鍵穴趣味 4
鍵穴趣味 4








すぐに口づけは本格的になり、竜崎の舌が深く侵入して来た。
舌を絡める程に鉄の味が広がり、そして薄まる。
このキスが曲者なんだと思うが、薄く長くよく動く舌に口内を翻弄されると
体が勝手に、熱を持ち始めた。


……あなたがキラなら、私と一つになって私の事を知り尽くしたい筈。


僕は結局、何の返事も出来なかった。
竜崎の舌に上顎や歯茎をしつこく責められて口が開けられなかったからだ。
それに頭の中がじわじわと侵食されて。
もう、思考能力が働かない。感覚を追うことしか……


「可愛いですよ、キラ」


駄目だ。目も開けていられない。
唇と口内の感覚を味わうのにいっぱいいっぱいで、
視覚すら脳に入り込む隙がない。


「こうなってしまえば、牙を抜かれた虎ですね」


そう。僕は、恥ずかしい程に、


「それとも、これがあなたの牙ですか?」


硬く勃ち上がっていた。
竜崎のペニスの先が、僕の茎をつつく。
思わず身じろぎすると、どちらの物か、ねば、と冷たい糸が引いた。

だが僕に、男を抱く事は出来ない。
特に竜崎は。


「……違う」

「では、私が抱いて良いですね?」


しらじらしい……そう罵りたいのに、声が出なかった。
唇が逆らう。
体が、竜崎の愛撫を求めてしまう。

竜崎は何もかも分かっている、というように目を細めると、
ぐいぐいと腰を動かした。


「ちょっ、」


ぬるりとした感覚に、冷や汗が出るほど感じてしまう。
竜崎は、そんな僕の困った顔をじっと見つめていた。
あの、冷たく暗い淵。
見つめ返したら、飲み込まれてしまう……。

顔を背けると、硬いモノが離れて行った。
安堵しながらも少し惜しく思っていると、僕の頭の両横が沈んで、


「竜崎!」

「舐めて、下さい」


膝を突いた竜崎が、僕の首筋に熱く脈打つ物をぴたりと当てていた。
どく、どく、と耳に響くのは、竜崎の脈動なのか、僕の頸動脈なのか。

冗談じゃない、と歯を食いしばると、唇に、オスの匂いが、


「やめっ」


抗議をしようとした口に、丸い物が入り込んできた。

嘘、だろ?

「め」の発音をしかけたまま、半分開いた口に竜崎の先の半分が入り、
舌が先端に当たってしまっている。

少しでも動けばより舐めてしまう事になりそうで、微動だに出来ない。

この僕が、女性の性器にすら顔も近づけたことのない僕が、
ペニスを口にしているなんて……!


「どうぞ」

「が、あっ」


うっかり口を開くと、案の定深く入り込んできた。


「ああ……暖かいです」

「あ……あ……」


乱暴に、奥に入れられると。
さすがの僕も、同性として歯を立てる事は出来ないが、
喉の奥を突かれてえづいた。

というかちょっと、待て!

両手でもがくとジャッ、ジャッ、と鎖が鳴る。
肘で何とか腰骨を押すと、少し抵抗はあったがあっさりと引いてくれた。
ごほごほと、咳き込む僕に不興げな声が降ってくる。


「お尻の穴、舐められるの嫌なんですよね?」

「……嫌、だ。絶対、二度と、しないでくれ」

「なら、濡らさないと辛いのはあなたですよ?」

「おま、前からこんなだった?」

「はい?」

「こんなの、入る訳ないだろう!」


他人の性器の大きさに言及するなんて、そんな品のない事をしたことはないが
今はそれどころではない。

以前も大きく見えたが、あの時はそれ以前のダメージで朦朧としていた。
だが今はまだ頭が冷えていて、


「何言ってるんですか。嬉しそうにくわえこんでいたくせに」

「いやいや、無理!」


竜崎が、顔を背けて声を出さずに笑った。
間接的に大きいと言われた事で悦に入っているとしたら腹立たしいが、
背に腹は代えられない。

僕が顔を引きつらせていると、珍しく空気を読んだのか竜崎も真顔に戻る。
体勢を変えて、また性器同士を左手で一緒に握り込まれたが、
先程までの事を思えば気持ち悪さも感じなかった。


「細ければ、いいんですか?」


少し沈んだ声で言いながら、右手の人差し指と中指を胸の辺りから
とことこと歩かせて、喉を通り、顎を越え、唇の所で止まる。


「ああ……」


言いながら口を開けて舌を出してやると、二本の指は嬉しそうに入り込んできた。
乾いていて、少し塩辛い。
あれだけ毎日甘い物ばかり食べていて、どこからこの塩分は来るのだろうと不思議だが
精神的にも肉体的にも疲労しているので、妙に美味しく感じられた。

舐めながら、竜崎のが本当にこれくらいの太さなら良かったのに、
などとつい考えて我に返り、軽く落ち込む。


それでも、下半身もそれなりに刺激されながら、他人の指をしゃぶっているという
状況は、妙に興奮した。

足の間の竜崎の腰の動きがだんだん早くなる。
僕の唾液に加え、新たに分泌された粘液が、
内側からもどかしく、こみ上げる感覚を、

口内でも唾液が溢れて、唇の端から頬に垂れていた。

僕が顎を開くと、察して指が抜かれる。


「……も、イクっ!」

「待って下さい」


竜崎がぱっと、手と下半身を同時に離した。
性欲が悲鳴を上げて、無意識に腰が持ち上がる。
その膝の裏に手を差し込まれて、片足が、持ち上げられた。


「ひっ、」


その先に起こる事が予想されて、息を呑んだと当時に
濡らした指が僕の後ろに当てられた。

ああ……もう、逃げられない。
眉を寄せると、中に指が入り込んできた。
ぬるぬると、滑らかに。
このために指をくわえさせたのか。

何も考えなくても、前回教え込まれた僕の中の悦い所が竜崎の指を求めて動く。
小さく腰を蠢かしていて、我ながら気色の悪い動きだが
止めることが出来なかった。


「優秀です。もうそんなに私を煽れるなんて」


なのに、竜崎は意図的に僕の前立腺を刺激しないように指を動かした。
あと一押しで、イケるのに。


「……慣れたんですね。解れるのが早いです」

「え?」


指がすっと抜かれ、独特の素早い動きで竜崎が僕の両太股を抱える。
先端を当てられて、


「無理って言っただろ!」


僕は悲鳴を上げた。
事態を把握しただけで、自分がどんどん萎えていくのが分かる。


「無理じゃない、と言ったでしょう?」


ぐいぐいと、押しつけてくるそれは、この上なく臨戦態勢で。
唾液で十分に濡れた穴を、押し広げようとしていた。

そのまましばらく、微妙に体勢を変えながらそこに侵入しようと試みていたが。


「……拒むつもりですか?」


竜崎が、珍しく焦ったような苛立ったような声を出した。
こんな所は妙に人並みだな、と少し可笑しくなったが、本人は不機嫌そうだ。
まあ、男として気持ちは分かるが。


「いや、そんなつもりは」

「そのまま締め付けていられたらいいですが、油断したら切れますよ?」


そんな事を言われても!
竜崎が本気だというのは分かっている。
僕がいくら締め続けたとしても、最終的にはきっと突っ込んで来るだろう。

こちらも怪我をしたくないから、精一杯緩めようとしているのだが、
力が……抜けないのだ。
僕の意に反して、そこが、前回の痛みを覚えていて硬くなっているらしい。

何とか受け入れようと努力していると、一瞬力が緩んだのを逃さず
竜崎の先が入り込んで来た。


「っ!」

「もう、諦めて下さい。せっかく解したのが無駄になります」


お互い裸で、こんな格好でいる時に、いつも通りの
淡々とした話し方なのが妙に腹立たしい。


「痛、い……」


恥も外聞もなく、泣き言を言ってしまう自分も。
息を吐いた事によって微妙に力が抜けたのか、またずる、と
入ってきた。


「った!」


どうやら亀頭が通ってしまったようだ。
尋常じゃない、気を失いそうな痛み。


「力を、抜いて下さい」

「わかって、る……」


竜崎も困っているだろうな、と思って目を開けると、
いつもの無表情ながら……、どこか楽しそうで高揚しているように見えた。


「……やっぱりおまえ、サドだろ」

「かも知れません。無理矢理、というのも悪くないものです」


そう言って、口の端を上げる。
僕は、力を抜こうと思っても抜けないのに。
逃げ場のなさに、絶望的な気分になった。






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