Light no Go
Light no Go








夜神は尾行を警戒してなどという名目でしばらく街をぶらついていたが。
帰って来るなり、碁盤を持って来た。


「打とう、L」

「もう事件は終わりましたよ?」

「やっぱり僕がおまえに勝てないのは納得行かない。
 勝てるまでやるぞ」

「……終わらないじゃありませんか」


私は不承不承という顔をしながら、碁簀を引き寄せる。
パチ、と高い音を立てて打つと、やはりマウスより感触が良かった。


「しかしおまえも酷いな。通報するならすると言えよ」

「早くあの場を去った方が良いと警告したじゃないですか。
 それにしても思ったより早く来ましたけどね」

「何とか逃げられて良かった」

「塔矢夫人に感謝ですよね。多分わざとですよ、あれ」

「ああ。お茶をひっくり返す前に目が合ったしね」


序盤は既に、考えるまでもなくパチパチとノータイムで進んでいく。
我々も碁に慣れたものだ。


「塔矢名人や進藤本因坊もかばってくれたし」

「あれには私も驚きました」

「僕と多少なりとも話したから?
 それとも碁に将来性を感じてくれた?」

「後者でしょう」

「……面白いね」

「面白いです」


夜神はそこで止まり、碁盤を見つめながら少し考えた。


「……彼等は、どこまで信じたかな」

「さあ。ただ、後で模木さん達が事情聴取をした時。
 あなたを庇いすぎて、キラの仲間ではないかと疑われていたようです」

「それはお気の毒だ」

「まあ彼等にとって、名前も顔も知られているあなたは脅威でしょうが……。
 元々有名人ですしね。
 それよりもあなたや私が碁を打つかどうかの方が重要な問題なのでしょう」


じゃら、と碁簀に指先を入れる音がして、パチ、と星に石が置かれる。


「朗報もあります」

「うん?」

「模木さんと松田さんは、今回の件を上には報告しない事に決めたようです」

「え!マジで。意外だな」


殆ど時間を置かずに石を置くと、夜神は首を捻った。


「まあ、余計な事をして日本警察とLの連携に罅が入っても困るでしょうし。
 自分達の命が握られているという危機感もあるんでしょうね」

「なら近いうちに模木さんからまたメールが入るだろうな」

「はい」


パチ。
目の前に白い指が伸びてきて石を打ち、場所を微調整してから去って行く。


「どうする?」

「そうですね……まあ、あなたは絶対にデスノートを持っていない事を保証して。
 必ず捕まえると言えば彼等も安心するでしょう。
 まんざら嘘でもないですし」


碁簀の中に指を入れると、ひんやりと気持ちが良かった。


「後はフェイドアウトすればいいな」

「はい」

「……でも、碁は続けるよ。いいだろう?」

「……ほう」


パチ。
彼等の真似をして、人差し指と中指で石を挟んで置いてみる。


「勿論おまえたちの世話やL業が最優先だから、偶にネットで打つ程度だけど」


じゃら。パチ。
増えていく白と黒。


「やたら強い、ネット上の謎の棋士。
 きっと噂になってしまいますよ?」

「良いじゃないか」

「ハンドルネームは?」

「そうだな……」


……sai。


と呟く声と共に、石が増える。


「いいですね。また彼等に会えますね」


夜神は盤面に視線を固定したまま無言で微笑んだ。


「楽しかったですか?」

「ん……え?」

「塔矢アキラや進藤や社と話したり遊んだりして」

「ああ……うん。楽しかったよ。
 同年代の日本人と喋ったの久しぶりだったし」


私が星に置くと、すかさずその横につける。


「でも」


夜神の、黒く染めた髪が目の前でさらりと揺れる。
根元が少しだけ地毛の栗色に戻っているのが見えた。


「こうしておまえと遊んでいるのが一番楽しい」

「それ、愛の告白ですか?」

「言って欲しいのか?」

「ええ」


夜神は苦笑すると、私が石を置くのを待っていたかのように身を乗り出して来た。


「愛してるよ。L」


耳元で囁いて。


「……ニアの次くらいに」


揶揄うように笑って座り直すと、部屋の端から犬のぬいぐるみが飛んできて、夜神の後頭部に見事に命中した。





--了--





※本当に大変お待たせして申し訳ございませんでした!。
  110000打を踏んで下さいましたちさとさんに捧げます。

  リクエスト内容は、



横文字設定のデスノートとヒカルの碁(時間軸は塔矢が月と同い年ぐらい)のコラボ小説が読みたいです。

日本警察から棋士関係者が数人殺された事件の解決を極秘で依頼され、ある囲碁イベントに月は潜入捜査で参加し、そこで塔矢アキラの指導碁を受けます。
囲碁初心者の月はイベント前にLに手ほどきをうけ(Lは世界のあらゆるボードゲームを極めている)、秀策の棋譜を中心に勉強したためか塔矢にsaiの関係者だと勘違いされます。
ラストはsaiと勘違いされたLがネット碁で対局終了後、Lの文字が現れ犯人およびsaiについての推理を披露するという話です。


デスノートもヒカルの碁も大好きなのでこんなわがままなリクエストですいません。
後、横文字シリーズの今後の展開もあると思うのですが出来たらでいいので
松田あたりに遭遇し、ヒカルの碁のメンバーに月がキラであることがバレてしまうというエピソードも入れてほしいです。

月はずっと物足りなさを感じながら生きてきて自分と対等なLと出会えてよかったと思います。北斗杯の合宿でヒカル、塔矢、社のやりとりのような横文字の月、L、ニアの三人の距離が少しでも縮ればいいと思いリクエストしました。

最後は
囲碁界にとってL や月のような存在は欲しいと思いますが、ヒカルとアキラのようなライバルなかんじがLと月の場合は普通じゃないかんじでヒカルの碁の世界のLと月は異常な存在なかんじが出るといいなと思います。


  楽しいリクエストありがとうございます!

  いただいた時は、ヒカ碁とコラボ!なるほど!それまで思いつかなかったので膝を打ちました。
  私もヒカ碁も大好きなので楽しく書かせて頂いたのですが。
  ……意外と難しかったです。
  ちょっと難しポイントを書かせて下さい。

  ・同じ時代の同じ国でありながら、世界観が違いすぎ。
  ・震災。
  ・ヒカルやアキラさんも立てつつ、Lや月も、みたいな主役が多い話も私の苦手とする所です。
  ・Lが居ない場所でのやりとりを表現するのも苦慮しました。
  ・あと、ヒカ碁を全くご存じない方が読まれる事を想定するとどこまで説明すべき?とか。
  ・碁の強さランキングをどうするか、とか。

  Lと月のチートが振り切れてるデスノの世界に行洋さんとか連れてきたら可哀想……。
  なんですが、キャラ全員集めるとやはりLが最強かと。
  本来月はLに拮抗する筈なのですが、行洋さんに配慮しました。

  迷う所多く色々試行錯誤していたら長い時間が掛かってしまいました。

  このリクをいただいた頃は、まさかデスノがミュージカル化されるとか、ドラマ化されるとかまた映画が出来るとか思いも寄らなかったんですよね。
  脱出ゲームは行った後か(本当にごめんなさい)
  緒方さんと月の会話とか、明子さんと月のやりとりとか、自分が楽しくて筋に関係無い事を詰め込んでしまった事もあり思いがけず長尺です。

  (明子さんは塔矢アキラのママ。
   私のヒカ碁パートでは最強の人なので色々意味ありげな事言ってますが特に意味はないです)

  長くなればなるほど矛盾とか誤字とか色々見逃しがちなので、気付かれた方は教えていただけると嬉しいです。

  でも楽しかったな〜♪

  両作品の良い所を上手く使えなかったのが大変大変心残りですが、自分の心には残る文になりました。

  ちさとさん、ナイスリクありがとうございました!







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