちゃチャンスじゃん! この塔矢を撮らなくて、どの塔矢を撮る! 「あの、記念に写真撮ってやるよ。」 「記念?何のだ。」 「ここに来て、この旅館に泊まったって記念。」 「ボクはいいよ。それならキミを撮ってやるから、浴衣に着替えろ。」 違うんだって!何だってオレの浴衣姿なんか残さなきゃならないんだよ。 おまえを撮らなきゃ意味がないんだって! それに・・・今着替えるのは、ちょっとまずいかも。 おまえが、おまえが色っぽい格好するからだバカヤロー! 「早く着替えろよ。」 「い、いやだ。」 「え?」 「ふ、風呂に入らないで着替えるなんてヤダ。今から入ってくる!」 オレは自分の浴衣を掴み、「先に寝てろよ!」と捨てぜりふを残して 風呂場にダッシュした。 しまった・・・・・・。 パンツ忘れた。 まあいいけどね。部屋に帰るまでの間くらい。 部屋に帰ったらパンツ穿いて、塔矢の寝顔の写真撮って寝よ。と考えながら ぶらぶらさせながら帰った。 それで今日は終わりのはずだったのに。 「何で起きてんだよ・・・。」 塔矢はまだ起きて、オレが並べかけていた棋譜の続きを並べていた。 「さっきまで髪を乾かしていたんだ。もうそろそろ帰って来る頃だろうと思って待ってた。」 「寝てたらいいのに。」 「写真撮るとか言ってなかったか?」 いーんだよ!撮るのはおまえの寝顔なんだから。 いやーてゆうかー、寝顔激写作戦より前に、パンツが・・・。 「どうした・・・?」 不審そうな顔をした塔矢が、立ち上がってこちらに来る。 「顔が赤いぞ?」 「来るな!」 そんな、心配そうな顔で、白い首筋曝して来んな! オレは、オレは、おまえの顔で反応するように出来てんだよ! 背を向けて、逃げ場所を探していたら。 肩から引っ張られ、壁にどん、と押しつけられた。 「な、」 「今更だけど。」 痛たたた。 こ、怖いよ塔矢!何だよ塔矢・・・。 「キミ、ボクの事、好きだろう?」 「・・・・・・。」 目の前に、塔矢の真顔。 頭の中一杯に、広がる塔矢の目の色。 それ以外、それ以外何もない。 何も、考えられない。 「まさか、気付かないとでも思ってたのか?」 「・・・・・・。」 汗がダラダラと流れる。 風呂に、長く入りすぎた・・・じゃなくて。 パンツ。 「今日は下着も穿いてないみたいだし。」 「ど、」 「・・・もしかして誘ってる?」 「ど、どうして、わか、す、透けてる?」 「透けてないんだよ。下着のラインが。」 塔矢に、 バレた!バレた!バレた!バレた! パンツ穿いてないのがバレた! 絶対おかしいよオレ! しかもさっきから股間押さえてるし! 何で収まってくれないんだー! なんかダメ。もうダメ。 頭パニックで、何が何やら。 もう・・・。 「塔矢、ゴメン・・・。」 「え?」 「ゴメ・・・。」 「え、何が?・・・進藤?どうしたんだ?」 視界がじわじわと滲む。 「オレ・・・へ、変で、ゴメ・・・」 おまえの顔オカズにしちゃってゴメン。 パンツ穿いてなくてゴメン。 おまけにまたおまえ見て勃っちゃっててゴメン・・・。 俯くと、涙は瞳の中央に移動した。 そのまま何とか消えてなくなっちゃってくれないかと思ったけど、 うっかり瞬きしたら、溢れて落ちた。 どんどん遠ざかり、素足の甲でぱたりと弾ける水の玉。 「進藤。」 塔矢がオレの肩を掴み、そっと身体を近づけてくる。 「・・・塔矢。」 「おかしくなんか、ない。」 「塔矢?」 「ボクだって、キミの事が。」 ??? 「好きだった・・・。ずっと。」 ・・・え? えーーっ?えーーっ?ええーーーっ? 塔矢がオレを? って、ええ?どういうこと? 好き? 好きって、え、好きってこと? 「キミがボクを好きなように、ボクもキミが好きだった。」 「・・・・・・。」 「両想いだったんだ。ボクたちは。」 えーと。えーと・・・。 ちょっとまだ現実感が湧かないというか、ちょっと意味がよく分かんないんだけど、 でも、でも、塔矢が怒ってなくて、変な顔もしてなくて、 しかもえらく幸せそうな顔をしてるってのが・・・。 「・・・嬉しい。」 「うん。ボクも。」 塔矢がにっこりと笑う。 今なら。 今なら、言える・・・! 今しか言えない! 「塔矢。」 「うん?」 「寝て・・・くんないかな。」 オレの事好きだってんだったら、是非先に寝て、寝顔の写真提供してくれないかな! 「い・・・今か?」 「ダ・・・メかな・・・。」 や、やっぱ唐突だった? オレ何か変なこと言った? 言ったよな。この状況でいきなり先に寝ろなんて絶対おかしいよな。 「い、いや、別にいいんだ。ゴメン。いつでも、いいんだ。いつでも、気が向いた時で。」 塔矢は口に手を当てて、考え込んでいる。 少し顔が赤い。 「・・・それはその、少しは考えないでもなかったけれど。」 「や、ゴメン。忘れて。」 「いやその事なんだけど・・・、ボクはどっちでも良いと言えばいいんだけど・・・その、」 何だろう。いつも歯切れのいい塔矢が。 なんか口ごもってるのが妙に可愛いな〜と思って見ていると。 やがて意を決したように出てきた言葉。 「・・・キミにはネコが似合うと思う。」 「は?ネコ?」 「そう。」 何で唐突にそんな話題? いや、オレも話飛んでるから全然人の事言えないんだけど。 「ネコになるってこと?」 「そ、そう!そうなんだ。」 頬を染めて、パッと輝く顔。 なになに?なんでそんな事でそんなに恥ずかしそうな嬉しそうな顔するの? オレってそんなにネコっぽい? でも 「そういうならオマエの方がネコだよ。」 「え・・・?」 そんなに驚くことないじゃん。 言われた事ない? オマエって素直じゃないし、感情表現下手だし、典型的なネコタイプだと思うんだけどな。 「え・・・と、それは・・・。」 「いつも澄ましててさ、キレイなのにキツくて、油断したらひっかかれるし。」 「・・・・・・。」 「でも、ホントはこんなに可愛い・・・シャム猫みたい。」 おずおずと指で顔に触ったら、ホントにネコがびっくりしたような顔をしていた。 それが何か面白くて、手で頭の上に耳を作って「みゃお。」とからかうと、 突然すごい力で抱きしめられた。 「進藤!・・・・進藤!」 「な、何?苦しいよ、塔矢。」 「あ、ごめん。」 誰かに抱きしめられたなんて多分初めてで、(よっぽど小さい時の事は知らない) 凄くびっくりしたけど、嫌じゃなかった。 どっちかっていうと、暖かくて気持ち良かった。 「あの・・・。」 「何?」 「いや、その、いいんだ。ボク達の先は長いんだから、」 「うん?」 「ゆっくり、ゆっくり付き合って行こう。」 「お、おう。」 何だか分からないけど、抱きしめられるまま、負けないように強い力で抱き返した。 何だか分からないけど、オレが変でも、これからも付き合って行ってくれるんだな。 碁も、打ってくれるんだな。 ・・・嬉しい。 良かった・・・。 与えられる体温に、オレは子どもみたいに安心した。 ・・・・・・と、さっきそういや、塔矢が何か。 オレの事「好き」とか何とか。 ・・・男に向かって「好き」だとか「両想い」だとか、 おまえが言ったらホモくさくてヤバいからやめろって、 今度教えてやろう。 −了− ※まあ、何でボツか分かりますよね。 「乙女な二人のラブラブ」というリクだったのに、二人とも乙女じゃないしラブラブじゃないし(笑) あ、しかもちうもしてないよ。全然違うじゃん! 何考えてたんだろ。 ああ、塔矢が言ってるのは「タチ」か「ネコ」かの「ネコ」です。一応インフォメーション。 |
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