クリスマス・ファンタジー 6 「……」 僕は思わず、大きく息を吐いた。 息を吐きすぎて貧血気味になって頭がくらくらする程に。 「あー、あの様子だと、来年から来てくれないかも知れませんね。残念です」 「……」 「どうです?月くん。驚きました?」 「ああ……驚いたよ。滅茶苦茶驚いた」 全く。 キラの殺人で、この世には科学で解明できない事もあると分かってはいたが。 「私はサンタクローズの存在を知っていたので、キラの超常殺人を比較的容易に受け入れる事が出来ました。 それに死神とやらも実在するのだろう、と。嫌々ながらも認められましたよ」 「そうなんだ……」 「月くんは、どうです?意外とあっさりサンタクローズを受け入れたようですが?」 「いや……あれだけはっきり見せられるとね……」 言ってから、確かに簡単に受け入れたな、と思う。 僕は……自分で思うより、柔軟な思考をしているようだ。 と、自分の格好に気付く。 いくら人間ではなかったとは言え、この格好は……失礼にも程がある。 「まあ、これでもう監視しなくて良いですし。 二人でシャワー浴びに行きましょうか」 「うん……」 脱力していたが、何とか立ち上がった。 ああ……床や椅子の精液やローションも、きれいに拭き取らないとな……。 「正直私今、混乱してます」 「え。サンタの存在を信じてたんだろ?」 「はい、それは。ただ、サンタクローズにキラの殺人手段を頼んだと聞いた時、 あなたがもう少し動揺するかと思いました」 ああ……なるほど。 僕をサンタクロース見物に巻き込んだのは、キラの殺人手段を見せるか、 キラの殺人手段を頼んだ事を聞かせて、動揺を誘う為だったのか……。 「何度も言うけど、本当にキラじゃないから。 キラの殺人手段を見られる物なら僕も見たい」 「セックスの時でも寝ている時でも、こんな非常事態でもそう言い続けられるあなたには、感服するばかりです」 「……」 「あなたにはきっと、ポリグラフも効かないんでしょうね」 僕はモニタルームのドアを開けながら、溜め息を吐いた。 「竜崎は僕の恋人になりたい?」 「は……い?」 「さっき言っただろ。自分の体を弄んでいるだけなのか、と。 セックスフレンドでは不満なんだろ?」 「ええ、まあ」 「なら、もし恋人になったら、」 「キラだと白状してくれますか?」 「キラだとしても見逃してくれるのか?」 「……」 「……」 思わず二人で黙り込んでしまう。 やっぱりコイツとは……合わないな。 そのまま二人でシャワーを浴びたが、もう色っぽい雰囲気になる筈も無く。 黙り込んだまま手早く洗って、そのまま寝ようとする竜崎をやはり無言で引っぱってモニタルームに後始末に行く。 指を咥えてぼんやり立ち尽くしている竜崎を放っておいて床や椅子を拭き、消臭剤を掛けると、ようやく話をしても良いかな、という気分になった。 「じゃあ寝ようか」 声を掛けると、竜崎も小さく頷く。 通路に出ようとした瞬間、ドアが開いてワタリが現れた。 「おや。もうお休みですか?」 「あ、はい」 「サンタクローズは見られましたか?」 「はい……」 ワタリはにっこり笑って、 「ホッホッホッ、Merry Christmas!」 「メ、メリークリスマス」 その底の知れない微笑に。 この人なら、本物のサンタクロースにも手を回して好きなように操りそうだな、と思った。 --了--
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