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093:Stand by me 高永夏が例の、塔矢アキラとの爛れた夏を送ったマヨヒガから帰ってきた翌週。 永夏のマンションに洪秀英はいた。 「やめてよ。」 「・・・え?」 突然乱暴に自分の手を振り払った秀英を永夏がぼんやりとした目で見返す。 今週にも対局に復帰する永夏の見舞いと、対局のリハビリの相手と、 途中に終わっていた前回の棋杯の検討を続けるためとを兼ねて 秀英は永夏のマンションを訪ねてきていた。 対局も一段落付いて二人で軽い昼食を食べた後、部屋でくつろいでいる時に さら、さら、と永夏は秀英の髪に指を絡ませては解くという仕草を繰り返していたのだ。 「前はこんなことしなかった。」 「あ、ああ。悪いな。髪になんか、」 「触るのは構わないんだけど。」 「・・・・・。」 前々から何となく気が合って兄弟のように過ごしていたので。 頭を撫でたり、ふざけた秀英が後ろからおぶさって来たり、 永夏としては無意識にそういったスキンシップと変わらないと思っていたのだが 思えばこんな風にしつこく触り続けたのは初めてかも知れない。 それを嫌ったのだと永夏は思ったが、秀英は別の感情を持っていた。 「誰を思いだしてたの?」 「え?いや、別に。」 「嘘だ。あれって、」 と言いながら額に入れてある、格子の便箋を顎でしゃくる。 「塔矢アキラとの思い出なんだろ?『誘拐記念』とか言っちゃって。」 「まあそうだけど、同じことだろう?」 永夏の顔が間抜けに見える。 子どもが何も知らないコドモだと信じて疑わない、大人の顔だ。 「ボク、そんなに鈍く見える?永夏はあれを見ながらボクの髪を触ってた。」 「それが?」 「塔矢アキラの事を、思い出してたんでしょう?」 突然ずばりと切り込まれて、永夏の表情が曇る。 これは、思ったより警戒が必要な相手だったか・・・。 「う〜ん・・・。それって、よくないことか?」 「不愉快だね。ボクの髪は塔矢の髪に似てるの?」 「逆だよ。」 永夏は安心させるように笑いかけながら答えた。 「塔矢の髪質が、秀英と似てると思った。」 「塔矢の髪に触ったんだ。」 間髪入れぬ切り返しに、永夏は悲しくなる。 ・・・今のは、重大な分かれ道だったんだよ。秀英。 もしオマエが「何だ、そうか。」と笑ってくれたら、このまま兄弟のように また仲良く過ごせたのにそんな風に小気味よく反応してくるからオレは、 大博打を打つハメになっちゃったじゃないか。 「髪だけじゃ、ないよ。」 「・・・・・。」 「オマエにはまだ分からない世界かも知れないけど、若い男がほとんど動けない場所に 二人きりで長時間閉じこめられるというのがどういう状態か。」 自分も、知らなかった。 自分にそんな一面があったとは。 永夏は、塔矢と閉じこめられていた時の事を秀英に全て話した。 自分が塔矢に何をしたか。 そして塔矢がどう反応したか。 長い時間に思えた。 いくら賢しいとは言え、秀英はまだ幼い。 いや、同年代の者、年上の者に言っても理解してもらえるかどうか。 永夏が話した内容は秀英の予想を遙かに超え理解の枠をはみ出していた。 呆けた表情の秀英の髪に、また触れる。 当然驚いて避けられると思ったが、秀英はどんな反応もしなかった。 「・・・人に、言ってもいいよ。」 「言わないよ!言え、ないよ・・・。」 そうだろうね、可愛い秀英。 「オレの事怖くなった?」 「・・・・・。」 「オレの事、嫌いになった?」 「ううん。そんなこと、」 「オレの側にいたくなくなった?」 「そんなこと、ない。」 「そう。」 「・・・・・あのね、永夏。」 秀英はどこか怯えを隠せない瞳で、それでも健気に真っ直ぐ永夏を見つめる。 「あの、ボクは、ボクの髪で塔矢を思い出すんじゃなくて、塔矢の髪がボクに似ていると 思ってくれたんなら、それで、いいんだ。」 「・・・・・・・。」 あ〜あ、秀英。またオマエは考えもせずに大変な事を言っちゃったな・・・。 永夏は満足げに溜息をつきながら考えた。 どうやらオレは、賭けに勝ったらしい。 永夏が塔矢との事を包み隠さず話した事の意味を、 自分が、それでも永夏のそばにいると言ってしまった事の意味を、 秀英が知るのはもう少し先の話である。 −了− ※これで私はヨンスヨって難しい、と思った。 ええっと、ヨンスヨの醍醐味って「鉄人28号と正太郎」でしたっけ。頑張ろう。 三人称地の文、マヨヒガに次いで二度目です。相変わらずぎこちない。 次はしつこく進藤バレ。 |
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