男前Lお題---刺青
男前Lお題---刺青








それで、このビルは全体に空調がきつかったのか……。

そう合点が行ったのは、竜崎と手錠で繋がれた始めての夜。
着替えるためにシャツを脱いだ竜崎を見た時だった。




その時竜崎を見ていた事には特に意味はない。
何でも指先で抓む彼が、どうやって着替えるのか少しだけ興味を持ったのだ。

普通に体の前で手をクロスし、指先でシャツの裾を抓んで脱いだのを見て
やはりと思ったり、さほど変でもないな、と少し落胆したりした。
腹が、妙に白かったのを覚えている。

だが、最もインパクトがあったのは、現れたその右腕だった。
肘から手首辺りまでが青黒い。

思わずギョッとして見直すと、それはタトゥらしかった。
手首の少し上に蛇の頭があり、その長い胴が腕を二周程して
二の腕、肘の少し上あたりの尻尾に続く。

竜崎は特に意識しているようにも見えなかったので、軽く
「『竜』崎なのに『蛇』なんだな」、などと下らない事で言及しようと思ったが
その前に、けれども竜崎はずっと長袖を着ている、と思い至った。

タトゥを隠す為に長袖を着て、それを不自然に見せない為に空調を
きつめにしているとすれば、やはりそれなりに気を使っているという事になる。

そうなると、気軽につっこんで良いのかどうか分からない。
いや、見た瞬間に驚いて見せるか何か言えばまだ良かったが
時間が経つと益々何も言えなくなった。

結局黙ったままの僕の左手に竜崎が再び手錠を着け、
自分の右手にもかちゃりと嵌めた。

その時はさすがに僕も気づいていない振りを出来なかったが
お互い何も言わず、ベッドに向かった。




「おやすみ」

「おやすみなさい」


竜崎は、上半身何も着けずにベッドに入った。
手錠の関係上、僕が右、竜崎が左でダブルベッドに横たわる。

ちゃり……

寝ようと努めるのだが、僅かな身動きでも鎖が鳴るので気を使う。
きっと竜崎も、そうなのだろうと思った。


ちゃり、ちゃり、ちゃり……


竜崎がどうも、頭を搔いたようだ。
起きているのだろうか……。
それとも、寝たまま無意識に動いているのか。


顔を左に向けると、薄明かりの中、白い顔と枕元に投げ出された手が見えた。
目を開けているか閉じているかは分からない。

蛇の顔が、こちらを向いているのが見える。

明かりがある時は刺青だな、としか思わなかったが、薄闇で見ると
妙にリアルに見えた。
目が、光っているように見える。


じっと見ていると、主の寝息に合わせて、僅かに首を上下させていた。

……ん?何か、閃いたか?

舌……?


やがて蛇が、するっ、と動いた。
頭を微かに左右に振りながら、手首を越えて手の甲の方に伸びる。
体は全く動いていないように見えたが、きっと全体に同じコースを取りながら
ずるずると進んでいるのだろう。


呆気に取られていると、蛇は竜崎の手を離れ、するすると鎖を伝い始めた。

鎖の上を上手に這い、すぐに僕に近づいてくる。

僕の手錠リングに辿り着き、それから手首を通って、寝巻きの袖の中に
入り込んだ。


蛇のうろこの感覚は、意外にもさらっと乾いていて、少しひんやりしていて
気持ち悪くなかった。

蛇は、寝巻きの中を僕の腕から二の腕、胸を通り、腹を通り、
足の方まで行ってはまた戻ってきて今度は頭の方に行って。

全身を隈なく這い回った後、体の内側にずぶりと入り込んできた。


ああ……今度は、僕の心の中を走査するつもりだ……。


そうか、竜崎のこの蛇は、容疑者を取調べる為に飼っているのか。
手錠をしたのも、この為に違いない。
こうして容疑者とどこかで、あるいは何かで繋がっていれば
きっと自由に相手の元へスパイに行けるのだろう。


いいよ。
僕の心の中には、一点の曇りもない。

思う存分、調べればいい。


そう思うと、体の中で蛇が這い回る感触も、どちらかというと気持ちよく思えてきた。


僕は竜崎の蛇に身を任せ、そのまま眠りに落ちた。





朝起きると、竜崎は既に着替えていた。
あの蛇が……僕の体を這い回ったのは明らかに夢だろうが、
タトゥ自体も夢だったのだろうか……。

首を傾げるが、袖をまくって腕を見せてくれとも言いづらい。

結局そのまま僕も着替えて捜査本部に行き、僕が監禁されていた間の
キラの動きを教えてもらったり、今後の捜査方針についての会議に
参加したりしていた。



夜になり、また竜崎がベッドの前でシャツを脱ごうとしたので、
シャワーを浴びようと言ったら怪訝な顔をされた。


「昨日、解放した時に入浴しましたよね?」

「したよ。したけどシャワーくらい毎日浴びたいじゃないか」

「外に行っていないし、汚れていないから不要です」

「いやいや、そういう問題じゃない。さっぱりしたいんだ」


二回以上、会話のキャッチボールが出来たのは随分久しぶりだと思った。

竜崎は愛想がない。
解放以来捜査の事しか話しかけてこないし、僕の質問に対する返事も
木で鼻を括ったようだ。

僕をキラ容疑者だと見ているからだろうが、それは竜崎の誤解で。
監禁前、親しげというか馴れ馴れしかったのも、僕を調べる為なのだろう。

だから、誤解が解ければ竜崎の態度は改まると思うが、
そうなると今度は僕の方が拘りなく接する自信がない。

結局僕達は、未来永劫親しい関係にはなれないレールに乗っているのだ。

そんな二人が手錠で繋がれて24時間一緒に生活というのも可笑しいが
無駄に言い争っても何も良い事はない。

僕が些か強引にバスルームに向かうと、竜崎も争いを避ける為だろう、
不機嫌な顔をしながらも後から着いてきた。




手錠を外してしぶしぶとシャツを脱いだ竜崎の右腕には
やはり青い蛇が鎮座していた。

昨夜の夢の、さらさらした肌触りを思い出す。

竜崎は僕の視線に気づいただろうが何も言わず、僕も何も言わず、
二人で無言でシャワーを浴びて、外に出た。


ベッドではやはり上半身裸だった。
男と同じベッドで寝るのも嫌だが、その相手が半身だけとは言え
裸というのも気になって仕方ない。

それでも、そのような事を言える仲でもなく、僕達はまた静かに横たわった。


うとうとし始めた時、

ちゃり……

という微かな音に、意識が覚醒した。


顔を横に向けると、やはり鎖に沿って蛇がこちらに向かっている。


……もう、昨日、分かっただろ?僕に裏がないって事は。


心の中で話しかけてみるが、蛇に聞こえた様子もなく
するすると僕の寝巻きの中に入り込んできた。

蛇は昨夜より大胆に、念入りに、僕の肌の上を這い回る。
首筋を通りながら舌でちろっと耳朶を舐められた時には、
思わず息を呑んでしまった。

蛇はなおも僕の体の探検を止めず、乳首や内腿など、微妙な場所もかすめながら
するすると這って行く。


「ちょっ、」


ちゃりっ、

思わず声を上げ、手を動かしてしまったのは、蛇が僕の……性器に
巻き付こうとしたから。

想像以上に大きな音が、闇を揺らした。

驚いたのは蛇の動きだけでなく、僕が……堅くなっていた事に、気づいたから。


……蛇……やりすぎだよ。


何となく蛇に語りかけたが、蛇は怖じた様子もなく何度か舌を出し、
突然前触れもなく、僕の足の間くらいから、体の中に入り込んできた!


「っ!」


さっきの事があるので、声が立てられない。
身動きも出来ない。
耐えていると蛇は、昨夜のように体中を這い回らず、下腹の辺りで
とぐろを巻いたりうねうねと動いているようだった。

ペニスの……中から……

妙に冷たい感触に、ずるずると刺激されて、今まで感じた事のない
ぞくぞくとした快感に苛まれる。

やがて蛇がのたうつように暴れて、


「っひぃっ!やっ……!」


突き抜ける快感に耐えるため、シーツをぎゅっと掴んだ記憶はあるが
以降、僕の意識はブラックアウトした。





「……18歳なら普通です」


朝になり、寝巻きの前を濡らした僕を見て、竜崎は無表情に呟いた。
恥ずかしさで居た堪れない。
でもこれは、

おまえの、いやおまえの蛇のせいだ!

とわめきたいが、自分の夢の事を言っても仕方ない。
それよりもあり得ない奇妙な夢で夢精をしてしまった自分の方が心配だった。

あの刺青に、あからさまでなくてもサブリミナル的に
何かエロティックな妄想を抱かせるような何かがあったのか?
と、思わず竜崎の右手を取る。


「何ですか?」

「おまえの……」


形振り構わず捲り上げた袖の、内側には、妙に白い腹と同じ色の
腕があっただけだった。


「あれ?」

「どうかしましたか」


勘違い?
そんなはずもないが、手錠をしていない左手も確認する。
そこにも勿論、青い蛇などいなかった。

おかしい……。


「……なぁ。どうしてこのビルって冷房きついんだ?」

「きついですかね。私が絶対に汗をかかない温度にしてあるんですが」

「……」


それは、風呂嫌いに由来する事だった、か。
という事は、長袖の下に何かを隠している訳ではない……?

いや、ベッドの中でならまだしも、シャワーを浴びている時は寝ぼけていなかった。
絶対に。
確かに、蛇はいた。


「何か探してますか?」

「……いや。いい。さすがにちょっと疲れているみたいだ」


駄目だ。
刺青の蛇が動くなんて、そんな事あるわけない。
ならば、刺青の蛇を見た所から幻覚だったんだ……。

自分の記憶や感覚が信じられないというのは何とも心もとなかったが
竜崎の前で弱みを見せる訳には行かない。

気をしっかり持て。

顔を上げろ。


僕は強く目を瞑って自分で両頬を張り、目を開けた。

大丈夫だ。もう、幻覚なんかに惑わされたりしない。


「何でもないんだ」

「そうですか」


竜崎は能面のような顔のまま、顎で斜め下を指した。


「これを探しているのかと思ったんですが」




そこには、手錠の鎖を伝って僕の方へ向かっている、青い蛇がいた。




※クロさんに月視点Lを頂戴しました!ありがとう〜!
 頂き物コーナーで萌えを叫びましたが、こちらでも。
 クリックで大きくなりますのでごご堪能下さい♪




--了--






※無表情で指一本触れずに月をイかせるLかっけえ!と思ったのですが
 書いてみると何か違いました。

 連想ゲームは、刺青→蛇→執念。
 Lの月に対する執着のようなものが蛇の形を取って勝手に動いている、
 みたいな感じの話です。
 このL、無表情ですが頭の中は妄執・妄想で一杯。






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