ラプラスの悪魔 12
ラプラスの悪魔 12








「……どうして受け入れた?」


事の後、汗ばんだ身体を並べて横たわっている時。
今尋ねなければ機会がないと思った。


「何をですか?」

「何って……その、セックスを」

「ああ……」


気怠げに髪をかき上げていたLは、虚を突かれたような顔をして
親指を噛んだ。


「……あなたが、世界の為に役立ってくれるのなら。
 この身体ぐらい、差し出します」

「……」


ぐらいって……Lにとって肉体とは、その程度の物なのだろうか。
痛みも、男としてのプライドも。

「世界」だなんて、抽象的な。
直接、自分の為に何かをしてくれる訳ではない存在の為に、
投げ捨ててしまえるものなのか。


「……まるで、僕の答えがわかっているような、言い方だ」

「はい」


Lは、その真っ黒い目で、僕の心の底まで見通そうとしているようだった。
その目の下の隈。
今は少しだけ色づいた、普段は青ざめている白い頬。

全て、「世界」の為に自分を捧げているからか。

人間は、そのような生き方が出来る物なのか。
またそれを求められて、僕は出来るのか。


「私は、ラプラスの悪魔ですから」

「悪魔じゃなくて、知性なんだろ」

「その知性を、あなたの前では封印しても良い」

「……」

「この先一生、あなたの前では『はい分かりました』しか言えなくても、良いです」

「答えがわかってる割には、必死だな。
 まるで……殉教者だ」


Lは、寝返りを打って珍しくクスクスと笑った。


「私は別に、聖人君子じゃ無い。ただの普通人です」

「謙遜?『世界』の為にそこまで出来るって、全然『普通』じゃないよ」

「これは、ゲームです」


Lは確かに、聖人君子らしからぬ下卑た笑いを浮かべて
意外な事を言う。


「世界を守るという、自分を楽しませる為のゲームです」

「……」

「自分が生まれた時よりも、少しでも世界を良くして死ねれば勝ち。
 そんなゲームです。勝つためには手段は選びません。
 面白いですよ?」


ああ……それなら、何となく分かる。
『世界』を相手に、ゲームか……Lらしい。


「……キラも」

「はい。同じゲームをしていたのだと思います。
 本当に純粋に人類のために動いていたとは思えない」

「でも、キラを生かしておいた方が、世界は良くなったんじゃないか?」

「かも知れませんが、超常手段なんて反則ですし、殺されかけましたから。
 私にとっては、敵キャラでした」

「……」

「……キラ」


Lは唐突に、まっすぐに僕の目を見ながら、そう呼びかけた。
僕が抵抗するかどうか、試すように。


「……」


言葉を返すタイミングが、過ぎた時。
満足そうに息を吐いて、Lは言葉を続けた。


「キラ。これからは、私と同サイドに立って参加して下さい。
 世界を守るゲームに。
 日本の『将棋』は、取った敵の駒は、自分の駒として使えるんですよね?」


僕が小さく頷くと、Lは身体を起こして僕の左手首を取り、
芝居がかった仕草で手錠にキスをする。

そしてどこかから小さな鍵を取り出し、僕の、次に自分の手錠を外した。


「これが本当の、誕生日プレゼントになりますね」


自由か。

……いや、選択肢の事、か。


自分がキラだと決めつけられていた時は、反発してばかりだったが。

キラかキラでないか、自分で決めて良いと言われたら、
やはり自分はキラだと思う。
人間は勝手で愚かな生き物だ。


「……ありがとう。今までで一番嬉しい、バースデイプレゼントだったよ」


愚かな生き物なりに、何とか笑顔を作る。
そして完全に油断していたLを、不意打ちで押し倒すと、慌てた顔をしていた。


「ちょっ、え、またですか?」

「僕がキラだと認める代わりに、その身体を差し出してくれるんだろ?」

「いや、確かにそう言いましたが、言葉の綾というか、」

「『はい分かりました』は?」

「夜神月!」


思わず本当に笑いながら、その身体をまさぐる。

やっぱり、ラプラスの悪魔なんかじゃなかったんだな。
なら、参加してやってもいいよ。
おまえのゲームに。


一緒に、世界を守ろう。





--了--





※2012夜神月くん誕生日おめでとう!
 こんな展開だったらハッピーエンドですね〜温いですが。

 都合上、Lはミサがデスノートを取り戻したと思っている事にしましたが、
 本当はミサが、月の容疑を晴らす為にレムに頼んでいるという事で。






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