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ああ……。

自白を、してしまった。
だがタトゥーを入れられるよりはマシだと思うしかない。

今から僕が出来る事は……。
Lは取り敢えず警察に通報し、僕を司法の手に引き渡すだろう。
もしかしたらさっきの発言も録音されているかも知れない。

だが、よく考えれば実は警察に合流できた瞬間に僕の勝ちが確定する。
確かに僕の身体に傷はついていないが、奥歯を見て貰えば拷問されていた事実は明白。
この、「KIRA」の文字を転写されている脇腹もある。
誰だって、キラどころか一切の犯罪と無縁の人間だって、こんな物を彫ってやるなどと言われたら「自分がキラだ」と言わざるを得ないだろう。


「何を考えているか当ててやろうか?」


男は、僕の上から退くと、今度は耳に唇を擦りつけながら甘ったるい声で囁いた。
そうか……こいつは一筋縄では行かない、超能力かと思う程相手の思考を読む男。

世界の切り札。
影の支配者……。

そんな男が、後でいくらでも言い逃れ出来そうな、たった一言の自白で満足するだろうか……?

明確な輪郭を持たない、だが確信に近い不安にぞくりと背筋が凍る。

いや、でも。
少なくとも現況からは解放される筈だ。


“自白するまでこの部屋から出られない。お前も、私も”


そう言っていた。
少なくともこの出入り口のない部屋からは出られるだろう。

この静けさからすれば、人里離れた場所である可能性は高いが。
裸では逃げられないとでも思っているのか?
少なくとも車で来たのだろうから、道はあるんだろう。

僕は男だ、もし車に乗せて貰えなくとも裸でだって歩いてやる。
何時間でも。

と、思った所でLがまたニヤリと笑う。
嫌な顔だ……本当にリアルタイムで思考を読んでいるのか。


「静かだろう?ここ」


ああ、静かだ。
人の声も、生活音もしない……。


いや。


……鳥の声も、風の音や葉擦れの音すらしない……。

日本国内に、そんな場所があり得るか?
いくら何でも、


「私の、勝ちだ」


え、今?
勝利を宣言するタイミングじゃないだろう?
それを言うなら僕が自白した直後か、もっと後、警察に引き渡す時とか……。

と混乱したが、どうやらそれは何かの合図だったらしく、どこかでガチン、ガチン、と大きな金属が擦れ合うような音がし始める。

と共に。
Lの頭が近付いて来た……。

……じゃない!
カチカチという音と共に、小屋の、壁が遠ざかっていく……!

壁と壁の間に隙間が出来て、その向こう側に別の天井が見えて来る。
それからシャンデリア……。

……なんだこれ。
小屋の外は広い空間だが、屋外ではない。
壁が開いて行くに連れて見えて来る、大きなガラスの窓、椅子、机、サイドボード……。

真ん中にLと僕を乗せたまま、展開した小さな木の小屋は。
ちょっとしたパーティー会場のような、天井の高い広い豪華な部屋の中にあった。
部屋の中に、部屋を作っていたのか……。

音がしない筈だ。
分厚そうな絨毯、恐らく防音設備も完璧だろう。
ホテルか何かの、披露宴会場なのか。
いや、それとも豪華すぎる程の客室か……。

そんな所にわざわざ展開式の小屋を作るなんて。
何だこの、バカバカしく金と手間の掛かる演出は。

まさか、僕に絶望感を与え、少しでも早く自白させたいが為なのか?


だが、他にも驚くべき事はあった。
小屋の外、猫足の豪奢な一人掛けのソファの上にもう一人の人物がしゃがみ込んでいたのだ。
異様な風体ではあるが、それ以前に板壁越しとは言え全く気配を感じさせなかった事に驚きを禁じ得ない。

男はLより若そうだが、やせ細って目ばかりがぎょろぎょろしている。
ぼさぼさの黒髪、目の下の隈から、まともな精神状態ではないのではないかと思った。
まさかこいつもLの拷問の被害者なのか。
そんな風に観察していると、男は徐に口を開いた。


「酷いです、L」


意外にも落ち着いた声だ。
どうやら思ったよりはまともな人間らしい。


「私は今日中にこいつに自白させる事が出来れば、何でも良かったんだ」

「やり方が汚いです」


あのLに、丁寧語ではあるが対等に話している。
何者だ、この男。
敵か、味方か。
利用出来るのか、出来ないのか。

男は裸足で絨毯の上に下り立ち、ポケットに手を突っ込んで猫背で歩いて来る。
彼が僕が寝転がっている板間に上がると、同時にLが絨毯に下りた。


「可哀想に……。
 すみません、夜神月くん。彼は限度を知らなくて。
 立てそうです?」


そして僕の横にしゃがみ、椅子の脚に括り付けられた手の拘束を解いてくれた。
痺れた腕をさするが、起きようとしても起き上がれない。
腹筋に力が入らない。

どうやら、長々と肛門を犯されたのと精神的ダメージが相まって、運動筋が上手く作用しないようだ。


「あな、たは?」

「私は、あなたをずっと見つめていた者です。
 本当にあなたを傷つけるつもりはありませんでした、申し訳ありません」


男は冷えた僕の腕をさすり、腹で乾いた精液を塗れタオルで拭ってくれた。
久しぶりに聞いた暖かい言葉に、知らず涙が滲みそうになる。


「そ……な事、より、通、報を……」


離れた所でLが鼻で笑った。


「しないよ、キラ」

「……は?」

「我々には、最初からおまえを警察に引き渡すつもりなんかない」


我々?


「だって、僕の身体に、傷をつけないと、」

「それは警察を意識したわけじゃない、そのLに頼まれたからだよ」

「?」


そのL?
どういう意味だ?


「その男も、Lだという事だ。
 ややこしければ、そいつは……そうだな、リューザキとでも呼んでやってくれ」

「リューザキ……?」


Lが、二人、もしくはそれ以上いる……?
この、痩せて顔色の悪い猫背の男も、Lだと……?

目を剥いた僕に、リューザキが慌てたように口を開く。


「わ、私はあのLと違って、絶対にあなたを傷つけたりはしません」


そんな事を言われても……。
仲間なんだろう?あのLの。


「そ、そう……」

「私は本当に、ずっとあなたを見つめていたんです。
 あなたを大切にします。死ぬまで」


……え?
今、何と言った?

死ぬまで?


「良かったなぁ、キラ。
 リューザキがおまえを欲しいと言ったから、おまえは司法に裁かれないんだぞ。
 感謝すると良い」


感謝……?
監禁されて、拷問を受けて?


「私は反対だったから、その前にケジメを付けさせて貰っただけだよ。
 今日中に自白させるというゲームには勝ったから、私はもう満足だ」

「……」

「そうだ、リューザキ。
 彼に言わせれば私は“ホモ野郎”で“変態”だそうだ。
 なら、おまえはどうなるんだろうな?」

「聞こえてましたよ。
 いい加減出て行って貰えませんかね」


Lが、軽く手を挙げて遠ざかっていく。
廊下のような場所に消え、ここからは見えない扉が開いて閉じた音がした。






「さて。やっと二人きりですね、夜神月くん」


猫背の男は振り向き、幼児のように親指を咥えてニヤリと不気味に笑う。


「……おまえ。死ぬまでって……本気なのか」

「勿論。殺すという意味でもありません、生涯を共に過ごすという事です」

「TV中継で……僕を司法の手に引き渡すって……」

「全世界の前で“おまえを監禁して私の物にする”と言えと?」


血の気が引いて、また気を失いそうだ。


「まあ。取り敢えずLが戻って来る前にあなたを私の物にしてしまいましょう」

「ま、待て……」

「中は、もう“済んで”いるんですよね?」


リューザキは、僕の片足を持ち上げてその間に自らの身体を拗込む。
骨張った長い指に唾液をつけて、僕の肛門を撫で回した後つぷりと差し込んで来た。
中で正確に前立腺を撫でられて、もう出る物もないのに勃起してしまう。


「ああ……あなたが手に入ってとても嬉しいです、夜神月くん。
 一生手離しません」


ぐいぐいと、押しつけられるのを力を込めて拒もうとするが。
あらゆる道具で弄ばれたばかりのそこは、まるで商売女のように緩い。
自分の身体の一部ではないようだ。

やがて、ついに入り込んで来た男の物は。
道具の柄のように硬くも冷たくもなかったが、その熱さは焼けた杭を思わせる。


涙が止まらない。

涙が止まらない。


見知らぬ男の性器が自分の中に入り込んでいる事にも。

その事によって自分の身体の中で起こった変化にも。



心臓を真っ直ぐに突き刺さされた吸血鬼のように。
ここまで耐え続けていた僕の心は遂に折れる。

霞が掛かったように揺れる視界と。
だらしなく緩んだ唇から、漏れる血液混じりの涎と擦れた喘ぎ声。



射精感のない絶頂を迎えながら、


キラは。



死んだ。





--了--





※かえっこ企画、面白かったです!
 リクエストと同じく、自分には出来ない発想に参加させていただけます。
 また、リクエストと違って先方の中の「初期」や「月」の口調やキャラを出来るだけトレースするという課題も……あったな、と今気付きました。
 意識してなかったので3話以降キャラが変わっていたらごめんなさい。
 みづはさん、ありがとうございました!
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