黄 13
黄 13








ニアに言われたからと言って、すぐに夜神の監視に入るのも面白くない。
妹もまだ帰宅していない筈なので、私は行った事のない図書室へ
何気なく足を向けていた。

ドアの外に立った時、中からぼそぼそと話す声が聞こえる。
このまま入っても良いか、誰かの邪魔をしてしまわないか、
私は足音を殺してそっと中の気配を伺った。


「……るだろう?」

「……だな。とにかく、……」


だが、聞こえてきたのは驚くべき事に日本語だった。
考えるまでもない、夜神と……何故か居る、妹だ。
こっそり早めに帰ってきたのか……何の為に?

……夜神と、密談をする為?


「で、どうする?」

「取り敢えず付き合いは続けよう」

「兄貴と私に二股を掛ける訳か」


不味い……私との関係を、あっさり白状したのかアイツ。

思わず口を開きかけたが、妹の声音はどうやら怒ってはいない、
どちらかと言うと楽しんでいる様子に違和感を覚え、続きを聞いてみる事にする。

……その判断は、正解だった。



「『L』に抱かれるなんて、おまえも酔狂だな」




妹の爆弾発言に。
思わず息を呑んでしまって慌てて気配を殺したが、何とか気付かれなかったようだ。


あの子は……メロは、私がLだと、知っていたのか……。
そして、自分のボーイフレンドが夜神だと……キラだと、気付いていたのか?


という事は、これは。
これは……、どういう事だ……?


私が惑乱する間にも、顰めた声での会話は続いていく。


「目的の為には、大した事じゃない」

「そう?結構楽しんでたりして?」


妹の声に応えて、低くくすくすと笑う声が聞こえる。


「男も女も、さほど変わらないんじゃないかという気はしてきた」

「まあ、女が良くなったら私に言えよ」

「うん。そんな時が来るかも知れないけれど、それはまだ先だ。
 Lもニアも君を大切に思っているようだからね、何かに切り札に使えそうだし」


なんだ、これは……。

彼と妹は繋がって……いや、ニアと言っていたから、
キラとメロとして、交流があったのか……。

いや、前世では会っていない筈だ。
今生で……いつの間に……。

……中学生の頃から、か。


「悪い男だな。
 前世でもそうやって、あの可愛くてバカな女や、高田を操縦したのか」

「彼女たちの頭の程度に差は無いよ。君と比べれば」

「……分かっていても悪い気はしないから、質が悪い」


そっとドアの陰から中を盗み見ると、
ニッと笑った妹が、夜神の肩に手を載せていた。


「しかし本当にニアがロンドンまで着いて来るつもりとはな。
 上手く誘導したな」

「いや、あの様子なら僕が挑発しなくても、君に着いていったと思うよ」

「いずれにせよ却って好都合だ。
 ……もし俺がアイツとヤッたら、どうする?」


メロ……!


「君にニアと本気で組まれると厄介だけど……その可能性は何%くらい?」

「ゼロ」

「なら構わない。
 僕もニアの事を調べたり攻撃したりする理由が出来るし」

「人でなしだな」

「お互い様だよ」


そう言って顔を見合わせ、共犯者の微笑みを浮かべる二人。


「そう言えば、君はどうして僕に協力してくれるんだ?」

「前も言っただろ?
 元々俺は、あんたみたいな犯罪者は、嫌いじゃない。
 それに前世であんたの親父を結果的に殺す事になってしまったからな」


……メロは……マフィアのアジトを爆破して、その際
夜神総一郎が死んでしまったのだったか。


「罪滅ぼし?そんな殊勝なタイプじゃないだろ」

「酷いな。満更嘘でもないんだが……。
 うーん、どちらかと言うと、ニアに一泡吹かせたい、というのが大きいかもな」


……やはり、妹では、ない。
完全にメロの思考だ。
私は複雑な思いで立ち聞きを続けた。


「僕も、デスノート奪還計画の最初の動機はLへの対抗心だな。
 前世でさんざんデスノートを使って悟ったんだけれど、
 デスノートで世界を平和にする事は、出来ないようだ」

「世界を……平和って……」


妹は目を見開いた後、顔を歪めて盛大に吹き出した。


「あんた……!本気でそんな事考えてたのか?!」

「ああ。本気で、心優しい人だけの平和な世界を願っていたよ」

「嘘吐け。本当の動機は、それじゃないだろ。
 もしそんな世界が来たら、性格悪いのはあんただけになってしまう」

「それ、死神にも言われた」


二人は、また顔を見合わせてくっくっく、と声を潜めた大笑いをした。
……何だか、苛々として来た。


「冗談はさておき、確かに、人生イージーモード過ぎて退屈だったのも
 あるかも」

「あんたがワイミーズハウスにいたら、キラ事件は起きなかったな」

「ああ。今も、君のお陰で退屈してないからね」

「退屈してないのは、Lのお陰だろ?
 まあ、あいつらの悔しがる顔を見たいからデスノートを取りたい、っていうのは
 賛成だ」

「ああ。そしてデスノートを手に入れた暁には……例の計画発動だ」

「面白くなるな」

「退屈する暇なんてない。
 その為にも、まずはそれぞれ今後の予定を練り直そう」



……メロ。

キラ。



恐るべき子ども達、だ。

二人でニアと私を欺き、デスノートを手に入れるつもりだったのか。
ニアはメロに対しては油断をしているから、正直悪いプランでは、ない。


どうやら彼等は、なけなしのモラルも前世で使い切ったようだ。
デスノートを取られたら、何に使われるのか……考えただけで頭が痛む。


甘い物が、欲しい。




「……で、デスノートを手に入れた後、Lはどうするんだ?」


そろそろ話は終わりかと思っていたら、突然、自分の名前が妹の口から飛び出した。
慌てて耳を澄ませる。


「さあ」

「まさか『こちら側』に引き入るつもりか?そんな事可能だと思うか?」

「……まだ決めてないよ」

「一応言っておく。妹の私が言うのも何だがあまり情を移さない方がいい。
 Lに対して、少しでも油断をしたら必ず後悔するぜ」

「そんな事分かってる」

「どうだか」


今度こそ本当に話が終わったのか、二人が図書室から出てくる気配がしたので、
私は足音を殺して物陰に身を隠した。





それにしても。


……メロと夜神が、繋がっていた……。


夜神がニア周辺の捜査を……デスノートをあっさりと諦めたように見えたのも、
最終的に私を受け容れたのも、この自信からか。

確かに面倒で、思いも寄らなかった組み合わせだ。
メロの記憶を持った妹と、キラの記憶を持った夜神……。


だが。


……正直、興奮する。


二人なら私に勝てると思っているのか。
馬鹿馬鹿しい。

元々負ける気はしないが、偶然とは言え、既に私はそれを知った。
今は確実にこちらに利がある。

遠からずおまえのその自信を粉々に打ち砕いてやる。
最も効果的な方法で。
メロを私の方に寝返らせるのも良いし、ニアと組ませるのも良いだろう。

私は。
ほくそ笑みながら私に抱かれるおまえを、嘲笑いながら抱くとしよう。


二人をやり過ごし、ニアの部屋に向かいながら
私は新たなゲームの始まりを予感して、こみ上げる笑いを抑える事が出来なかった。





--了--





※お読み頂いてありがとうございました!

  最後、Lと月をらぶらぶにしてきれいに締めるか、
  敵対したまま続きそうな感じにするか、迷ったのですが、
  やっぱり月メロ(メロ月)ネタを使いたくてこういう形にしました。

  多分続きませんけどね。






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