神話 19 「おまじないだよ。相手に負けない為の。 中学時代、テニスの試合の前にもよくやってた」 「では、何故見せたくなかったのですか?」 傍の公園の柵から、突然リュークの顔が横向きに飛び出す。 『はっはっは!上手くやったじゃないか、ライト』 全く。 見慣れているとは言え、心臓に悪いな。 「答えて下さい夜神くん」 流河は、僕の表情の、どんな小さな変化も見逃すまいとするかのように、瞬きもせずにこちらを見ていた。 「裏返してみろよ」 「コンビニのレシートですね……?」 僕は。 外でやむを得ずデスノートを使う時には、誰かに見られていた時に備えて別の小さな紙にも何か書く事にしていた。 それが今回初めて功を奏したな。 そして、上着のポケットの底には小さな穴が開いている。 さっきのデスノートの切れ端は細長く丸め、その穴に押し込んでいた。 勿論上着を詳しく調べられたらバレるが、それまでに上着ごと始末する自信もあった。 「ガムとお茶と……ベネトンって何ですか?ブランドですか?」 「……分からないなら、良い」 「教えて下さい」 「推理しろよ」 「その手間が惜しいので今からコンビニに行って訊いてみます」 「やめろ!分かったから……ゴムだよ」 「ゴム」 流河は真顔のまま二十度ほど首を傾ける。 「スキン。コンドーム。一般的には避妊に使うアレ」 「……」 「昨日……中に出されて。後で、腹が痛くなったんだ」 顔を顰めて見せると、流河は口を半開きにした。 「で……今日明日にでもまたホテルに連れ込まれるかも知れないと思って、買っておいたというわけ」 「それが恥ずかしくて私に見せられなかったと?」 「そう」 流河はまた前を向き、足を止めて指を咥えながら何か考えていた。 かなり長々と黙考した後、大きく息を吐く。 「……一応、ペンも提出して下さい。あと死刑囚の名前も書いて貰います」 「ああ」 「まあ、その反応を見れば、結果は分かりますけどね。 ……私の負けです。今回は」 「負け?何が?」 ガッツポーズをしそうになるのを堪えて、小さく溜め息を吐く。 頭上では死神がまだ笑っていた。 それからポケットに手を突っ込んだまま、駅の方に向かって歩く。 公園の端には、確かホームレスが何人か住み着いていつも焚き火を囲んでいる筈だ。 「バスで帰らないんですか?」 「ああ。駅前のコンビニに寄っていく」 「何か買い忘れですか?ローションならありますが?」 「……」 僕は無視して速歩で歩いた。 焚き火が、見えて来る。 「神門くんとは、一体何を話していたんですか?」 「ああ……名前の話だ。 僕が会った頃はゴードンというあだ名で呼ばれていたんだけれど……」 上の空で、意識を火に集中する。 心持ち焚き火の方に寄りながら歩いた。 「小学生時代は、『ゴッド』と呼ばれていたそうだ。 それに相応しく、運動も勉強も人間性も、人一倍、」 言いながら出来るだけ不自然にならないように。 焚き火の側で。軽く躓いた。 「うわっ」 「やが、」 手を突く振りをして、火に手を入れる。 すぐに化学繊維の袖に燃え移り、早回しのように凄まじい勢いで燃え広がった。 「熱っ!」 「夜神くん!」 それが思ったより早く、慌てて上着を脱ぐ。 丸めて焚き火の中に放り込むと辺りに特有の嫌な匂いが立ちこめた。 ホームレスが何やら喚いている。 「な、何をしてるんですか……!」 「熱くて、咄嗟に、」 「……」 「袖が燃えてたから、外に出す訳には行かないと思って」 「……」 流河は、ぽかんと口を開ける。 その様子があまりにも異様で、僕の方が驚いてしまった。 やがて、一旦ゆっくりと口を閉じてから、再び開く。 「今……始末したんですね? 今まで、持っていたんですね……?」 酷く擦れた、凄味のある声だった。 それから、落胆とも絶望とも付かない、何とも言えない呻き。 あまりの奇態に、さすがのホームレス達も黙り込む。 僕も反応出来ないでいると、流河は答える必要はない、という風に顔の前で手を力なく振った。 「火傷はないですか?」 「あ……手の甲が、少し」 「手当をしましょう。車を呼びます」 そう言って僕の手を引っぱって速歩で歩き始める。 「いいよ、家に帰れば救急箱があるし」 「いえ。今日はどうあってもホテルに連れ込みます」 「……今日は……って?」 「無性にあなたを抱きたい、という事ですよ。 今日は完膚無きまでに叩きのめされたんですから、一つは星をくれてもいいでしょう?」 「……」 いつの間に呼んだのか、気付けばすぐ脇に例のリムジンが停まっている。 促され、自分でも不思議だが流されるように乗り込んだ。 「で。神門くんは子供の頃、ゴッドと呼ばれていたと」 もう普段通りの声を取り戻している。 精神の立て直しの早い奴だ、まあそうでなければやっていられないだろうが。 それにしても、前置きをしない所も少し神門に似ているな。 「でもそれは、僕が同じクラスになるまでだったって」 「ああ、なるほど」 「そう。同じ『神がついた名』を持ち、彼より優れていた僕が、彼を神の座から追い落としたんだ。無自覚に」 僕は口を閉じて窓の外に目を遣った。 ニヤついてしまいそうなのを堪え、唇を噛む。 ……やはりおまえより僕の方が上だ。流河。 まさか神門を引き込むとは思わなかったが。 あいつの行動を、僕に対する誠実を読み違えたのがおまえの失敗だよ。 もし彼がおまえの指示に従って僕を抱こうとしたら彼を殺していただろうから、紙一重の勝利ではあるが。 ……もう一人の神と出会う前、俺はゴッドと呼ばれていた……。 静かな、感情を交えない声を思い出す。 一番日の当たる場所を真っ直ぐに歩いていた少年が、突然追いやられた日陰。 黙ってそれを受け入れた心境と、僕への執着との関連性に思いを馳せる。 「それでもあなたを妬み、憎む方向に行かなかったのが、彼の凄い所ですね」 「そうだな」 「なるほど……それにしても、」 そこで流河は突然僕の顔を掴み、無理矢理自分の方へ向けさせた。 「どうして神門くんと寝なかったんですか?」 「え……?」 「さっき」 何を言って、 それはおまえが、神門と寝たら依存症まっしぐらだと。 「もう、神門くんが怖くなかったでしょう? あのセクシーな道着だ。あまつさえ欲情さえしたんじゃないですか?」 「……だとしても、自分から誘う理由がない」 「そうでしょうか?」 「?」 「神門くんに、おまえの物になるからLを殺してくれと、前科者になってくれと。 頼んでみようとは思わなかったんですか?」 「……」 「それ位してくれるでしょう、彼なら」 ……なるほど。 神門と流河は、今後も大学で顔を合わせる事もあるだろう。 名前を知らなくても顔さえ分かれば殺せる、か。 逮捕されても構わないのなら。 確かにキラとして捕まるくらいなら、セックス依存症の方が遙かにマシだろうな。 だが。 僕は、流河の手を払った。 「馬鹿馬鹿しい。僕がキラだとしても、そんな事思いつかないと思うよ」 「実際、それが一番近道ですけどね。キラが私に勝とうと思えば」 「……」 だとしても、僕はそんな方法は絶対に採らない。 おまえを倒すのに、誰かの手を借りる事など想像だにしなかった自分を、少し誇りに思う。 「僕がキラだと思っているのなら、そんな手を教えるのは不味いんじゃないのか」 「もう実行不可能です。二度と、神門くんとあなたを二人きりにしたりしませんから」 「は?」 「あなたは私の物だと言ったでしょう?」 「そう……だけど」 「神門くんがいくらあなたを愛していようと、渡しませんよ。 彼にとっては悲恋ですね」 「……」 流河はもう一度僕の顔に触れた。 「ところで、私の名前の話なんですが」 「今度は何だよ」 「実は、エルという名前は……ヘブライ語で『神』を表すんです」 え……。 「……マジ?」 「マジです」 ……何だか、話が上手すぎるな。 因果は巡ると言うが。 それが本当なら、まるで予定調和だ。 「はい。ですから、今度はあなたが私に執着して下さい」 「……」 「その方が美しいでしょう?」 流河の顔が、近付いて来る。 だが最後の数センチを詰めたのは、僕の方だった。 「もう、執着してるよ……」 そのセックスにね。 流河は僕の足の間に触れて、ニヤリと笑った。 --了-- ※98000打踏んで下さいましたカヌさんに捧げます。 リクエスト内容は、 題して「俺x月前提Lx月」… ストーリーはこうです、 高校時代、デスノートを拾ったあとの時間軸で、ずっと友達だと思ってたクラスメートにガチ告白される。 そのときは嫌悪と困惑しかなくて、拒否するけどそのあとも何度か迫られてとうとう半ば無理矢理体の関係を持ってしまう。 月としては嫌悪もあるが頭のレベルも価値観も合う一番仲のいい親友だっただけにショックなのと、困惑。 そもそもこちとら「キラ活動」で忙しい。そのまま避けるように高校卒業、大学入学後「流河」と名乗るLと出会う。 Lの心理戦にどぎまぎしていた矢先、高校時代の告白してきた元親友と再会。 元親友と月の関係に勘付いたLがおもしろがって月にちょっかいをかける…ってかんじの話が見たいんですけどもも… オチとかないです(´∩ω∩`) ぜひキスケさんの月とLで見たいポイント ・(高校時代)自分は親友だと思ってた友達が実は相手からすればそういう目で見られていたことへショックを受ける月。 ・(高校時代)一番気に入っていた友達に半ば無理矢理体を開かされてしまって絶望する月。 ・(大学時代)月に男に迫られて困っていた時期があると知っておもしろがるL。 ・(大学時代)自分の知らない高校生以前の月を知っている元親友への嫉妬と所有物アピールをするL(あれ、ということはL月はすでに寝ているということに…?) ・元親友x月のエロ、Lx月のエロが見たいです先生!!!>< Lと月ではないですが見たい→男(元親友)から純粋にまっすぐな愛を向けられちゃう月… こういうの見てみたいですがデスノにいるキャラだけでは難しいな…?!って思った結果元親友の登場… こういうカンジのリクエストでもいいでしょうかっ>< 純粋に、ノンケ受けな月が見たい!!!!!!(一番のポイント) 愛はるモブレ…至高です…でも結局L月(´∩ω∩`) らしくなく独占欲見せるというか そういう演技でもいいけどLのそういうの見てみたいです。 面白いリクエストをありがとうございます。 念を押された(笑)エロを頑張ろうとしたんですが、逆に冗長でぬるくなってしまった……ど、どうかしら。 あと、意外と「半ば無理矢理」が困りました。 「半ば?」って(笑) あれですね、オリジナルキャラって難しいですね。 出来るだけ個性を出したくないんですが、あまりにも魅力のない人でも困るし。 読んで下さった方のご想像にお任せする感じでふんわりと書きましたが、神門の姿は浮かびましたでしょうか。 カヌさんには折角原作ぽい二人が好きだと言って頂いたのに、何故か自分史上一番女々しい月になってしまったのも申し訳ない部分です。 無抵抗でやられっぱなしというのが神らしくないですよね。 とか弱音と言い訳ばかり書いてますが、実は元親友×無抵抗月も、L×無抵抗月も、書いていてとても楽しかったのです。ゲヘヘ。 偶には弱い月も良いよね! カヌさん、凝ったリクエストをありがとうございました!
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