Drive me crazy 4 翌日も力が満ち溢れていて、朝から一戦交えた。 しかし、鏡を見ると我ながら幽鬼のような顔をしている。 ヤーマーの効果は、体力が降って湧いてくる訳ではない。 数日分の元気の前借りに過ぎないので、半日後か明日辺りには酷い事になる筈だ。 なので、特に予定は立てていなかったが、イギリス大使館にもう官僚が殺される事もなく、テロも起こらないとだけ告げて我々は空港に向かった。 体力が余っていたので、夜神と意味も無く空港内を走っていると(一般人には飛行機に乗り遅れそうな客に見えるだろう)後ろから呼ばれる。 振り向くと、あのプーミパットが居た。 「ラージ!」 「ああ、無事でしたか」 「ええ。お陰様で。……すみません、お急ぎでしたか?」 「いえ全然」 「……? 私の方は、頂いたマイクロSDのコピーを署長に送りつけ、私に何かあったら公開されると脅しました」 「それはそれは」 「で、見事警官を馘になり、莫大な口止め料を貰って国外追放です」 「あなたなら、どこででも生きて行けますよ」 その時、キャリーバッグを引きずった少年が、プーミパットに寄り添った。 「……アイス」 「彼も、一緒に連れて行きます。その方が良いでしょう」 「そうですね」 少年は相変わらず伏し目がちだったが、心なしか以前より顔色が良いように見える。 夜神は驚いてアイスの顔を覗き込んだ。 「本当に、同じ顔だな」 「……」 「ああ、失礼。僕もラージの仕事仲間です。 今回はあなたも大変だったと思います」 「……大変、の一言で済むと思いますか?」 「その……そういうつもりはないんだ、申し訳ない。 でも、自分を卑下する事はないよ。君のヒアノと人に愛される才能は本物だ」 俯いたままだったアイスは、睨むように夜神を上目遣いで見上げた。 「愛……?そんな言葉で僕の半生が語れると?」 「それは……そんなつもりは」 「Fuck Youという言葉、知ってます?」 「……」 「他にも捨て台詞で“ケツの穴洗って待ってろ”とか。 男のケツにぶちこむのは、単なる征服欲と性欲ですよ」 「……なるほど」 下品な物言いに眉を顰めるでもなく、礼儀正しく答える夜神の顔を横目で観察したが、 上品な微笑以外何も見て取れない。 「というかあなた、プロイですね?」 少年はまた俯いて「くっくっ、」と声を漏らした後、耐えきれないように爆笑した。 「バレたか」 「バレますよそれは」 「でも本当に、あいつの気持ちを代弁したつもりだけどな」 「……そうですね」 取り憑かれたように激しいピアノ演奏と、生気のない受け答えを思い出す。 彼は、きっとピアノを弾いている時以外は、生きてはいなかったのだろう。 数多くの要人に愛されたベッドの中でさえ。 「あなたは、お家に帰らなくて良いんですか?」 「いいんだ。俺は王宮よりも、広い世界が見たい」 「そうですか」 「アイスは、短期出家の名目でピアニストとしての活動を休止する。 専門家に秘密裏に頼んで、ゆっくり薬を抜くそうだ」 「それは何よりです」 髪の短いプロイは、全く少女に見えなかったが、その美しさも瞳の引力も健在だ。 と思っていると、するりと私の腕に自分の腕を絡める。 「本当に、あんたになら売っても良かったんだぜ?」 「何をですか?」 「オレの、ヴァージン」 夜神は、隣で目を丸くしていた。 私は苦笑してそっとその腕を外す。 「せっかくですが、遠慮しておきましょう。 パートナーが居るので」 そう言って夜神の肩を抱くと、夜神もプロイもそれぞれぎょっとしたような顔をした。 「……振られた」 そう言って今度はプーミパットの腕にぶら下がったプロイに手を振り、我々は搭乗口に向かう。 「何だよパートナーって」 「あながち嘘でもありません」 「思い切り誤解を招くけどな」 「気にしてます?」 「何を?」 夜神は気がなさそうにチケットと電光掲示板を見比べていた。 「プロイの言っていた、Fuck You に関する見解です」 「ああ、」 夜神は本当に忘れていたように、少し斜め上を見て小さく頷いた。 忘れる筈など、ないくせに。 「頷いていたので」 「なかなか至言だな、と思っていて聞いていただけだよ」 そう言いながら、流し目で私を見た。 「ありますよ?愛情」 「は?」 夜神は心底意表を突かれたように、目を剥く。 「私があなたを抱く理由は最初は征服欲でしたが、今はそれなりに愛情も愛着も持っています」 「……ふぅん」 「何ですかその薄い反応」 「いや。おまえも成長したな、と思って。 僕に対して平然とそういう嘘が吐けるようになるとは、大したものだ」 「嘘だと言っても、嘘じゃないと言っても、無意味ですね……」 まあ、その辺りは曖昧にしておく方が都合が良いだろう。 お互いに。 「ああ。何に気を使っているのか知らないけれど、僕に対してはそういうのはいらないから。 ただ、したくなった瞬間に、したいと言えば良」 「したいです」 かぶせるように言うと、夜神は少し眉を上げた後、肩を震わせて笑った。 「おまえね……」 「今からなら、空港のトイレで一発、機内のトイレで二発、くらいは出来ます」 「自重しろ」 夜神は私のTシャツの襟首を掴み、耳に口を寄せる。 「……捜査本部ビルに戻ったら、何回でもさせてやるから」 「……」 その頃には薬が切れるので、当分の間使い物にならなくなるのだが。 そしておまえは恐らく、このハイ状態での言動を後悔する事になるのだが。 その言質だけは貰っておこう。 私はポケットの中で携帯端末を操作し、今の夜神の声を保存して再生してみた。 ……何回でも、させてやるから。…… --了-- ※86000打リクを下さったさこさんに捧げます。 リクエスト内容は、 横文字シリーズの続きで、 タイにイギリス官僚連続殺害事件とテロ事件が同時に起こり、 Lとライトが現地へ飛び犯人を突き止める話でお願い申し上げます。 Nはイギリスに留守しサポート役割で願います。 タイといえば、半島で最大な都市バンコク、仏教(短期出家もあるという)、 有能な皇室、ニューハーフ、信仰深い人民達、 スレンダーな南国少年(なんですかこんな偏った印象らは)。 捜査中にLに心酔している男前警官が出たり、売春少年がLにちょっかい出したり、 ライトが被疑者を誘惑したりとか見れたらと思います。 また、南国の気分に染まって、ライトがいつになく開放的になって、Lに愛の告白をし、 Lに双方に独占的な関係を要求する場面をみれればと存じます。 他のリク主が「横文字の二人を幸せにしてほしい」という、 キスケ様の雑記に出た一行から浮かんだものです。(見間違ったらごめんなさい) キスケ様のサイトの文章を全て見ましたので、『そう言えば横文字シリーズの月は罪を償う色が濃く、 Lは距離を取る感じで、二人とも自分の気持ちに直面したくないような、、』と思いまして、 こんな二人にもう少し心の距離を縮められるよう、この度リクエストさせて頂きました。 ターイー!知らない土地! しかしお陰様で色々調べて、タイに随分詳しくなりました。 超行ってみたい!微笑みの国、タイ! 忙しい時期と重なった為苦労もしましたが、書いていてめっちゃ楽しかったです。 本当は色々観光名所も折り込みたかったな〜(長いので断念した) ゴーゴーバーなどは事実ですが、警察とか大使館とかは勿論フィクションです。 ないとは思いますが、万が一、万が一、タイ警察とご縁のある方にご不快をお掛けしたら大変申し訳ありません。 キラの記憶を持っていて、死ぬかもしれない苦しい監禁生活を経た月は、 キラでいる頃に比べ、変わらない部分と変わる部分があるでしょうけど、 少し大人になったというよりも法律や世論の力を認識したと言えるでしょう。 「デスノートを持ってる限り世間の制限を越える存在になれる」という考えも、 「人間でいる限り人間という制限から逃げられない」という考えに切り替えつつかもしれません。 法律や政府の力で懲罰されてもなお人間を信じる横文字シリーズの月は、 ある意味一番原作に近い月と思います。 そして横文字シリーズのLは、ちゃんと世間のルールを知っていて 自分の好き嫌いで仕事を選び生活する人で、月に比べたら人間の悪に対し冷酷さを持っていて、 事件解決するために人間の弱みを上手く利用できる人と感じます。 こんな二人にお互いに近づくなど、普段ではありえないと思いまして、 やはり開放的な環境で(例えば温暖な気候を持つ異国で)、 政治のバカらしさを暴れた官僚達の痴情縺れや買春、自殺、 殺人事件をネタにした政争のような事件で (Lは全てお見通ししてもスポンサーの要請で現地に顔を出さなければならない、 つまりLの推理も政争に利用される予定で、Lにとって不本意ですが やらなければならない嫌な仕事で普段より集中力落ちてますし普段より我侭な一面を出す。 月は月で情念の執着で官僚も売春者も身分関係なく人間が犯罪するという事実に自身に顧みる。)、 二人に【本来の自分が隙が出た】ような状況に逢い、 月が悩み始めとLが本能的に追っかけてガッチリ掴むというのを見てみたいと考えました。 うーん、凄い!面白く深い考察だと思います。 あ、過分なお言葉もありがとうございます! 転載させていただくと手前味噌みたいで恥ずかしい部分もありますが、非常に萌えたので。 とか言いながらも結局薬の力を借りていて月が素かどうか分からないし、 「愛してる」もL本人に対して言った言葉ではないので、中途半端なクリア具合かも知れませんが。 さこさん、大変お待たせして申し訳ありませんでした! 新鮮なリク、ありがとうございました!
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