女か虎か 13
女か虎か 13








「ええ……そうですね。ただ、キラの仕業ではないでしょう。
 実際あれから二十三日以上経ってるわけですし」


Lの声に、目を覚ます。
僕が寝ているベッドの上にしゃがんでどこかに電話をしていたLは、
僕の覚醒を認めて小さく頷いて見せた。


「目を覚ましました。これから食事を与えます。
 ……いえ。私はこのままで大丈夫です。はい、全てこちらで。
 また連絡します」


そう言ってLは電話を切り、


「おはようございます」


と、僕の目を覗き込んだ。




僕はあの日から体調を崩し、Lの日本のアジトだと言う山荘で静養している。
とは言え、さほど深刻な状態でもなく、調子の良い日は辺りを散策したり
Lと……ベッドを共にしたりしていた。


「おはよう。今のは?」

「夜神局長です」

「そうなんだ。僕も話したかったな」

「……丁度朝食を持ってきた所です。日本風のお粥です」

「ありがとう」


Lはベッドサイドに手を伸ばし、長い指でレンゲを摘んで
ボウルの中の粥を一匙掬う。


「もうそんなに熱くないです」

「自分で食べられるよ」

「そうですか?」


レンゲとボウルを受け取り、一口食べる。
程良い熱さの粥は、涙が出そうになる程美味かった。
今はワタリさんが居ないから、Lが手ずから作ってくれたのだろう。
「世界の切り札」が。


「なあ、L」

「何ですか?」

「……結婚しないか?」

「……はい?」


少し唐突だったか。
でも、お粥を食べて美味しいと思った瞬間、何故だか、結婚を申し込もうと
思ってしまったんだ。
そしてそれを躊躇う理由もなかった。


「こういうと君は笑うかも知れないけれど、君の初めてを貰ってしまったし……。
 僕自身、妻になる女性以外と関係を持つつもりもないし」

「……」

「貞操観念とか、古風な考えかも知れないけれど。
 それだけじゃなく、色々な相性が……やっぱり凄く良いと思うんだ、僕たち」

「……」


世界一の名探偵と、相性が良いと自分で言うのも傲慢に聞こえるかも
知れないが。
実際、「L」に相応しい人間はこの世に何人も居ないし、僕はその内の一人に
入っている自信がある。

Lは梟のように首を傾けて、僕の目を覗き込んだ。


「月くん。……例えば、私が実は女性じゃなかったら、どうしますか?」

「面白い事言うんだね。君はどこからどう見ても女性だけど……」


目の前の瞳が大きく見開かれて、Lはしゃがんだまま尻餅をつく。


「でも君が男だとしても、きっと生涯の友人になりたいと、思うんじゃないかな」

「先程相性と言いましたが……体の相性も含めて、ですか?」


僕がぼかして言った部分を、ピンポイントで抉るよな……。
でもそんな、あまりにも直球な部分も、Lらしい。


「その、照れるけど、そうだよ。
 何度抱いても、抱く度に良くなって行くから、怖いくらいだ」

「そうですか……」

「なぁ。良いだろ?」

「はい?」

「結婚。僕が治ったら、君はもう仕事をしなくても良いから。
 勿論君ほどは稼げないかも知れないけど、一生不自由はさせない」

「いえ、それは良いんですが」


「それは良い」って、OKを貰えたと考えて良いんだろうか。
僕は……「L」と共に、生きて行けるんだろうか。


「何」

「一つだけ答えて下さい。返事はその答え次第です」



いつになく真剣な目に、僕も固唾を呑む。
質問は……間違いなく、「あれ」だろうな。



「あなた、キラですか?」



やっぱり。



「違う」



僕は真っ直ぐにLの目を見つめて、答えた。






--了--






※お読み頂いてありがとうございました!

  「女か虎か」というのは有名なリドルストーリーのタイトルです。
 簡単に説明すると、結末が読者に委ねられる話なのですが、面白いですよ。

 「女か虎か」の場合は、その「語られないオチ」は「女か」「虎か」の
 二通りですが、この話で隠してあるのは


 ・ Lは本当は男性なのか?女性なのか?


 という部分でした。

 また、月がどこまで知っているのか、キラの記憶があるのかどうかも
 曖昧にしてみました。
 はっきりしたオチを期待して最後まで読んで下さった方、ごめんなさい。





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