帯我到月 7
帯我到月 7








モニタには、さっきとは別のアイドルグループの曲が映っている。


「ごめんなさい……飲み過ぎました……
 私帰ります……また……誘って下さい……」


上野さんは青ざめて口を押さえていて、大久保さんがその背中を支えながら
「送っていくから」と、口パクで言っていた。
何だかもうぐだぐだで、竜崎と僕の事を気に掛けている人は少なそうで助かる。


「そう?僕が送っていこうか?」

「いえいえ。夜神くんも結構ヤバそうですよ?」

「大丈夫だけどね。じゃあ、しばらく残るから大久保さん何かあったら連絡して」

「はい」


僕が座り直すと、ふらふらした竜崎がもう一度僕の襟首を掴んで持ち上げた。
無理矢理立たせて、


「ライト!」


ドスの利いた声で凄んだ。


「は?は?何で呼び捨て?」

「月!もう帰るぞ」

「……いや、おまえだけ帰れば?」

「帰るぞ!」


気付けば曲だけが流れていて、マイクを持っている高田も、京子さんも、
体育会系田端も、眼鏡大塚も、上野女子を支えている大久保さんも、
呆気にとられてこちらを注視している。

それは、竜崎が「Fry me to the moon」を歌った時とは明らかに違う、「呆気」だった。


「来い!」


既に廊下に出た竜崎は、信じられない怪力で僕を引きずる。


「ご、ごめん、流河酔ってるみたいだから家に送ってくる……」


そう言いながら手を振ると皆「お疲れー」と力なく手を振り返してくれたが、


「送るって……一緒に住んでないのかなぁ?」


という、誰か女の子の声が聞こえて、酒が全部抜けるような気がした。






「竜崎、竜崎、飲み過ぎだろう。大丈夫か?」

「はい?別に、全然酔ってませんけど?」

「酔っ払いの言いぐさだな」


帰り道、存外すたすた歩いて行く竜崎に声を掛ける。


「冗談か本気か、際どい所で牽制を掛けてあなたに他の人が近づけないように
 しただけです」

「マジで?」

「マジです」


どうだろう……。
私を好きだと言えだなんて、あんな乱暴な口調で言われたことがないので
酔いに任せて素が出たのだと思ったが。


「だとしたらあの歌は不味かっただろう」


竜崎が突然立ち止まったのでぶつかりそうになったが、
次の瞬間音も無くクラシックなリムジンが滑り込んできた。


「乗って下さい」

「ああ……」


あの騒ぎの中で迎えを呼ぶべく連絡していたのか。
ならば本当に見た目ほど酔ってはいない可能性もあるな。


「歌が何ですって?」


ばたん、とドアを閉めるとエアコンの効いた車内、街の喧騒が消える。


「いや、どうせなら京子ちゃんに向かって歌ってあげたら?」

「ああ……」


流河はスニーカーを脱いで座席の上で足を抱え、親指を咥えて
何故か突然上機嫌に微笑んだ。


「……Fly me to the moon
 Let me play among the stars……」


今度は独り言を囁くような、甘い擦れ声で歌う。


「Let me see what spring is like
 On a-Jupiter and Mars……」


そして、僕の肩にことりと頭を凭せ掛けた。


「……本当は、酔ってるんだろ」

「In other words, hold my hand
 In other words, ……」


僕の指に、自分の指を絡める。
声はどんどん小さくなり、もう歌ではなく呟きのようになっていた。


「baby……ki…… me……」

「……」


「L」の信頼を勝ち取る為には。
ここでキスの一つでもしておくべきなんだろうか。


……いや。
“kiss me”、ではなく“kill me”……か?


などと考えている間に、竜崎に頭を掴まれて押し倒された。


「KIRA is all I long for」

「うん」

「……All I worship and I adore」

「うん」


僕の首や耳を舐めていた竜崎は、そこで電池が切れたようで
その体から力が抜けて重くなっていく。

やっぱり、酔ってるんじゃないか。


僕はと言えば、家に帰ったら「イイ事」をしてやるという約束は、
無かった事になるのか、それとも明日の晩させられるのか、考え続けていた。


「ワタリさん」


運転席に声を掛けると、若干躊躇う気配の後、静かな返事がある。


「はい」

「竜崎、自分には日本人の血が混じってるって言ってました」

「……」


ワタリは僕にも聞こえる長い長い溜め息を吐いた後、


「月さん」

「はい」

「Lを……、よろしくお願いします」


と、低い声で言った。






--了--





※88000踏んで下さいました、ナツヨさんに捧げます!
 リクエスト内容は


 四字シリーズのWデートとか見てみたいです。
 勿論Lの相手はキョーコちゃんで、月君は適当に誰でも。
 関係がばれないかハラハラする月君。
 あと合コンも良いですね。
 酒に酔ったどちらかが豹変したり。
 泣き上戸の月君、もしくは酒癖悪くS全開亭主関白な竜崎とか。
 皆の前で「月、もう帰るぞ!」とか言っちゃたり、固まる皆の衆…。


 前回(恋愛勘定)の最後にネタで書いたダブルデートでした(笑
 オリジナルな人は出来る限り薄くしたかったので、
 割と普通に淡々とデートと合コンになってしまった。

 でも書いていて楽しかったです。
 まさかの竜崎×高田様とか(笑
 竜崎がちょっと格好悪くなって申し訳ありませんでした。

 泣き上戸の月くんも、亭主関白竜崎も、どちらも面白そうですが
 どちらも、となると相当崩壊してしまうので、竜崎を選びました。
 Lは月と違って、外面完璧でありたいとか、真面目でなきゃ、とか
 そういうのがないので、酩酊したらしたでそれを楽しみそうです。

 「Fry me to the moon」は碁のリクエストでも使った事がありますが、
 特に思い入れがある訳ではなく、「月」だからです。

 ナツヨさん、こんなんで良かったでしょうか?
 楽しいリクをありがとうございました!






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