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049:竜の牙 今年も北斗杯の合宿をしようと社が言ってきた。 相変わらず進藤とボクの不仲は棋院で噂になっていたが、関西棋院までは行っていないのだろう。 いや、もしかしたら知っていて仲を取り持とうなどと詰まらない事を考えているのかも知れない。 「進藤にも電話したねんけど、あんま乗り気やないみたいやったな。」 「そう。」 「まさか今の時期、他の大きい手合い入ってへんやろ?」 「と思うけど。」 「まあ別に嫌とも言うてへんかったからしょうか。んで、悪いねんけど・・・。」 「ああいいよ。今年も両親はいないし、ボクの家を使おう。」 進藤は相変わらずボクを無視していた。 相変わらずボクを見なかったし、ボクの存在を認めていないフリをしているから 同じ部屋に入ったりする事を敢えて拒否する事もなかった。 しかし・・・。 微妙に、以前と違うのが分かる。 ぴりぴりと、肌でボクを意識している。 背を向けていてもボクを見ている。 それは恐らくボクの手の中に放ってしまった時から。 不仲と噂されるようになってから二度進藤の家に行ったが、 二度目も同じように無視され、同じように射精させた。 反応しないように努力はしているようだったがやはり彼は勃起し、震え、 せめてボクを押し戻さないように手を握りしめていたが、最後の瞬間喉を仰け反らせて ボクの肩を掴んだ。 その時、悔し涙を滲ませた目で、非常に久しぶりにボクを凝視したのだ。 それ以来だ。 あの目が、ボクを見ていなくても、見ている。 ボクは、嗤う。 「邪魔すんでぇ。」 「ああ、いらっしゃい。今年は迷わなかったようだね。」 「オレが道覚えとったからな。」 社の後ろから進藤が入ってきた。 だが何も言わなかった。 何度か対局して遅い夕食の後、進藤が風呂に行くのを見送ってから、社が言う。 「・・・おい。オマエらが喧嘩しとるってホンマやったんか?」 「喧嘩なんてしてないよ。」 「そやかて、今日検討以外ひとっこともしゃべってへんやんけ。何あったん?」 「何も。」 色々な人と何度この会話を繰り返したことだろう。 しかし、二人きりの時や大勢でいる時と違って、今回は進藤にとって辛いものになった。 何せここはボクの家だし、何度となく碁を打っている。 どうしても必要な会話というのは発生するが、それは社を経由するような、妙な形になっていた。 社には迷惑を掛けていると思う。 でも、ボクにはどうしようもない。 彼はまだ何か言い足りないようだったが、結局口をつぐんだ。 夜部屋に引き上げてから、その社がやってきた。 「何だい?もう寝るんだけど。」 「ああ悪いな。折角客間に布団敷いてもうたけど、茶の間で寝かして貰おと思て。」 「どうした?」 「進藤と一緒に寝たない。」 「何故。」 「・・・・・・あんな、自分ら怖いわ。明日に備えてリラックスしたいねん。」 「・・・そうか。でも茶の間は狭いだろう。ここでもいいけど。」 「あかん。どっちかと寝たら角立ちそうやし。」 既に社は気を使うことも、ボク達を仲直りさせようと努力することもやめていた。 「ガキやあるまいし。」 ただ舌打ちをする。 「それは進藤に言ってくれ。ボクの方には何もない。」 「まあな。それはそうみたいやけど。」 ええけど。二人とも碁は去年より強なっとるし。 それはキミもそうだな。 ああ、そやから今年はオマエらに追いつけたと思とったねんけどな。 そう簡単には捕まらないよ。 言うなぁ! 和やかに会話を交わすと、社はホッとしたように笑った。 進藤がいるとピリピリしていたから、社と笑い合うと、ボクもやはり落ち着く。 何となく・・・「ほな、」と去ろうとする社を、引き留めた。 「あの。」 「何や?」 「唐突だが・・・・キミは男に触られたりキスされたりしたらどう思う?」 「どうって・・・ホンマ急に何やねん。」 「いや・・・。」 「相手によるわ。何。オマエ誰かに迫られたん?」 「え、いやそんな、」 「わからんでもないけどな。キレイな顔しとるし。」 「キレイ・・・か?」 「言われた事ないか?」 「ないね。小さい頃はよく可愛いと言われたけれど、父の子だからお世辞だと。」 「可愛げないガキやなあ。・・・まあ気ぃつけえや。今でも多分男好きのする顔や。」 「男好きって・・・。じゃあ例えばボクにキスされたらどう思う?」 「ええっ!?オマエか?そら・・・びっくりするわな。」 「それで?」 「いやそんなんその場になってみな分からへんけど。」 分からないのなら、と。 背の高い社の首に手を回して伸び上がり、軽くキスをした。 顔を離すと社は目を見開いていた。 「・・・どう?」 「・・・いやあ・・・何とも。」 「いやだった?」 「・・・って、意外と気ぃ悪いとかとはちゃうな。これが進藤やったらオエーって感じやけど。」 「そうなんだ?」 「ああ。別に進藤嫌いちゃうねんで。ただなぁ、キャラが。」 「進藤は『キレイ』じゃないんだ。」 「アイツは普通のガキや。」 きっぱりと言う。 「普通・・・。」 「まあ人によってはかっこええとか可愛いとか言うかも知れんけどな。 年上の女とかにモテそうや。」 「社は?」 「あのな、男は顔やない。」 「でもモテそうだけど。」 「うん。モテる。」 臆面もなく頷く。 でも、多分そうだと思う。 本人は恐らく謙遜しているんだろうが、客観的に見ても男前の部類に入るんじゃないだろうか。 それに、棋力はまだ劣っていても、人間として進藤にもボクにもないものがある。 それは優しさ、とか配慮、・・・と言う物なのかも知れない。 羨ましい。 「・・・何。オマエオレに気ぃあるん?」 「いや。」 「せやったらそんな目ぇせん方がええ。誤解されるで。」 「目・・・。」 「ああそれと、あんま見境のうさっきみたいな真似せんどきや。 いくらキレイでも男の大半はオレみたいに大人しゅうしてへんで。気色悪がられるだけや。」 「嫌がられるかな。やはり。」 「当たり前や。下手したらしばかれるわ。」 「でも社は動かなかったじゃないか。」 「それは、びびったっちゅうのもあるけど・・・ホンマに嫌やった訳やないからやろな。」 「嫌だったら、『しばく』、か。」 「ああ。そやしさすがにあれ以上の事しとったらどついたで。」 なるほど、と頷くと、社は「けったいな奴やなぁ。」と苦笑して、去っていった。 それを見送ってからボクは客間に向かった。 障子をす、と開けると、闇の中に一組の布団が見えた。 「やし・・・、」 小さな声で言いかけた進藤が、慌てて目を閉じて寝ているフリをする。 みし、畳の音をさせて、ボクは背後で障子を閉めた。 静かな、閉じられた空間。 進藤が異常に緊張しているのが分かる。 寝返りを打って背を向けたいけれど、そんなことをしたらいかにも不自然ではないか。 どうしてこんなに息苦しいんだ。 呼吸ってこんなんだっけ。寝息ってどんなんだっけ。 考えている事まで手に取る事が出来るようだ。 言葉がない分、最近は進藤の微妙な変化に敏感だ。 ほとんど分子レベルではないかと思える程の差で、その心が読みとれる。 唯一の例外は、対局している時だけ。 「・・・社じゃなくて悪かったね。」 たっぷりと沈黙を楽しんだ後漸く声を掛けると、随分大きく聞こえて進藤もピクリと震えた。 「社がいなくて寂しい?」 またミシ、と音をさせながら布団に近づき、その横で止まる。 自分のパジャマのボタンに手を掛け、ゆっくりと、外す。 目を閉じたままの進藤の、頭にクエスチョンマークが見えるようだ。 やがて、ぱさりと上着を落とすと、察したのだろう。 進藤の周りの空気がビンッと張りつめた。 ボクは全裸になり、静かに進藤の布団を捲り上げた。 ああ、今、何故最初から布団を掴んでいなかったのかと後悔してるね? 無駄だよ。そんなの。 進藤の隣に体を横たえ、その胸に耳を付ける。 「凄くどきどきしてるね。何を期待してるの?」 鼓動が一層高まった。 もうそろそろ進藤も我慢の限界に来ているのではないかと思う。 ボクをはっきり拒絶するなり、ののしるなり・・・、受け入れるなり。 どこかでガスを抜かないと明日からの連戦に差し支えはしないか・・・。 するするとTシャツの中に掌を滑らせる。 本当に嫌なら、早く拒否しろよ。 ズボンに手を掛けても腰を浮かしそうにないので、力任せに一気に引いた。 「・・・ッ!」 声なき声。 そのまま足首を通して下半身を裸にする。 Tシャツを脱がせるのはさすがに無理か。 出来るだけ捲り上げて顔を近づける。 乳首を舐めていると固くなってきて、その小さな小さなしこりにボクの舌は執着した。 やがて顔を上げると・・・。 進藤が暗闇の中でぽっかりと目を見開いて天井を見つめていた。 その真上に顔を持っていくと、目が合って。 進藤と、目が合って。 それでもボクの頭で障子越しの月明かりからも影になって、 その目は真っ黒な穴のようで。 時間にしてどの位だったろう。 数分?数十秒? 酷く長く感じられた時間の後、不意に進藤がボクの腕を掴んだ。 その反応に驚く暇もなく、ボクを引き倒して自分が馬乗りになる。 「塔矢。」 進藤が、ボクの、ボクの名前を呼んで。 「そんなことしてっと、犯すぜ?」 ボクの目を見て、ボクに、話しかけて。 あまりの懐かしさというか、感慨に、ボクは感動に近いものを覚えた。 「進藤・・・ボクは、キレイか?」 「はあ?何言ってんの?オマエは汚いよ。」 罵る声も懐かしく。 「自分の欲の為にオレから佐為を、佐為の思い出を奪って。」 吐き捨てるように言いながら、Tシャツを脱ぎ捨てる。 ああ・・・ボクは、キミから、『sai』さんを。 『sai』さんからキミを、奪うことが、出来たんだ・・・。 進藤の肌に押さえつけられて、勃起したモノを押しつけられて。 肩口に噛みつかれて・・・ ・・・ぼんやりと、明日きっと進藤は勝つと思った。 そしてボクは、人間の目をしていない何かの牙に、引き裂かれ。 暗転。 翌朝、進藤がごそごそと服を着ている音で目が覚めた。 廊下を足音が近づいてくる。 「おい、進藤。開けるでぇ。」 部屋の中の気配が慌ただしく動いて、勢いよくファスナーを締める音。 から。すー・・・。 「塔矢部屋におらんねんけど、」 言葉の途中で固まった社を突き飛ばすように、進藤が飛び出していった。 「おい!」 進藤に呼びかけて、追おうかどうしようか迷ってから、やはりボクに向き直る。 「おい、塔矢・・・。」 「・・・おはよう。」 「・・・・・・・・・進藤に、何かされたんか・・・?」 「見ての通りだ。」 何とも言えない表情をする。 キミがそんな顔をすることはない。 「ちょう待っとれ。」 一旦立ち去って、しばらくしてから濡れタオルと救急箱を持って戻ってきた。 ボクはその間、裸で横たわったまま庭の紫陽花のつぼみを見つめていた。 「悪い。・・・進藤、荷物持って出てったみたいやな。」 「そう。スーツは持って来てないみたいだったからね。」 「・・・アイツ、会場に来るやろか。」 「来るさ。」 進藤は絶対に、来る。 ボクに会う気まずさや後ろめたさなんか彼の碁に対する執着には勝てるはずがない。 彼はそれだけの強さと、弱さを持った人間だ。 「・・・起きれるか?」 「ああ。」 それでも社に助けられてゆっくりと身を起こす。 自分の胸にボクを寄りかからせて、丁寧に体を拭いてくれた。 そして再び横たえて、うつ伏せにし、消毒薬と軟膏を取りだして 「・・・触ってええ?」 「ああ・・・済まない。」 そっと、手当をしてくれた。 「っつ!」 「・・・自分こんなんで今日対局出来るんか?」 「・・・大丈夫だよ。ただ座っているだけなら。」 「いや体もやけど。」 「ああ、精神は・・・絶好調だよ。」 社は少し目を眇めて、訝しむようにボクを見ていたが、やがて眉を開いて 「さよか。ほんならええ。」 とあっさりと引き下がる。 こんな時、何も余計な事を訊かず、言いもしないのは、とても格好いいと思った。 鎮痛剤を飲んだ後、社に助けられて着替えたりしている間にだいぶ痛みは引いた。 肩を貸されて歩くと、酔っぱらいか傷痍兵のようだと自分で思う。 違いない。 でも。 これからが、ボクらの本当の戦場だ。 −了− ※一応落としたつもり。間が空きすぎてキャラ変わってるかも。 社男前計画。 でもこの場合地の文で男前とか格好いいとか言うのは反則気味。 |
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またしても
charcoalのkai さんに頂戴しました! 如何ですか! 「男前の社、精神なら調子がよいアキラ、竜の牙を持ってるヒカル。」 きゃああ!もう、ラストシーン、思い描いていたのそのまんまです! 彼ら、「事後」でっせ! 社の手が、しっかりアキラさんを支えていますv 物凄い具現化能力! 薄っぺらだったキャラが、一気に血肉を持ちましたね。 萌え萌えです。萌え萌えです! 嬉しいです!本当にありがとうございましたv |
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