090:イトーヨーカドー
090:イトーヨーカドー



レディメイドのハルチカさんへのメルで、海王の制服を着たピカが見たいなぞとほざいたら、
にゃんと速攻描いて下さいました!
ありがとう!!!
きゃああ!ナイス違和感(笑)でもっでもっ!よくないですか!この短ランぶり!
しかもゲーセン!今度はアキラさん連れ違和感。その上バトルギアプレイ中(笑)

もう、何が何だかってほど萌えました。
この萌えを文に(しかも百題。ネタ不足?そうです。)生かそうと思って例によって
勝手にひっつけてしまいました・・・。
このシーンを描きたかったのに、いきさつまでひっつけてムダに長くなっちゃったな。


・・・・・・・・・・・・・・・









進藤が突然、おまえが高飛車なのはその制服のせいだなどと言いだした。


「関係ないだろう?それにボクのどこが高飛車だと、」

「あるさ!海王の生徒でござい、優秀なんでございって顔に書いてあらぁ!」

「何だと?」

「どーせオレは何の変哲もない学ランで、平凡な公立中学さ!」


手がわなわなと震えそうになる。
誰が!いつ!優秀なんでございという顔をした!

それにこの制服が少し変わっているのは知っているが、着ている本人は鏡を見ながら
歩いているわけでもないので殊更そんな事を意識したこともない。
訳の分からないコンプレックスをぶつけられても困る。
これだから公立の人間は・・・。

と思いかけて、やはりボクも選民意識を持っていたのか?と自問して反省した。

深呼吸をして心の中で、ひとつ、ふたつ、と数を数える。


「・・・なら、着てみるか?」

「え?」

「着てみれば気持ちも分かる。」

「・・・っておまえも大概突拍子もない事考えるなぁ。」

「着て歩いて、海王でござい、優秀なんでございという顔をしてみろ。」

「あ、それ楽しいかも。」

「冗談だ。」

「いや、やってみたいよそれ。制服とっかえっこしようぜ。」


進藤の薄汚れた学ランを見る。
前など背中にサッカーボールの模様がついていて、まさか制服のまま
運動したりするのかと聞いたら、当たり前だいちいち着替えてられるか、
との返事だった。

キミの学校が白い制服でなくて良かったと本当に思う。


「いやだ。」

「ちぇ。」


その時、その話は済んだと思っていたのだ。







数日後、学校から帰ると門の外で進藤が待っていた。
かなり驚いた。


「よっ!」

「ああ・・・あ?」


今日は家で打つつもりか、別に構わないかなどと思いながら入ると
当たり前の顔をして着いてきた。


「ただいま帰りました。」

「おかえりなさい。・・・あら?」

「こんにちは〜!進藤です。」


人なつっこい進藤に母は戸惑っていたが、やがて父の見舞いに来ていた少年だと
気付くと顔をほころばせた。





「まあ、じゃあ最近アキラさんがよく碁会所で打って貰ってるのは進藤くんなの?」

「うん。」

「あらいやだ。この人家では何も言わないから。」


別に・・・同じ年頃の棋士は他にもいるし、門下生の人とも進藤と同じくらい
打って貰ってるし。

というか、進藤は、特別なんだ。

特別だってボクの口から言えない程特別なんだ・・・。

だから、彼が実力でそれを証明した時に、紹介するつもりだったんだよお母さん。
「彼が、ボクのライバルです。」と。


「でさぁ、海王の制服、余ってませんか?」


でなければ、こんなにバカっぽい男が碁ではボクに迫る勢いだなんて
碁をしない人には信じられ・・・って進藤何を?!


「制服?」

「うん。オレ、いっぺん海王の制服着てみたいの。」


母はころころと笑って、


「替えの制服があるわよ。アキラさんが少し前までよく着ていたのだから
 心持ち小さめなんだけど進藤くんならぴったりかしら。」


お母さん!乗らないで下さい!






ボクの心の叫びも虚しく、母はいそいそとカバーの掛かった制服を持ってきて
隣室で進藤に嬉しそうに着替えさせた。

何かくすくすと小声で話しながら、母の指が上着の隠しホックを止めていく。
進藤は仁王立ちのまま、顎を上げて何か答えている。

・・・何となく、面白くない。

このホックは、最初難しいんだ。
それは分かるけれど。
今から丁度3年前、届いた中学の制服に初めて袖を通したとき、
今の進藤の場所に立っていたのは、ボクだ。


「はい。出来た。」


最後にポン、と胸を叩く。


「ありがとう。おばさん。」






「似合う?」

「普通。」

「あら。よく似合うわよ。アキラさん以外あまり見たことないから新鮮だわ。」


進藤は調子に乗ってくるりと回る。
家の中の空気が、掻き乱される。

この家は人の出入りが多く、特に固有の家庭の空気というものはない気がしていたが
よく考えればみんな碁打ちで、父の弟子で、雰囲気が似ているかも知れない。

今の進藤の少し違う空気は、例えば婚約した棋士が女性を連れて紹介に来た時の
その女性の違和感にも似ているが、もっと、何か騒がしいと言うかうるさいというか。

進藤一人が家の中にいるだけで、随分・・・賑やかになってしまう。


「ねえ・・・汚さないから、これ着て外に出てもいい?」

「ええ。いいわよ。」

「お母さん!」


ボクは遂に声を出した。

だって人の母親にそんなぞんざいな口をきいて、いきなり面倒な事を頼んで、
勝手に家の中の空気を乱して、その上、まだ。


「あら。もうこれは着る機会ないでしょう?しまうにしろどなたかに差し上げるにしろ、
 もう一度クリーニングに出すんだから。」


そう言われてしまうと・・・返す言葉がなかった。


「やった!塔矢、このまま遊びに行こうぜ。」

「え?」


遊・・・びに?







進藤に・・・碁以外の事に誘われたのは初めてだ。


「おまえ、いつもどんなとこで遊んでんの?」

「碁会所。」

「いやそうじゃなくってさ、学校の友だちとか。」

「・・・さあ。」


学校の友達と遊んだ事は・・・ほとんどないんじゃないだろうか。
帰りはみんな真っ直ぐ家に戻るし、ああ、偶に駅前の本屋に行ったか。
でも、塾に行っているわけではないからその前後に遊ぶわけもないし。


「つまんねー学校。」

「みんな勉強で忙しいんだよ。」

「葉瀬中とは違いますってか?」

「だからそんな事言ってないだろう。」

「まあいいや。じゃあ、着いて来いよ!」


海王の制服を着て、ひらひらと歩くさまは何だか新鮮だった。
こんなに元気な生徒、海王にいたか?






進藤は駅前のイトーヨーカドーに入って行った。
よく前は通るが、意外とほとんど足を踏み入れたことがない。
そしてどことなく雑然とした店内の、さらにその奥にある薄暗い空間に連れ込まれた。


「ここは・・・。」

「ゲーセン。」

「ゲームセンター、か。」

「うん。来たことある?」

「ない。」

「やっぱり。」


別の所で前を通りかかったことはあるが、興味もないし危なそうなので敬遠していた。

実際入ってみるとやはりうるさい場所。
賑やかな音楽がかかっている上に、色んなゲームがそれぞれ音を出していて
その不協和音が頭を掻き乱す。

何種類もの電子音。

何か低い、衝撃音。

モニタから流れる人の声、エンジンのような音。

透明な箱の中に同じぬいぐるみが沢山入っていて、それをクレーンのようなものが
掻き回しているのを乱暴にバンバン叩く音。
あれはガラス板ではなくてアクリル板なのかとぼんやりと思う。

客は若くて・・・そう。海王ではちょっと見ないような、ガラの悪そうな男女が多い。

立っているだけで、頭がくらくらしそうだ。


「進藤。出よう。」

「何で?」

「楽しくない。」


同じ空間に客がばらばらと散らばっていて、それぞれがゲームを楽しんでいて。
それは碁会所と同じなのに、なんと違う、この狂騒。

そう、『狂』。
狂っている。


「そりゃ遊ばなきゃ楽しくないよ。」

「周りが気になる。」

「なんでぇ?」


キミは、こんな場所でも違和感なく、
そんな所が、ボクの家の空気を乱すような気がするんだ。


「堂々としてろよ。」

「ボクが怖じ気づいているように見えるか?」

「いや・・・。」


進藤は何か笑いながら千円札を自動販売機のような物に入れ、
じゃらじゃらと出てきた百円玉をそのままポケットに突っ込んだ。






「あ、またクラッシュ。」

「うるさい!初めてなんだから仕方ないだろう!」


教えて貰ってさっきのアクリル板のゲームや、銃でお化けを撃つゲームをしてみたが、
面白くなかった。

だが、本物の車の運転席のようなシートに座って、アクセルやブレーキを踏む
運転のゲームには、思わず夢中になっている。
とても画面が綺麗で、CGらしいのだが映画のようなのだ。
その景色が自分のハンドル操作によって動くのが、とても楽しい。

それに、勿論実際の運転などしたことあるはずもないが、緒方さんの車で助手席に乗せて貰った時など
実は少しかっこいいと思っていた。
だから車種を選ぶ時、緒方さんの車があったので迷わず選んだ。

もしかしてボクは運転をしてみたいのかも知れない。

初めは事故を起こさないように慎重に運転していたが、それではダメだと言われたので
思い切ってアクセルを踏んだら、ぶつかった。
思わず目をつぶってしまった。

頭上で噴き出す音がして、顔を上に向けると逆さまの進藤が笑っている。
ボクの座っているシートに後ろからもたれ掛かって見ていたらしい。

進藤をこんな形で見上げるのも、その顔がこんなに近くにあるのも初めてで
少し、驚いた。

ボク達は、ライバルなのに。敵対しているはずなのに。


何だか、何だかまるで、仲の良い普通の友だちみたいじゃないか・・・。


その動揺を悟られないようにゆっくりと前に向き直り、黙って千円札を差し出す。
進藤はまたくすくす笑いながら両替に行ってくれた。






何巡目だっただろう。だんだんコースも覚えて、我ながら早くなってきたと思った時だった。


「おい、海王の奴らがいるぜ。」


聞こえよがしの声に振り向くと、そこには別の学校の生徒が2〜3人いて、
ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
みんな制服を着崩していて、嫌な感じだ。

目が合うと、勝手に寄ってきてボクのレースを見る。
ギャラリーには慣れている。ボクは無視して普通通りに走った。
だが


「うわっ!チョーダッセ!」

「さすが海王!」

「ベンキョーしすぎて手が退化してんじゃねーの?」


・・・うるさい。

しかし、ボクはこんな時には無視するしかないのを知っている。
言葉で何を言っても通じない連中だ。
表に出ろなどと言われて金を取られたり、怪我をしたりするのはゴメンだ。


「ちんたら走ってんじゃねーぞ!」

「どんくさマンのくせにいつまでもやってんなっての。」


うるさいっ!!初めてなんだから仕方ないだろう!
・・・と怒鳴ってやりたい。
だが、相手は進藤じゃないんだ。もっとタチが悪い。


「・・・隣が空いてるんだからやりたかったら隣でやれば。」

「はいぃ?!何か言った〜?」


・・・!
ここで、席を立つのが賢明かも知れない。
追いかけて来られても、人通りの多い場所へ逃げればそれ以上手も出して来ないだろう。
だが。
ボクは、それは嫌だった。
どうしても。
このままここで粘っても、相手が折れるとは思えない。
でも。




「・・・何。おまえら、オレ達と遊びたいの?」


その時、進藤が静かに声を出した。
自分が内心かなり沸騰していて、声を出したら怒鳴ってしまいそうだったので、
とても驚いた。

それは相手も同じだったらしい。


「・・・遊んでくれんの?」

「海王だと思ってバカにしてっだろ。ゲームなんかしたことないと思ってるだろ。」

「したことあんのかよ。」

「オレ、これ強いぜ。」

「へえ、勝負すっか?」

「おう。・・・塔矢、どいて。」







そう言えば、進藤はまだこのゲームをしていなかった。

慣れた様子でシートに座り、「車種変えるね。オレ、インプレッサなの。」
目にも留まらない早さで操作していく。


「おっしゃあ!行くぜ!」

「おう!」


始まって暫くしてからやっと、隣の席と連動していて彼らが同じコース上で走っているのだと気付く。

でも、どれが進藤の車か分からない。
どれが相手の車か分からない。

ただ、さっきボクが走った時にはあっという間に去っていった沢山の車がいつまでも周りにいて、
信じがたい事に二人ともどんどんそれを追い抜いていくのだ。

相手の友だちはわいわい騒いでいたが、ボクは進藤の後ろに棒立ちになって、
ただただ呆然と画面を眺めていた。


「くっそー!」

「次、オレっ!」





画面の中から、男の声が英語で『おめでとう』を言う。

結局進藤は、3人ともに勝った。
一人は僅差だったが、それでも、凄い。


「オマエ、すげえなあ!」

「はまったもん〜!いくらつぎ込んだか。」

「うわ〜バカ〜!オマエ、海王の中ではかなりバカだろ。」

「まあな。」


また、そんな嘘を。


「その制服も似合ってねえぞ。」

「やっぱり〜?」


首に手を持って行って少し四苦八苦した後、母が止めたカラーのホックをはずした。
こんな生徒が本当に海王にいると思われたら不名誉だ。

・・・と思うけど、言わないよ。

ボクは碁以外では人と勝負をしたことなんてなくて。
それ以外の勝利を味わったことがない。

碁では負けないけれど、それしかないから、他はきっと何をやっても負ける。
ボクは碁で生きていくんだから、それはそれで全然構わないんだけど。

進藤。
さっきのキミはちょっとかっこよかった。
悔しいけれど。







初めの雰囲気からは信じられないが、結局彼らに手を振って別れ、
店を出たところで、進藤が黙ったままのボクの顔を覗き込んだ。


「どうした?」

「・・・別に。」

「見直した?」


ニッと笑うのに腹が立つ。
ボクがとろくさく走っているのはそれはさぞや可笑しかった事だろうな。


「碁打ちに必要ない能力だろう。その時間を碁の勉強に使ったらどうだ!」


恐らく仏頂面になってしまっているであろうボクの顔を見て、進藤はまた嬉しそうに笑った。
それにまたムッとしたのを見て、更に彼は笑い・・・。


結局ボクも、笑った。
やがて、


「今は碁しか、ないさ。」


前を向いて微笑みながらぽつりと言った進藤の一言に、
ボクは随分救われた気がした。





「あ、そうだ。食料品売場に寄ってくれる?」

「ああ。いいけど、何か買い物?」

「うん。コレのお礼。」


いいよそんなの。


「おばさん、何が好き?」


・・・ああ、母にですか。
この二人は、何故か気が合うような気がする。何故か。


「そうだな。和菓子が割と好きかな。でも安物は分かると思うよ。」

「イトーヨーカドーじゃダメか。」

「母の好きな和菓子屋に付き合うよ。」





「なあ、」

「うん?」

「やっぱ着てみるもんだな。海王の制服。」

「・・・・・・。」

「オレ、あのゲーセンも何回か行ったけど、あんな風に絡まれた事ないぜ。」

「やはりこの制服のせいだろうな。」

「そっか。」


立ち止まって、ショウウィンドウに映った自分の姿を見る。
その隣で、ボクも制服に包まれた自分を見る。

やっぱりキミには少し違和感があるように思う。

キミがボクの家に来た時のように。
ゲームセンターにいる、ボクのように。

それでもそんな事を気にしないキミを、鈍いと人は言うかも知れないけれど
海王の制服を着ていようが何を着ていようがキミはいつもキミで。

ボクは実はキミのそんな所が結構好きかもな。

なんて、ちょっと思った。





「かっこいーデザインだとは思うけど。」

「それはどうも。」


口元だけで笑って。
それは苦笑のようで。


「・・・・・・制服って、ばっかばかしーっ!」


進藤は手を大きく振って、きびすを返した。





「どっちにしろ、もうすぐオサラバだ!」









−了−









※イトーヨーカドー。すみません。どんな場所か知りません。とても関東を感じる言葉。
  最初デパートかと思ったのですが、イセタンと勘違いしてた。
  (イセタンも関東を感じる言葉だったけど、数年前京都に出来たから。)

  てことでダイエーっぽいものを想像させていただきました。
  大きなスーパーで、ゲーセンがあって、中高生が溜まってるような。
  佐為を待っている間、実はゲーセン三昧だったピカ。という設定にしてみた。
  ハルチカさんありがとうございました!

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