060:轍
060:轍









その日オレはどうかしていた。
塔矢に、しなくてもいい話をしてしまった・・・。




「とても大事な奴がいなくなったんだ。」

「・・・もしかして、亡くなったのか。」

「いや、そういうんじゃねえけど、消えたんだ。」

「行方不明?」

「ん〜・・・多分、もうこの世にはいない。」

「・・・・・・・・・。」



唇に拳を当てて、困ったように何か考えている。
そりゃ困るよな。
全部話せる訳じゃないのに、中途半端な事をしてしまった。
もう、この話は終わり終わり。



「ごめんな。急に変な話して。」

「いや、そうじゃなくて、君は本当にその人のことが大事だったのか?」



何言うんだよ。そりゃあ大事だったさ。
アイツがいなければ碁と出会ってないし、お前にも。
ってかさ、もうやめようぜ。この話。



「ああ。お前と同じくらい。いや、当時はお前よりずっと。」

「・・・・・・・。」

「妬いた?」

「まさか!そうじゃなくて・・・その人の年を聞いていいか。」

「ダメ。」

「もし子どもで、誘拐されたんだったら大変だろう?」

「はははっ。それはないわ。」

「大人でも、その、どこかの国に拉致されたとか。」

「それもない。」



面白い事言うよな。
アイツが、どっかででスパイ教育とかされてみたりして、



「なぜだ!!」

「?何だよ急に。」

「何故、何故そんなに簡単に諦めるんだ!」

「いや、だって・・・。」

「だってじゃ、ないだろう?本当に大事な人なら、
 目の前に死体があっても信じたくないものだろう?
 少しでも生きている可能性があるなら、諦めるなよ!」

「・・・・・・。」

「その人は、きっと生きてる。生きてて、また会える。」



いや、最初から死んでるからそれはあり得ないんだけどね。
でもお前・・・、ちょっと変だけどいい奴だ。



「そう、だよな。きっと生きてるよな。」

「ああ。いつか会える。探す努力はしてるのか?」

「したけどね。」

「するんだ!最後に会った場所は?」


そんな、怒るなよ〜。


「オレの部屋。」

「・・・・・・そうか。」


ああ。そんなにそんなに、傷ついた顔するなよ・・・。
アイツとはそんなんじゃねーんだからさ。

・・・・・・。





「ゴメン、塔矢。ウソついた。」

「?」

「本当は、とっくに見つかってるんだ。」



オレの碁の中に。

オマエの、中に。

今生きている、全ての碁打ちの中に。


アイツのつけた轍を、オレ達みんな辿ってる。

そしていつか新しい轍をつける。
きっとそれをアイツも見てる。







「大好きだよ。塔矢。」

「どうしたんだ?急に。」






−了−








※ヒカル、うっかり口を滑らせる。でした。





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