062:オレンジ色の猫(旧)
062:オレンジ色の猫(旧)











永夏と帰る途中、黒猫に前を横切られた。


「あ、まずい、縁起悪いな。」

「永夏はそんなこと気にするの?」

「いや全然。」


永夏の言うことには脈絡がない。
同じ口から出た言葉とは思えないほど矛盾していても、それに対する説明がない。

そういう瞬間に初めは戸惑い、次第に子どもっぽい、と思うようになったが
だんだん慣れてきてしまった。

まともに相手にしていても会話にならない。


「あのさ、秀英は黒と白とどっちが好きだ?」


ほらまた話が飛んだ。
もう別にいいけど。


「どちらでも同じだろ。」

「同じってことあるか。黒と白だぜ?正反対だぜ?」

「そりゃあ相手に依る、かな。」

「だから石の話じゃなくて。」

「?」

「例えば黒い猫と白い猫とどっちが好き、って話。」


永夏の質問には大概意味がない。
過去の経験からすると、ボクが何と答えても建設的で役に立つ結論が導き出された試しがない。

どうせ、「ああオレも。」とか「そう?オレはこっちの方が好き。」
で、会話が終わるのだ。
それがどうしたのか、その結論は、と待ってもそれ以上の展開は望めない。
最近は諦めた。
永夏には実のある話は望めない。


「・・・・・・永夏、鄭小平って知ってるか?」

「誰、ソレ。」

「中国の元主席で、文化大革命の・・・。」

「あー全然知らない。」


おまけに永夏は人の話を聞かない。
彼がまともに話をしないから、こちらが少しは役に立ちそうな話をしようとしても
興味がなければ聞く耳を持たない。


「じゃあ、彼の有名な言葉も知らないんだろうな。」

「うん。」


聞く前から。というか聞く気なし。


「『黒くても白くても鼠を捕りさえすれば良い猫だ。』と言うものだ。」

「ふーん。というか、それってどういう意味だ?」


確か中国の経済立て直し政策の折りに、とにかく生産力を上げさえすれば手段を選ぶ必要はない、
という意味で言ったと思う。
彼の清濁併せ飲むというか、大胆かつ合理的で、ある意味シビアな考え方がボクは嫌いではない。
どんな手を使おうがとにかく勝てばいい、とも言えると思うのだ。

ということを、永夏のような脳天気男にどうすれば上手く説明できるか、と考えている内に


「まあとにかくその人も猫好きなんだろうな。」

「え?」


鄭小平が猫好きかどうかなんて考えたことない。
いやむしろ猫好きであったらこういう例えは出てこないんじゃ。


「で、オマエも黒猫でも白猫でもどっちも好きなんだ。」

「え・・・・・・。」


またしても間抜けな返事しか出来ない自分が情けない。
どうしてボクが一生懸命考えている間に、そう、ぶっ飛んだ結論を出すんだ。
全然そういう話じゃないだろ。
ボクは猫の話をしたかったんじゃなくて・・・・・・。





「オレも、そうだよ!」





幸せそうに目を細めて、大きく伸びをする永夏。

・・・まあ、いいか。

ひとたび石を持てば、獅子と恐れられる彼が
その時大きなオレンジ色の猫のように見えたから。






−了−








※本格的なアホ永夏に挑戦。
  ヨンスヨ・・・というかスヨヨン?
  ワイの彼女アホやねん、でも可愛いからええねん的な。
  ってかなんやねんこのオチ。
  あ、「鄭」の扁は実は「登」。字が出なかった。スミマセン。
  
 


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