Trick but Treat 3 よし、声は震えなかった。 このまま竜崎が襲ってきたら、絶対に睾丸を蹴り上げてやる。 「はい」 迫り来る体温。 竜崎は僕の肩を掴んで仰向けにし、のし掛かってきた。 「どけ!」 「少しだけ……」 さっき、金木犀の香りにふらふらとして僕を襲おうとしていたのは まさか本気だったのか? おい、僕だぞ? 夜神月だぞ? 「触らせて下さい」 「嫌……だって!変態!」 「変態……私が……」 「そうだろ!おまえの良く知る僕は男だ。 何ヶ月も一緒に暮らした男が、女の体になったからと言って いきなりその気になるなんて、変態以外何者でもない」 「その気に……なんてなってません」 「僕だってもし妹が実は血の繋がりがない、という話になったとして、え?」 竜崎は心底心外だという顔をして起き上がり、しゃがんだ。 僕もパジャマの襟を掻き合わせて体を起こす。 「さっきも言ったように、私があなたに欲情する事はあり得ません」 「え?いや、」 「ただ、触らせて欲しいと」 「だからそれが」 言いかけて、僕は自分の誤解に気付いた。 しまった……。 耳が熱くなったが、この薄闇では気付かれないだろう。 「ぶっちゃけ、私はあなたが嘘を吐いていると思っています」 「……」 「手錠から外れた僅かな隙に強力な女性ホルモンか何かを投与して 胸を膨らませ、女性になったと私に思い込ませようとしている……」 「だとして、僕に何のメリットがあるんだよ」 「そこなんですよね。それが分からない。 なので基本に立ち返って、私の仮定を確認したいんです」 胸をちらりと見せただけでは納得しない、か。 確かに、僕が竜崎だとしても同じ事を考えるだろうな。 それ程今の状況は奇想天外だ。 「性器を見せてくれとは言いません。 ただ少し触らせて下さい」 「おまえずっとそんな事考えてたのか」 「はい」 それで風呂に入って来ようとしていたのか。 こんな面倒臭い事になるのなら、その時ちらりとでも見せておいた方が 面倒がなかったかもな。 「もしあなたの主張が正しく、本当に女性になっていて 私に元に戻す方法を一緒に探して欲しがっているとしても。 私がそれを確認しない限り、前には進めません」 「……」 まあ、それもそうか……。 「分かった」 「ありがとうございます」 「でも、服の上からだからな」 「……」 「あと、掌で触られるのはやはり気持ち悪いから、手の甲にしてくれ」 「……仕方ありませんね」 「僕が触らせるから。おまえは自分の手を動かすな」 「……」 眉根を寄せた竜崎に構わず、僕は再び横たわる。 竜崎の方に手を差し出すと、少しの間の後、右手が伸ばされた。 これだけ長い間一緒に暮らしていても、竜崎と手を繋いだ事など 勿論ないが、意外と骨張って大きな手だ。 いや、僕の手が少し細くなったからか……。 僕は両手で竜崎の手を持ち、少し躊躇ったが仕方なく 手の甲を下にして、自分の股間に導いた。 恥骨で少し盛り上がった、しかしつるりとした部分に触れさせ、そっと動かす。 自分自身馴染みのない器官ではあるが、他人の体温が触れるのは 何とも気持ち悪かった。 「どうだ。ないだろう」 「……足の間に挟んでいるという事は」 「……」 仕方ない。 少し足を立て、その間に手の甲を沿わせる。 一体何をやっているんだと情けなくなったが、仕方ない。 「足の間にも、何もないだろ?」 「そうですね……しかし、シリコンのパッドで押さえ込んでいる可能性も」 「ふ ざ け る な!」 「その、やっぱり直接触らせて貰えませんか? 膣が確認出来れば、完全にあなたは女性だと断定出来ます。 指を少しだけでも入れさせて貰えたら、」 「っ!」 僕は足を振り上げて思い切り竜崎を蹴り飛ばしていた。 ベッドの向こう側に飛んでいった竜崎は、しかし頭を押さえながらも 蹴り返して来ない。 「僕は、男性か?それとも女性か?」 ベッドの上によじ登ってきた竜崎は、不承不承 「……女性ですね。95%以上の確率で」 と答えた。 「ならば、何とか僕が元に戻れるよう、協力してくれ」 「分かりました」 体を丸めて、親指を口に咥え。 「私の財力とコネクションを以てすれば、秘密裏に何とか出来るかも知れません」 「財力と言うのが引っかかるけど、助かるよ」 「逆に言えば、私が居なくなれば自力でこっそり元に戻るのはほぼ不可能かと」 「……」 「私を生かしておいた方が良いですよ?夜神くん」 「……」 僕は「何の事か分からない」と呟いて、竜崎に背を向けて丸まった。 --続く……かも--
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