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063:伝染 「あ。もしかして二人で泊まるのは初めてか?」 「そだな。」 「怖い?」 「まさか。」 仕事で地方に来て、進藤と同じ部屋になった。 シャワーを浴びた後、寝る段になってこの状況が、進藤にとって気詰まりなものかも知れないと 気が付いた。 半年ほど前、車の中で緒方さんとキスをしている所を見られてから ボクは進藤に自分がゲイであることと緒方さんと付き合っている事を告白していた。 普段そんなことをしない緒方さんが、どうしてあの時に限って、と思ったが、 もしかしてわざとかも知れない。 でもその理由は分からない。 後で進藤に説明すると彼は改めて驚いたが、結局そのまま受け入れてくれた。 代わりに、でもないだろうが自分が付き合っている彼女の事なども話してくれるようになって ボク達はお互いに恋愛相談したりするような仲になっていた。 不思議なものだと思う。 「オマエがオレに興味ないの知ってるし。男なら誰でもいい訳じゃないだろ?」 「勿論。」 進藤は冷蔵庫からビールを一本取りだして、「飲んじゃおうか。」と言った。 未成年なのに、と言い募るボクを無視して、備え付けのコップに注ぐ。 「いいじゃんー。偶にははしゃごうぜ。」 こういう子どもっぽい所が・・・苦手なんだ。同世代の男は。 「そう言えばキミの彼女、大学に入って一ヶ月だな。元気そうか?」 「うん・・・。元気そうだよ。」 「そうか。良かったじゃないか。」 「サークルってのかな。クラブみたいなんに入って、楽しそうだ。」 「ふうん。大学ってそんなのがあるんだ。」 「そう。・・・なんかさ。中卒のオレとは世界が違うってか凄いなーって思う。」 「・・・・・・。」 「でも、彼女は15から働いて自立してるオレの方が凄いって言ってくれる。」 「いい子だな・・・。」 「うん・・・。」 それから何となく会話が途切れて、お互いにビールをぐっと飲み干して、 進藤はボクのコップに注いでくれようとしたが断った。 そうしたら自分のコップだけに注いだ。 内壁に添って浮き上がる泡をしばらく見つめていた進藤が、何故か急に ばたっと布団の上に体を倒す。 「あのさ・・・。」 「何?」 「その・・・したくないっていうのは、心が離れてってる証拠かな・・・。」 「・・・彼女が?」 「うん。デートとかは普通にするけど、いざしようとしたら・・・ちょっと嫌そうだ。」 「・・・・・・。」 「オマエは?どう?」 それは受け身の立場としてどうかと言う意味なんだろうが、 ボクは女性じゃないから、ちょっと違うんじゃないだろうか。 それにボクは緒方さんしか知らないし・・・。 でも・・・・。 「そうだな・・・。そうかも知れない。」 「そっか・・・やっぱりな。」 進藤が天井を見つめる。 その表情はないけれど、先入観からか何となく寂しそうに見えた。 「オレ達・・・もう終わりかな。」 「・・・・・・。」 「もともと腐れ縁みたいな所あったし。」 何と言っていいか分からないし、何かを言っていいのかどうかも分からない。 でも、恋というのは、こんな風に静かに終わるものなのかも知れないと思った。 「・・・オマエは?緒方さんとうまく行ってる?」 「そう、だな。」 「いいな。オレも・・・今度は包容力のある年上の人がいいかな。 男ってのもいいかもな。ややこしくなくて。」 ははは、と乾いた声で笑う。 そうでもないよ・・・年上だと、いいようにあしらわれてるような気がする時もあるし。 そんなもんかな・・・でもそれ、緒方さんだからじゃない? そうかも。 オマエも大変だ。 まあね。女の子がいいと思う時もある。・・・同い年とか。 オレとか? うーん。それはどうだろう。 巫山戯合って。 笑い合って。 やがて進藤が、顔を近づけてきた。 「どうした?」 「何が。」 「何か、あった?」 ボクが、進藤に何かあったんじゃないかと何となく思ったように、 こんな風に自分では表面に出していないつもりの小さな変化をすぐに察してしまうのは 良い友だちと言えるんだろうか。どうなんだろうか。 「・・・この間・・・嫌だって言ってるのに、無理にされた。」 「・・・・・・。」 「キミは、そんな事してないだろうな。」 「しないよオレは。無理矢理なんて。」 「ならいいけど・・・。結構傷つくんだよ。」 今度はボクが横たわり、天井を見つめて表情を消す。 進藤はそのない表情に、一体何を見るだろう。 「ボク達も・・・もう終わりかも。」 「・・・・・・。」 「もともと腐れ縁みたいな所もあったしね。」 「・・・いつから、だっけ。」 「13でキスをして、15で・・・初めて抱かれたよ。」 「ふうん・・・大事にされてたんじゃん。」 「・・・そうだね。」 圧倒的な強さに、大人の男の手管に、煙草の香りに、 溺れていた。 恋をしていた。 でも。 もう。 「塔矢・・・。」 「・・・ん。」 「しようか。」 「・・・・・・うん。」 何となく、それは流れで。 自分が何かに身を任せるような仕草で、進藤がボクの隣に横たわる。 軽く口づけてから 「・・・男の唇って、もっと固いような気がしてた。」 と言った。 「これって、浮気になるかな。」 「なるだろうね。」 それでも進藤の手は止まらない。 「緒方さんに知られたら、怒られる?」 「それは・・・。」 怒られる、かも知れない。 でも怒りもせずあっさりと捨てられるかも知れない。 「彼女に知れたら。」 「ん〜、わかんない。ソッコー別れられるかも知んないし、逆にしがみつかれるかも。」 でも、どちらにしても、遅かれ早かれ。 進藤の舌を受け入れながら、 恋というのは、こんな風に静かに終わるものなのかも知れない、ともう一度思った。 もしかしたら。 同じくこんな風に静かに始まるものなのかも、知れない。 けれどそれは今の所、分からない。 −了− ※最近「どっちかがノーマル」萌え。 失恋の伝染なんてやだなぁ。 |
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