53.気難し屋の猫 部屋に入ってすぐに「服を脱げ」と言うと、進藤は素直にジャケットを脱いだ。 素っ裸になった所でネクタイを拾い、後ろ手に縛り上げる。 「ベッドの前で膝を突け」 と言ったら、ことさらゆっくりと背を向ける。 イライラして膝裏を蹴ると、崩れるように跪いた。 上半身を押し倒して、こちらを向いた尻を開く。 ローションを垂らして親指を突っ込むと、「う、」と呻いた。 「いきなり、入れるなよ」 「親指くらいでガタガタ言うなよ」 もう一方の親指も入れて、こじ開けると 進藤の尻の穴の薄い皮膚が突っ張って白くなった。 「いっ、」 「これなら、十分入るな」 もう、進藤の中に入りたくて入りたくて、涙を流しているボク自身を、 親指の代わりに挿し入れる。 進藤は声も出さずにびくりと揺れ、横向きにベッドに押しつけられた顔は 歯を食いしばり過ぎてカタカタと震えていた。 「……オマエなんか、嫌いだ」 しばらくじっとしていると慣れてきたのか、声を出したのでボクも動くことにする。 「オマエ、なんか、」 「知ってる。でも、」 苦しいのか気持ち良いのか、汗と涙が顔を濡らし、 その表情はとても扇情的だ。 「ボクはキミの事、好きだよ」 「るっせえ!知るか!」 本当に大好きなんだ。 じゃなければ、こんな事しない。 動物を飼ったことのないボクが、初めて飼い慣らしたいと思ったのは 進藤ヒカルだった。 捨て猫なら拾って家に連れてくればいい。 売っている猫なら買えばいい。 では、自由に出歩いている野良猫は? 捕まえて、閉じこめる。 躾をして、言うことを聞けば餌をやる。 外出して帰ってこなかったり、爪を立てたりしたら? お仕置きだ。 勿論、セックスはお仕置きなんかじゃない。 それが証拠に、ほら。 「畜生!誰が、オマエ、なんか、」 言いながら、赤みが増している頬。 汗と涙と、口を開ければ涎が垂れるよ。 「ボクなんか?」 「嫌いだ!こんな、」 「こんな、何?」 「ああっ、い、やだ、とう、塔矢!」 あ〜あ。良いって言ってないのに、勝手にイって。 またお仕置きだな。 お仕置きには、三種類ある。 一つは、一週間碁を打たない事。 勿論ボクは普通に仕事で打つが、進藤にはボク以外との対局も禁止する。 二つ目はスタンガン、三つ目は根本を縛ったままのセックス。 好きなのを選んで良いと言ってるけれど、一番に選んだ碁は、 その後二度と選んでいない。 結局スタンガンとセックスのローテーションだが、それを繰り返していると 進藤は面白い程に従順になった。 暴言に関しては罰しないから、相変わらず口は悪いけれど。 ボクの言うことに決して逆らわない。 あまつさえ、ボクを受け入れることを楽しみ始めてもいる。 「あっ、あっ、塔矢、もう、だめ、壊れる、」 「その割には、また勃ってるけど?」 「うるせえ!テメエなんか、嫌いだ!」 「でも、前ほどじゃ、ないよね?」 手首からネクタイを外し、前に回して手早く進藤の根本を縛る。 「あ、やめ、」 「ボクが良いって言うまで、イっちゃダメだって言ったよね」 身もだえしながらも、進藤はそれ以上抵抗しない。 このくらいのお仕置きなら、失敗を繰り返さなければ早めに解放されると知っているから。 そして、解放された時の快感が、気を失う程悦い事を知っているから。 「……今、何時」 「大丈夫。十分くらいしか経ってないよ」 ネクタイを解いた時、進藤はびくびくと体を波打たせて二度目の絶頂を迎えた。 そのまま崩れて、尻からボクのモノを垂れ流しながら失神していた。 そんな姿で嫌いだなんて言われても、信憑性がないよね。 「良い格好だけど、シャワー浴びた方がいいね。立てる?」 「うるせえ。うぜえ」 「これでもボクはキミの事が、好きなんだ。 そうやって少しづつでも心を開いてくれればいいよ」 「誰がだ!」 その言動は相変わらず気難し屋の野良猫だけれど、 本当はボクの事、もう憎くないんだろう? 「だってキミ、『ぶっ殺す』とか『許さねえ』とか言わなくなったじゃないか」 「……」 それに。言わないでおいてやるけれど、 イく時にボクの名前を呼ぶようになってきたじゃないか。 「……うるせえ」 そろそろキミの首に、鈴のついた首輪をつけてもいいだろうか。 ボクを主人と認めてくれたと、思って良いだろうか。 「進藤」 「るせえっつってっだろ」 「ボクは今、ちょっと機嫌がいいから」 「少しは黙ってろよ」 「殺しても、良いよ」 「……」 「ボクを殺しても、良いよ。どうする?」 目を閉じて、ベッドに横たわる。 進藤の、はぁはぁと少し荒くなった息の音が聞こえる。 やがてギシ、とスプリングが鳴って、ベッドに登ってきた気配がした。 しゅ、とやや高い音がして、首の後ろにネクタイが通される。 そのまま前で交差して…… またはぁはぁと、 ただ呼吸の音。 しばらくした後、進藤の体の位置がずれる気配がして、 ボクの萎えたモノが、暖かい粘膜に包まれた。 ぺちゃ、ぺちゃ、と。 猫がミルクを舐めるように。 ボクが満足してその頭を撫でると、 ゴロゴロと機嫌よく喉を鳴らす音がしたような気がした。 -了- ※良かったですねー。
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