男前Lお題---女 1989年4月10日 小さな子が、小川のほとりで屈んで水面か水中を一心不乱に見つめている。 水の中には小さな小さな魚の群れ、水の上には浮かんだ小枝と水面を走る虫、 岸から垂れかかった草、川の中から生えた花。 アートのような苔、もがきながら流れていくアリ、落ち葉。 極小の生命に溢れた小宇宙を、子どもらしく触る事もせず その人はただ、眺めていた。 そんな夢を見た。 夢というからには昼間出会ったことを脳内で整理したのだろうけれど どこを切り取っても、今まで経験したことと重なる部分がない。 あの小さい人に、見覚えは全くない。 似た子を実際にも絵や写真などでも見た事はないし あんな小さな川……生えていた草や虫も、この辺りの物とは違った気がした。 御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、 独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。 祖母の国の物語だと、ワイミーに与えられた何冊かの本。 その中の一文が、不意に浮かんだ。 けれどまさにそんな感じだ。 あの子どもは、水辺の小さな世界に深く関心を寄せながらも、 決して触れようとはしなかった。 天界から人間界や地獄をただ眺め、彼らを助ける事も罰する事もしない。 そんな天人のように超然とした、不思議な子だった。 1991年8月26日 また、あの少女の夢を見た。 毎回明晰夢で、前に夢で見たのと同一人物だとはっきり認識できる。 最初は、自分の中の一つのキャラクターだと思っていたのだが 次第にあの子が現実世界にも存在しているような気がしてきた。 それを裏付けるように、私の生長に伴ってあの子もどんどん 大きくなって行く。 昨夜見た夢で、場所はアジアらしいというのが分かった。 彼女一人では断定できなかったが、昨夜は遂にあの子が雑踏を歩いたのだ。 他の人間も黒髪か茶髪の東洋人だった。 人が多く、日差しのきつい国だった。 1994年3月27日 しばらくぶりに、東洋の少女の夢を見た。 彼女はバスに揺られていた。 頬杖をついて、進行方向に向かって右側の窓の外を見ている。 そこには、凄絶な程に咲き誇った桜があった。 しかも一本二本ではない。道か川に沿って、何十本も並んでいる。 それでも、彼女は眉一つ動かさず、無表情にその美しい光景を眺めていた。 不意に、その向こう側を反対方向に走るバスが通り過ぎたが やはり瞬きもしない。 対向車線が右か……という事は、左側通行。 日本か香港かマレーシアだと特定できる。 町の感じや桜の多さから推すと、恐らく日本だろう。 彼女が子ども用のテニスラケットを持っていたので、私もテニスを始める事にする。 叶う事なら、いつかダブルスを組んでみたい物だ。 1997年2月28日 今日は夢を見なかったが、時折夢に登場する彼女の考察をしてみたいと思う。 こんな風に、彼女の事を推理し始めたのは十四歳の頃で その頃私はいささか神秘主義に傾倒していた。 しかも仕事の合間にロマンチシズムに浸ってもいた。 現実はあまりにも殺伐としていて、その世界に一生身を置く覚悟が その頃の私には出来ていなかったのだ。 この世に、私と同等に渡り合える人間はいないのだろうか。 自分より年上の頭の悪い連中が起こした犯罪を、ただただ機械的に処理していく。 それで、私の人生は終わるのだろうか。 そんな不安に苛まれていたあの頃。 夢の少女が、神が私に与え給うた生涯の伴侶なのではないかという考えに 執りつかれたのだ。 逃避と言ってもいい。 彼女の頭脳や人格が、優れた物かどうかは分からない。 だが、神の定めた「運命の女」なら、例え白痴であっても乗り越えられる。 いやむしろ、あの超然と、あるいは傲然と世界を見下ろすような目は この世で彼女と私だけに許された物なのではないか。 そんな少年らしい夢想に、私もまた浸っていた。 それにとりあえず彼女の笑顔は太陽のように眩しい。 きっと将来は美人になるだろう。 十七になった今でも、どこか彼女が「運命の女」であれば良いと、思っている私は 幼稚だろうか。 1998年10月31日 珍しく、寝る前に日記を書いてみる。 今日ワイミーが、ケーキとシャンパンを用意してくれた。 欲しいものはないかと聞かれたのでいつも通りないと答えたが、 「商売の女で良ければ呼びましょうか?気になるでしょう?」 そう言ってくれた。 十代のほとんどをコンピュータと書籍で埋まった部屋で過ごした私が 現実の女に出会う事はなかった。 十九ともなれば健全な青少年なら、とワイミーなりに気を使ってくれたのだろう。 だが私は、動揺を見せないように努めながら丁重に断った。 時々自慰をするのを見逃してくれれば、それで良いと。 時代はPC通信からインターネットへ、自室に籠もっていても 自慰の助けになる画像や資料には事欠かない。 私は夢の彼女に似た写真を探したが、なかなか見つからなかった。 夢の中でははっきりと認識出来るのに、いざどんな顔だったかと 思い出そうとすると、輪郭がぼやけてしまうのだ。 とにかく美しく、優しげな顔をしているが、時折気の強そうな目つきを見せる。 そこがまた、私には堪らなく魅力的に見える、彼女。 結局、髪型が似ているだけの女を選んだ。 機械的に手を動かして吐精したが、どこか不満が残った。 今夜は、彼女の夢を見るかも知れない。 2000年5月5日 二十歳にもなって初めて、私は恥ずべき事をした。 遂に、夢の中で彼女を襲ってしまったのだ。 相手は中学校に入ったばかりであろう年頃、我ながら畜生だと思うが どうにも止められなかった。 まだ動揺が治まらないが、自戒を込めて出来るだけ記録しておこうと思う。 まず、夢に現れたのは彼女の自室らしき場所だった。 子ども部屋としては広く、片面が壁一面書棚になっている。 シンプルではあったが、そのインテリアや内装から富裕層に属する 子どもなのではないかと思われた。 パジャマ姿を見て思わずベッドに押し倒してしまうと、相手は驚いていた。 私も、いつも見ているだけだった彼女に触れる事が出来た事に、驚いた。 全力で抵抗されたが、体格差は大きい。 それとも夢だから都合が良いのか、ボタンもドラマのように簡単に外れ 私は細い胴を抱きしめて、まだ膨らんでいない胸に唇を付けた。 頭を押さえつけ、唇を奪うと少女は抵抗をやめた。 私は初めてのキスに没頭した後、その首筋や鎖骨を味わった。 肌の滑らかさと柔らかさに興奮したが、さすがに挿入する気にはなれず 彼女の太腿に自身をこすり付けて、やがて達した。 私が体を離すと彼女は呆然としていたが、 痛みを感じて腕を上げると、いつの間にか右腕を思い切り引っかかれていた。 目覚めると、夢精していた。 右手を見てみると、肘の下辺りから腕の外側を、赤い線が三本走っていた。 2002年8月24日 以前陵辱した後、彼女の夢を見るのが怖くなったが どうも触れなければ彼女には私は認識出来ないらしいと分かってからは また彼女に会いたくなっている。 子どもの頃はボーイッシュで、年頃になったら一転女らしくなる、 そんなタイプかと思っていたが、十代半ばになっても彼女は 中性的な魅力を備えた外見だった。 すんなりと手足が伸び、順調に育っている彼女を見ていると 親のような気分にもなってくる。 何せ私は、彼女が幼児の頃から見ているのだから。 ほんの小さい頃から彼女が自分の伴侶だと思い込んでいたのは 我ながら気味が悪いが、この年になると、十分可能だと思える。 最初の数年は実在を疑ったこともあるが、今となっては 彼女は間違いなくこの地球上のどこかにいるのだと確信していた。 伴侶かどうか、先方が私をどう思うのかは分からないが きっといつか出会う。 運命の相手なのだと思う。 2003年12月13日 久しぶりに記載する。 ここ数年、仕事が立て込んでいて、慢性的な寝不足に陥っている。 極限まで削った睡眠時間、夢を見る暇もなかった。 最後に見たのは、去年の八月、昔からよく夢に出てくる人物が 出てくる内容だった。 太陽ではなく、月だ。 我ながら、少し混乱している。 現実と夢が、遂に交錯したのだ。 まず現実から書いて行こう。 今月に入ってから世界では、広範囲にわたる不可解な突然死が相次いでいた。 それらは超自然的な力に拠るものとしか思えないが、 私は、手段はともあれ実行したのは人間だと思っている。 何故なら、神の如き視点を持っているとしたらあり得ない裁きだったからだ。 どこの神が、メディアに乗った悪人だけを裁くものか。 既にネット上でキラと呼ばれている犯人を、私なりに探索して 日本に来た。 この犯人は、これまでの犯罪者と違って、一筋縄では行かない。 この事件は、探偵Lの解決する、代表的な事件となる。 そんな手ごたえを感じて、久しぶりに高揚した。 そして、日本警察の上層部かその身内に犯人がいる事まで特定したのだ。 FBIに協力を要請して、容疑者を調査する。 その下調べとして何十枚かの顔写真を見たのだが……その一枚を手に取って 思わず息を呑んでしまった。 一目見て、分かった。 「彼女」だ。 彼女が、いた。 あまりにも見慣れたその容貌。 現実世界で探しても、一向に見つからなかったその顔。 だが、証明写真一枚ではっきりと分かった。 間違いない。 本人だ。 本当に実在していたのか、とか。 男だったのか、とか。 それ以上に、子どもの頃から夢で見ていたのは、運命の相手だと思ったのは こういう意味だったのか、と愕然とする。 運命、というよりは、宿命。 間違いない、こいつが、キラだ。 私の前に立ち塞がり、生死を掛けて戦うべき相手だ。 将来必ず、殺すか、殺される、相手だ。 そう確信する理由を、余人に説明する訳にも行かないので 一応他と同じように尾行をつける。 だが、他の者は実は全く見ていなかった。 私は、彼だけに注目している。 顔だけでなく、その他の要素も彼こそがキラだと指し示していた。 相手にとって、不足はない。 きっと今までのように、自分は安全圏にいたまま、とか、人を使って、とか。 そんな生温い調査では足元を掬われるのだろう。 来い。 私は、私の命を餌におまえをおびき寄せる。 おまえには、それだけの価値がある。 恐らくおまえは、神が私の為に用意した、運命の獲物なのだから。 おまえが幼児の時から見つめ続けて来たのは、 きっとこの手でその息の根を止める為なのだから。 おまえを追い詰めたら、機会を作ってこの右腕に残る 三本の爪痕を見せてやろう。 どんな顔を見せてくれるのか、今から楽しみだ。 しばらくは、これまで以上に夢を見る余裕もないだろう。 集中を切らしたら、負ける。 今日の記事を最後に、キラ事件が解決するまではこの夢日記は中断とする。 ……以下空白 --了-- ※連想ゲームです。女→運命の女・宿命の女・夢の女 そんなイメージです。 こんな事でもないと、Lの「月=キラ」の決めつけ具合が説明つかない。 子どもの頃からずっと夢見ていた運命の相手が実は同性、ってなったら 大概の人はかなりショックだと思うのですが、Lなので物凄い速さで 切り替えます。 というかむしろ、愛しい人が好敵手であった事に興奮しています。 その辺が男前かな、と。解説が必要ってどうなのかな、と。
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