52.夜の果て 2.
52.夜の果て 2.








「おい。待てよ」

「何?」

「オマエ、旅行先のどっかで吸血鬼の女とヤッたんだよな?」

「そういう事になるが」


何が「そういう事になるが」だよ。
金髪の色っぽい女と絡み合ってるコイツが嫌でも頭に浮かぶ。
ホントどうでもいんだけどね。


「なら、オマエも同じようにしてくれよ」

「……」

「オレ実は童貞でさ。初めてが口とか手なんてそんなだせーのやだ。
 オマエの体の中で、イきたい。男ってのは取り敢えず目をつぶるから」


わかるだろ?と言わんばかりに目を覗き込む。
塔矢は固まっている。
この瞬間、攻守が明らかに逆転したのが分かった。

さぁ、どうする塔矢アキラ。
このまま殺すか?吸血鬼になっても良いと言ったオレを。
そんなこと、出来るヤツじゃないよな?

なら今すぐこの縄を外せ。
玄関までオレを送って、全てを内密にしてくれと懇願したら
黙っていてやってもいい。
オマエの周囲で誰かが失血死するまではな。


塔矢は考えていた。
長い間。
頭が痛いみたいに額を掌で押さえて。


オレは、息を詰めて答えを待った。
どうだろう。
塔矢は吸血鬼になって、変わった。ところもあった。
どこまでがオレの知ってる塔矢なんだろう。
どこまで吸血鬼らしく残虐になれるんだろう。

どこまで碁に対する執着を持ち続けているだろう。


塔矢……。
オマエは、本当に塔矢アキラか?




長い長い時間が経った気がした頃、塔矢はすっと立ち上がった。
立ち上がって、服を脱ぎ始めた。


「おい……」


シャツのボタンを上から外していく。
肩を滑らせて脱ぎ、軽く畳んで畳の上に置く。
パンツ(てゆうかスラックス)を下ろし、片足づつ抜いて行く。


「おい!ちょっと、」

「男なのは、我慢するんだろ?」


無表情で、塔矢は下着も下ろして素っ裸になった。
きめぇーーー!

……でも、その肌は信じられない程白くて肌理が細かくて、
女だったらむしゃぶりつきたくなるような……
ってオレ何考えてんだ!


「おい!オマエ!それでいいのかよ!」

「ボクは、自分がキミに何を要求したか分かっているよ」

「……」


オレの命や人生を寄越せなんて、理不尽な事を言っておいて。
その為に自分もどんな犠牲も払おうなんて、

すげー塔矢らしくなくて、塔矢らしい。


「そのままだと入らないと思うから……失礼するよ」


あ。
と思う間もなく、顔をオレの股間に埋める。


「う…ぁっ…」


男だとか塔矢だとか関係なく、オレはぬめっとした熱い場所に包まれて
それだけで勃起してしまった。

塔矢は髪を掻き上げ、ニヤリと笑ってオレを上目遣いに見上げる。
髪の黒さ。肌の白さ。口の赤さ。
コントラストに眩暈がした。

オレは、魔物に飲み込まれたのを、知った。




……今、何時だろう。
目が覚めてからでもだいぶ時間が経った気がするけれど、
トイレも行ってないし腹も減らない。

畳の匂いが香る、四畳半の部屋で、オレは塔矢に犯されている。

いや、犯していると言った方が良いのか。
縛めはいつの間にか外され、オレの上に跨った塔矢は酷く苦しそうな顔をしている。
塔矢のケツの中はぎちぎちと狭くて、痛い位だけれどオレは萎える事も出来ない。

塔矢はと言えば、勃つどころじゃなくて痛みに汗を流し、震えながら
ただオレをイかせる為に、不器用に動き続けていた。

そんな塔矢に、興奮してしまっている自分が居る。

イけば血を吸われるのが分かっているから、出来れば萎えたいけれど
駄目だ。
何が「ボクがしてあげる」だよ。「手でも口でもお望みのままに」だよ。
自信たっぷりに、慣れてるような振りをして、
こんなに震えながら。白い肌を晒して。

……クソッ!


「塔矢。オレが動くよ」

「う…ん……?」


意味分かってんのか?返事を、聞き終わるか終わらないかの内に
オレの腰は勝手に動いていた。


「あ…あっ……っつ!……」


逃げられないように、塔矢の腰骨を掴んで、
早いと思う。
痛いだろうと思う。
けれど止まれない。

体が勝手に快感を追う。
体の中心をじーんと痺れるような感覚が貫いていく。

このままイきそうだと思ったとき、
上の塔矢の体がぴくっと震え、一瞬にして桃色に染まった。

驚いて見上げると、
風もないのに微かに揺れる電灯をバックに影になったその顔は
それでも明らかに苦痛だけではない表情を浮かべていた。


「塔矢…塔矢……」


尚も突き上げると、塔矢の手が自然に前に伸びて自分を弄りはじめる。
いつの間にか大きくなったそれは、既に汁を垂らしていて、

堪らない。
オレの腹の上で自慰をする塔矢。
その体の中でますます固くなるオレ。

血が昇る頬。
苦痛と快感に歪む顔。


その持ち主が高ぶるのと同調するように、長く、尖っていく犬歯。


こわい光景に、一瞬頭がひやりと冷える。
現実を思い出す。
そうだ、このまま動き続けていけば、オレは……。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだ………!

オレは、絶対に吸血鬼なんかにはなりたくない。
コイツと同じになりたくない。

そんな覚悟なんか出来てない。
オレには捨てられないものが、沢山あるんだ……!


なのに。

分かっているのに、止まれない。

涙が出そうな気持ちで最後に見た太陽の光を思い出しながら
学校や、友だちや、棋院や、渋谷や、
何気なくやりすごしていた、輝かしい日常を思い出しながら


オレは一瞬の快楽に向かって、破滅に向かって、疾走し続けた。


やがて暖かい腕が絡みついてきて
首筋に冷たい刃のようなものが当てられる。
肌の中に潜り込んできた感触があったが、不思議と不快ではなかった。

どちらかと言えば甘美な痛みを感じると同時に、
オレは塔矢の中にどくどくと放出した。





どのくらい気を失っていたのか。
数秒のような気もするし、数日のような気もする。
ただ、雨の音がしていた。
しとしとと、でもこれも塔矢としてる最中から聞こえていたような気もする。

隣には塔矢。
裸のままで、オレの腕を枕にして寝ている。
暖かくも寒くもない。

思えば、温度も時間の感覚も、すいぶん曖昧だ。
室温が丁度よく心地よい……というわけでもない。

何も感じない。

きっと熱帯夜でも、吹雪の雪山でも、同じ様な感覚なんだろうなと
直感的に分かった。

その代わり、耳はよく聞こえた。
雨戸の閉まった窓の外、塀の…十メートルほど向こうを猫が歩いている。
あ、オレが気をやったのに気付いて向こう側に飛び降りた。
雨宿りに行く途中だったんだろうか、悪い事をした。

他にも、雨粒の当たる音のちょっとした違いから、屋根の上のどの部分に
枯れ葉が乗っているか分かる。


「ん……」


塔矢が呻きながら、髪の毛をさらさらと異様に鳴らしながら動いた。
そういえば、塔矢の寝息だけは聞こえなかった。

重そうな瞼が上がる。


「……おはよう」

「うん……おはよ」

「…………ヴァンパイアの世界へ、ようこそ」


オレを笑わせようとしてるのかと思ったけど、真顔だったから違うかも知れない。
どちらにしろ笑う気分じゃなかった。


「どう?」

「う〜ん……異様によく聞こえるし、見える」


電灯が消されていて、ほぼ暗闇の筈なのに
塔矢の顔がくっきりと見えた。


「オレ……本当に吸血鬼になっちゃったんだな」

「ヴァンパイアと、自分達では呼んでるけどね」

「そっか……」


塔矢と、ヤッてしまった。
ヴァンパイアとやらに、なってしまった。

五感が違うから実感はあるけれど、自分でも驚くほど感情が動かない。
ただ、それこそが吸血鬼になった証拠なのかと思うと、微妙な寂しさはあった。
また、もう二度と日の目を見られないと思うとさほど嫌ではない、
妙な虚無感のようなものもある。


「真夏の昼間以外は、特殊な皮膚薬を塗れば大丈夫だよ」

「そうなの?」

「ああ。ちゃんと血を飲んで体力を補給してさえいればね。
 他人の血は、飲めそう?」

「うー…無理そう」

「…ボクの血は?」

「え?」


聞けば、別にヴァンパイア同士で血を吸いあっても悪くはないらしい。
人間の血ほどの滋養はないけれど。


「それに…相手がイく瞬間の血は、本当に最高の味だよ……」


塔矢はまた、淫猥に赤い舌をちろりと出して唇を舐めた。


「仲良くしよう。これから長い長い時間、共に過ごすのだから」

「……」


オレは塔矢の血を啜りながら、これからも棋士として活躍するんだろう。
年を取らない二人は、五年もすれば早すぎる引退をして外国にでも去るだろう。

それから二十年……今度は塔矢ジュニアと進藤ジュニアとして、
日本の棋界に戻ってくる。

ヴァンパイアになったばかりだと言うのに、ごく自然に
これからの生き方が浮かんだ。
もしかしたら、肌の触れ合った部分から塔矢の考えが
流れ込んで来ているのかも知れない。

でも。

そんな事を繰り返し、悠久の時を重ね、

オレ達はきっと神の一手を極める。


佐為。
神の一手を求めて千年も彷徨い続けたオマエなら、分かってくれるよな?
こんな生き方も、アリだよな?




「オマエ、前よりエロいのは、それはヴァンパイア仕様?」

「そうだ。……という事にしておいてくれ」

「だよな。オレも早速オマエの血が吸いたくなった」


塔矢を普通にそういう対象として見られてしまう、そんな自分の変化に苦笑しながら
悪くない、悪くない気分だと思いながら、
オレは今度は自分から塔矢を押し倒して、その青白い首筋に舌を這わせた。





−了−






※無理からエロに持っていった。






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