Trick and Treat 6 昼食が終わり、何となく竜崎を見ていると竜崎も僕を見つめ返した。 視線が絡み、どうやら奴が本気らしいと思い知る。 「……シャワー、浴びた方がいいか?」 竜崎は少し仰向いて考えたが、 「いいえ」 と、生真面目な声で答えた。 「本当は浴びて欲しい所ですが、そんな事をしたらまるで事の前のようで気不味いです」 「だね」 僕は肩を竦めてベッドに横たわる。 竜崎も、ぎし、とスプリングを軋ませて這い上ってきた。 「後で、爪と唾液と血液を採取させて貰って良いですか」 「いいよ。皮膚組織や髪の毛は良い?」 「出来ればそちらも。あと出来れば膣分泌液……」 「……」 「いいですすみません」 僕が睨んでいると、竜崎は僕に覆い被さるようにして襟元や耳の臭いを嗅ぐような動作をした。 「どうして私は、あなたが男性であった間に生体記録を取らなかったんでしょう」 「別に、いずれ男に戻るんだからその時で良いだろ」 「女性になる前と、女性から男性に戻った時に変化があるかどうか確認したいんですよ。 まあ、今あなたが健康診断を受けた事のある病院に問い合わせしている所ですが」 「ところで今は何をやってるわけ」 「匂いを嗅いでいます」 「みたいだけど」 「あなたが男性であった時の、肌の匂いや汗の匂いを思い出しながら比較しています」 「待てよ!おま、そんな物知らないだろう!」 「いえ。ある程度知っていますよ? テニスの試合の後の汗の匂い、一緒に寝ていた時の匂い、あなたの枕の匂い、」 「へ、変態!」 「ですから、私の全神経はあなたに向いていましたから。 どんな小さな変化でも、小さなデータでも、記憶しています。 一説には、嘘を吐くと汗の匂いや成分が変わるという話もありまして」 僕は起き上がって蹴り飛ばしたくなる衝動を必死で抑えた。 そうだ、こいつが変人なのは今に始まった事じゃない。 「……で、どうだった」 「元々、嫌な体臭ではありませんでしたが、やはり少し変わりましたね」 「マジで?」 「はい、マジで。薄く、そして癖のない匂いになった気がします。 ちょっと失礼します」 竜崎の、硬い髪が近付いて来たと思うと、僕の鎖骨の辺りがぬるっ、とぬめる。 「ぅわっ!」 僕が慌てて袖で首元を拭うと、竜崎はテイスティングをしているソムリエのような顔で唇を舐めていた。 「塩の味がほとんどしない。でもちょっと美味しいですね」 「……」 嫌がらせか?嫌がらせなのか? 女の身体を調べたいだなんて名目で、僕をいたぶって楽しんでるんじゃないのか。 本気でそう思える程、竜崎の言動は常軌を逸している。 「胸、いいですか?」 「あ、ああ、いいけど。乱暴にするなよ」 竜崎は暫く待つように止まっていたが、僕が自分で胸を肌蹴ないので、仕方なく不器用そうにボタンを開けていった。 僕は、少しずつ腹がすうすうと空気に曝されるのを感じながら、天井を見つめる。 「ああ、これは……女性の身体ですね」 「だね」 「どうでしょう……臍の位置とか変わりました?あと、筋肉や脂肪の置換に違和感はありますか?」 「何もないよ。胸が少し重くなった以外は何も変化は感じられない」 「そうですか。丸みが出て、細く柔らかくなってますけどね」 いきなり腹を撫でられて、ぴく、と動いてしまった。 掌全体で肌触りを確かめているだけなのだろうが、妙に嫌らしい動きに感じられる。 「肌触りは、多分変わらないと思うんですが」 「男の時に触っておけば良かったとか気持ち悪い事言うなよ」 「危ない所でした」 そして竜崎の手は、本当に無造作に上に撫で上げられ、乳房を掴んだ。 「……」 そして僕の顔をじっと観察しながら、少しづつ動かされたが、僕はただ状況に対する吐き気と戦っていた。 「気持ちいいですか?」 「全然」 「なるほど」 今度は……分かっていた事ではあるし覚悟もしていたが。 実際に竜崎に人差し指と親指で乳首を摘まれると何とも言えず不快だった。 「痛い」 「あ、すみません。乳首は少し大きくなってますよね」 「かもな!」 そして、相変わらず僕の目を、その変化を、見つめ続けている。 「気持ちいいですか?」 「さあ……少しくすぐったい。なんというか……」 じんわりと、背骨の裏側が痺れるようなもどかしさはあるが、これは男の時に同じ事をされてもそうだったのではないかという気がする。 僕を見つめていたLの顔がすっ、と下がったかと思うと、突然 「ひっ」 舌先で、ぺろりと僕の、胸を、 そして唇で乳首を挟み込むようにしてまた舐めたり軽く吸ったりする。 「き、気持ち悪くない?」 「はい?」 「僕は、おまえも知るとおり、基本男なんだけど」 「特に意識はしません。男性だったらこんな事しませんし」 「……」 「それより、気持ちいいですか?」 気持ち…… 「……夜神くん」 「何」 「ここ、硬くなってきました」 「……!」 「どこが気持ちいいですか?夜神くん」 最、悪。 嬉しそうに舌を小刻みに動かして、勃起した乳首やその周辺を舐め回す。 「どこがって……先?」 「先?」 竜崎はまた乳首を咥えて、先を舌先で何度も刺激した。 そんなに、されると、 「んっ……あ、……くすぐった、」 「驚きました……これは小さなペニスと言って良い構造なんですね」 「あ、また、もうやめろって……!」 口の中が乾く。 腰が勝手にくねる。 と、竜崎の冷たい手が、腰の辺りに触れた。 「確認させて下さい夜神くん」 「おまえ、しないって、」 「しません。指だけ、少し、」 「絶 対 に 嫌 だ!」 僕はもう耐える事が出来ず、シャツを掻き合わせて起き上がる。 「ここまでだ!もう、これ以上は無理だ」 「気持ちいいからですか?」 「気持ち悪いからだ!」 「しかし」 「無理だ!絶対に!」 乱暴にベッドから飛び降り、バスルームに向かう。 「……夜神くんらしくありません……」 背後から竜崎の声が聞こえたが、気付かないふりをした。 シャワーを浴びながら確認すると、竜崎に咥えられてしまった方の乳首が少し赤くなっていた。 ……多分続く
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