武士道ロマンス 7 父も帰り、看護師も出て行った少し後、ドアが開いてLが入って来た。 後ろに向かって何か言ったのは、ワタリにでも外で待つよう伝えたのだろう。 一人で入って来て、挨拶もなしにベッドの横の椅子に勝手に座る。 「目が覚めたそうですね」 「ああ」 「具合はどうですか?」 「今は鎮痛剤が効いているらしい。痛くないよ」 「……」 「肋骨はチタンのボルトで継いだそうだ」 「……」 自分で尋ねて置いて、僕が答えてもまるで上の空だった。 「竜崎?」 「……私が今日来たのは、あなたがどうして私を助けたか、 聞きそびれたからです」 「見舞いじゃないのか」 「はあ。それもあります」 「ついでか」 自分でも漫才の突っ込みのようで馬鹿らしかったが、 Lがそんなに必死で僕の言葉を聞きたがっている、と言う状況は笑えた。 「……私の中で、あなたがキラだと言う結論は変わっていません。 火口を捕らえるまでのあなたに関しても、辻褄の合う理論を見つけました」 「……」 「でも……あの時のあなたの行動だけは、どうしても矛盾するんです。 何故、私が自然に殺される機会をみすみす逃したのか」 「……」 「結果的には自分を信用させる為、と言えなくもないですが、 あなたが助かったのは偶然に過ぎません」 「……父には、褒められたよ。警官として誇りに思う、と」 「……」 Lは椅子の座面にしゃがんで親指の爪を勢いよく囓りだした。 「……では、警官の息子として、警官志望として、 模範的行動を取っただけだと?」 「ああ。当たり前の事をしたまでだ」 「……」 またLが考え込む。 比類無く思考速度が速いLが、会話をしていてこんなに黙る事は あまりない。 やがて、少し矛先を変えた。 「ところで意識を失う前、あなた、何を言ったんですか?」 「……」 ……好きだった ……僕も初めてだったんだ 「さあ、覚えてないな。死ぬかと思って朦朧としていたし」 「なるほど。死ぬかと思って、本音を言いましたか」 Lが突然、目を見開いてニヤリと笑った。 「すみません。本当は、あなたが何を言ったか知ってます」 「!」 ……僕も初めてだったんだ、セックス ……おまえも男も女も含めて初めてだって知って、嬉しかった ……好きだった、L 自分の耳に、頬に、物凄い勢いで血が上るのが分かる。 じんじんする。 熱くなる。 熱は、どんどん侵攻して目まで熱くなり、 微かに涙腺が痛んで眼球の表面まで潤む。 何か。 何か言わなければ、何とか誤魔化さなければ、と思うのに 口を開こうとすると唇が震えた。 Lは真顔に戻って続けた。 「あの場では分かりませんでしたが、後で監視カメラの映像を見て ワタリに読唇して貰いました」 「……」 気持ち悪い……こいつには、「恥」の概念がないのか。 あの老紳士が僕の台詞を翻訳している所を想像すると目眩がする。 「ああ……そう。で?」 「あなたの気持ちにお応えしたく、こうしてわざわざ足を運びました」 「そんなの……おまえは僕がキラだと信じているんだから、意味ないだろ」 「そうでもありません。あなたがキラだからこそ、意味があるとも言えます」 「あんな言葉を信じるのか?世界の切り札とあろう者が?」 「嘘なんですか?」 かくん、と首が傾げられ、硬そうな黒い髪がゆらゆらと揺れる。 昨夜から僕は、Lに懸想していると言っている。 今更違うとは言えないが、本気だと思われるのも歯がゆい気がした。 「嘘じゃ、ないけど」 「ならいいじゃないですか。あなたは私の中ではキラで、 そして死ぬほど私を想っている」 「……」 「そこで提案です」 Lは司会者のようにぽん、と手を打ち、僕の顔を覗き込んだ。 「私、あなたと付き合っても良いです」 「……は?」 「ミサさんには申し訳ありませんが、あなたの物になる事も やぶさかではありません」 何を……言っているんだろう。 付き合うって。 男同士で、というか探偵とキラで、何を言っているんだ。 「何が……狙いだ」 絞り出すように訊くと、Lは涎を垂らしそうな顔でニタリと笑った。 「キラも、恋人が頼めば自首してくれるのではないかと思いまして」 「……」 ……馬鹿馬鹿しい! おまえは、いつもそうだ。 いつも自分本位。 誰かの為に、損得勘定抜きで何かをする事なんて、考えた事もない。 だがそこで、Lが突然また真顔に戻った。 「勿論私も、恋人の為には出来るだけの事をしたいと考えます」 「……例えば?」 「司法の手に一旦は引き渡しますが、その後は私に任せて貰います。 表向きは死刑を執行した事にして、命を助ける事も可能です」 「……」 「勿論釈放したり、自宅に帰したりするのは無理ですが」 キラを辞めた上に、Lという監獄の中で。 捕らわれたままの一生を過ごせ、というのか。 「……あくまでも、僕がキラだったら、という仮定の話だけど」 「はい」 「キラも続けられない、自由もなくなる、そんなデメリットしかない申し出は 蹴ると思う」 「そうですか」 Lは何故か余裕の表情を見せた。 おまえはもう詰んでいるのに。 キラが次にミサに会った時が、おまえの最期だと言うのに。 「残念です」 「そうだね」 「でも私、キラはもうLを殺せないような気がするんです」 「……」 おまえは何も、学習していない。 あの機動隊員がおまえに銃を向けた時も、同じ余裕を見せていた。 それで撃たれたじゃないか。 「でもまたきっと、月くんが守ってくれます」 「……」 「ですよね?」 「……!」 僕は、まるでまた撃たれたかのように動く事が出来なかった。 今のLの一言で、一気に自分の未来の未来までが、見通せてしまったからだ。 どの道を選んでも、その先には茨の道が広がっていて 僕は目眩の中、目を閉じて瞼の裏の闇に逃げ込んだ。 --了-- ※リクエストと言いますか、お世話になった方への個人的なお礼です。 見たいと仰って頂いた内容は、 ≪キラがLのために体を張って助けるところが見たいです♪≫ ・月はキラ記憶が戻っている ・L×月でL←月 ・二人が何かの事件に巻き込まれる ・Lが好きな月(キラ)が、助ければキラの疑いが晴れる等の 打算的な考えなしに、身を挺してLを助ける ・それにLが驚きつつも疑いつつも嬉しがる、みたいな・・・ あと、追加リクとして 夜神総一郎さんを登場させてください! それで月との親子の会話が見てみたいです。 なんだか癒されるので・・・w 総一郎さん、人気ですね〜。 総一郎さんがあれなので二部が読めないという話もちらほら。 という事で、シリアスで行こうと思っていたのですが、気がついたら Boy Meets Girl みたいなほのぼのした感じになっていました。 リク文を拝読した後、初めに思ったのが「で、それからどうするのー!」 だったのですが(笑)その辺りはもう、答えを出さないままで。 こんな感じで良かったかな? 萌えるリクエストをありがとうございました!
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