040:小指の爪
040:小指の爪










北斗杯の夜、塔矢の部屋に呼び出されて「こんな時にまでかよ」と思いながらも
お互い下半身がすっきりすれば頭もスッキリ、明日は良い対局が出来・・・

るかと思いながらTシャツトランクスでバスルームから出ると、


塔矢と高永夏が抱き合ってキスをしていた。





・・・・・・頭が真っ白。




てゆうか、何で?

オレのこと骨の髄まで好きだと、殺したい程愛していると、言ったその口が何故
他の男の口をふさいでるの?

言葉が出ない。動けない。
そんなオレに気付いてこちらを向こうとした永夏の顔を無理矢理自分に向けて、また口づけをする。


・・・ええっと、ええっと、

確かにオレを呼び出したのは塔矢だ。
高永夏が来るなんて全然言ってなかったし、二股かけてるような様子もなかったし、
そもそも対局相手として以外高永夏の話が出たこともなかった。

こんな時、どうしたらいいんだろう。
塔矢と高永夏が近づいてくる。

でも
「和谷に色目を使うな」と言った時、そういえば塔矢は嬉しそうな顔をしていた。
オレに嫉妬させたくてこんな事をしているとすれば

これは塔矢の策略だ。

「オレの塔矢に手を出すな!」なんて言ったら、アイツの思うツボ、喜ばせるだけだ。
ここはクールに「何してんの?」「お邪魔みたいだから帰るよ。」と言って
去るのが最善の一手・・・・・・。





と気付いたときには、オレのパンチは永夏の腹にめりこんでいた。
永夏は「グッ」と変な音を出して膝をつく。

自分が肩で息をしているのを客観的に眺め、ああ、塔矢と永夏が近づいて来たんじゃなくて
オレが走って来たんだな、と理解した。

塔矢を見ると、さすがに呆然とした顔をしている。
オレが何でもテメエの思うとおりになると思ったら大間違い、と言おうとしたら

永夏に足払いを食わされた。

一旦尻餅をついて、慌てて立ち上がった顎に、拳がヒットする。
脳が揺れて一瞬気持ち良い程に意識が飛び、口の中切れたかも、なんてどうでもいい事
考えてたら、肩に勢いよくカーペットがぶち当たってバウンドした。

間をおかずTシャツを掴んで引っ張り上げられそうになる。
また殴られる・・・!
逃れるために本能的に脱ぎ捨てようと片袖と首を抜いた所で引き倒された。
馬乗りになられて、どっちが上か分からない、
混乱している間に、まだ引き抜いていない片袖のままに両手を縛られた。


万事休す。


このシャツ、もー伸びちゃって着られねえだろうなー。
まだ、頭がふらふらする。少し吐き気もする。
考えることが出来なくて抵抗する気力も失せて、両手を拘束されたままゴロンと転がり、
もうどうにでもしてくれ、と力を抜く。


「○○○、○○○○○○○○!」

「○○○○○○○。」


上で、永夏と塔矢が何か言い争っている。
全然意味わかんねーけど、塔矢が狼狽えていて永夏が怒っているのは分かる。
オマエも塔矢にはめられたんだよ、バーカ。


「○○○進藤○、○○○○○○○○○○○○○。」


名前を呼ばれて上を向くと、逆光の永夏がこちらを見て何か、

言っているその、唇。



膝で起きあがって体当たりを食らわせようとしたら、足で蹴られてまた転がされた。
畜生テメエ、何で塔矢とキスなんかすんだよ!
塔矢はオレのもんなんだよ!


「○○○○、○○○○○○。」

「○○○○○。」

「○○、○○○○○○○○○、○○○○○○○○○・・・。」


また二人は訳わかんない言葉でしゃべってる。
くっそおー!ムカつく!





長い間韓国語の応酬が続き、やがて興奮の収まったらしい永夏は、
乱暴にオレの腕を掴んで立ち上がらせた。
痛てえって!肩外れるだろ!

そのまま引っ立てられる、って感じで数歩歩かされ、向かい合わされた時、
その唇にやな笑みが浮かんでいたような気がする。

そのままドン、と肩を押され、また転がされるのかと縛られた手で頭をガードしたが、
意外に早く背中が柔らかい物に受け止められた。

ぽふっ・・・って、これベッドか。
下半身は椅子に座ってるような状態で、裸足の足はまだ絨毯を踏んでいる。
頭の上に手を伸ばすと、またベッドの角がある。
ああ幅の狭い方向に寝かされてるんだな、と分かった途端、
オレの腿を押さえるように膝をついた永夏が、のしかかるようにして手も押さえ込んだ。

リーチ長ーい。
・・・じゃなくて、じゃなくて、これってヤバくね?!


「○○○○○。」

「○○○、○○○。」

「おい塔矢!これどういうことだよ!」

「○○、○○○○○○○○○○○、○○○。」

「おいって!」


頭の上で永夏に押さえられていた手に力が加わる。
そして、その手が離れたときには、

別の手に押さえられていた。


「塔矢!」


首を仰け反らせて上を見ると、そこには逆さまの、塔矢の顔があった。


「冗談は止めろ!おい!ふざけるなよ!説明しろよっ!」


喚くオレは、怒りで気が狂いそうになりながらも、少し泣きそうだったかも知れない。

全然訳わかんない。
今日も塔矢といつも通りイッパツやって、速攻部屋に帰って寝るつもりだった。
なのにそこに永夏が入ってきて、
殴りたくもないのに殴って、
殴られたくもないのに殴られて、
上半身裸でベッドに縫い止められている。

その片棒を担いでいるのは、塔矢だ。


「おい!テメエ、離しやがれ!」

「○○○○○。」

「○○、○○○○○○○。」


もう一度塔矢に向かって何か言おうと頭を反らせると、その首の後ろに湿けたタオルが通される。
多分さっきまでもオレの首に掛かっていたものだ。
開いた口の上を通過させ、慌てて歯を閉じようとしたが、もう石鹸の匂いがギシリというばかり。
永夏の手はそれを顔の横で手早く乱暴に縛る。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「○○○、○○○○○○○。」

「○○。」


猿轡。
今まで怒りと混乱しかなかった頭に、
やっとじわりと恐怖が押し寄せる。

今まで半分以上冗談だと思っていた。
オレが泣くか、それとも懇願すれば離してくれると思っていた。
だから意地でも「助けてくれ」なんて言うものか、と思っていた。
言わなくてもオレが意地を見せれば、いずれ諦めて離してくれると思ってた。
思ってた。

でも、もう、言いたくても、言えない。





足でオレの腿を押さえながら馬乗りになった永夏が、両脇に手を突いて、顔を近づけてくる。
ニヤリ。
いやな、笑いだ。
膝から下はなんとか動くが、どうしようもない。
バタバタしたらベッド下の枠にふくらはぎが当たって自分が痛かった。

そのまま永夏は上を向き、塔矢とまた何かやりとりをしている。
顔の真上で喉仏が上下するのをぼんやりと見ていると、また恐怖が湧き上がって来そうになって
思わず目を逸らす。

抵抗が(しても僅かだが)止んだのを見ると、永夏は上半身を起こして、
オレの目を見つめながら、ゆっくりと自分のワイシャツのボタンを外し始めた。
ウソだろ。
冗談だろ。
冗談だと言ってくれ。

・・・永夏、やめろ、オマエも塔矢に操られてるんだよ!

通じろ!分かってくれ!



だがオレの願いも虚しく、永夏はシャツを脱ぎ終わって隣のベッドに放り投げる。
そしてベルトに手を。
カチャカチャ言う音が、夢のようだ。
いつもオレが外していた。
自分のも。
塔矢のも。
これから起こることに対する、期待と、倦怠をもたらす音。

スラックスも隣に投げた永夏が、また何か言いながら、オレのトランクスの前を鷲掴みにする。


「○○、○○○○○○○。」

「○○、○○○○○○○○○○○○○。」


永夏が低く笑った。
多分、オレが少し勃起してるからだ。
オマエに勃ってんじゃねーよ!塔矢を思いだし・・・。

てか、オレの肘を押さえてるのって塔矢だよな?
永夏に答えた塔矢の声音は冷静すぎるくらい、冷静だった。
でも、この肘を押さえている手は冷たくなり、少し・・・震えている。

もしかして、本当は塔矢も望んではいないのか・・・?

この手が自由になりさえすれば、一対一でも永夏なんかに負けない。
塔矢が、こっそりこの手首のシャツを解いてくれたら。

顔を上に向けてもそこに塔矢はいない。
背を仰け反らせてもっと上を見ると、膝をついてるんだろう、塔矢の顔は低い位置にあった。

ベッドから浮いた背に永夏の腕が回り、胴を抱きかかえるようにしていきなり乳首を舐められた。
意思と関係なくゾクっとした感覚が走るが、今はそんなことに構っていられない。

逆さまの塔矢に、目で訴える。
今なら許してやるから、オレに協力しろ。
永夏がオレのカラダに気を取られている間に、手枷をはずしてくれ。


今の間に・・・・・・!


トランクスのゴムの間から、骨張った大きな手が滑り込んでくる。
オレは対局者の顔は忘れても、手は忘れない。
目を閉じても思い浮かぶ、石を持つ、白くて長い、黒子の一つある手。

それが今オレの。
マジかよコイツ!

塔矢、塔矢、早く!タスケテ!
小さな呻き声ばかりが喉の奥から漏れる。
せめて口が利けたら。


「○○○、○○○○○○。」

「○○、○○○○○○○○○○○。」


あー、テメエらナニしゃべってんだよ!






オレが塔矢に必死で目で訴えかけている間に、永夏はオレのトランクスを下ろした。
ぶるん、と震えて、永夏と塔矢の目にオレのモノが晒される。

恥ずかしい、という以上に、屈辱と憎しみが燃えたぎり、オレを熱くする。
オマエら、ぜってー許さねえ!


「○○○○○○、○○○○。」

「○○○。」


永夏が何か言いながらオレの足の間に体をねじ込み、片足を持ち上げる。
この時ばかりは思いきりバタバタしたが、軽く肩に担がれた。
こうなるともうどうしようもなくて、ただ体を撓められる痛みに耐えるだけ。


「○○○、○○○○○○。」


塔矢の声、韓国語しゃべってたら別人みたいだ。
永夏が微かに息を吐いて、オレの尻をまさぐり始める。

もう、ダメなのか、オレ。

永夏の長い指がオレの穴を探り当て、思わず目を閉じたら天からタラタラとローションが降ってきた。





指は長いことオレの中で動き回っていた。
お陰で初めてなのにすっかりほぐれて、時折訪れる酷い快感に我を忘れそうになる。

でもオレは忘れねえ。

時折足される潤滑油に、くちゃくちゃと嫌らしい音がする。
永夏の片手は肩に担いだオレの足を支え、片手の指はオレの中に入っている。

ということは、ローションを足しているのは。

また永夏に感じる所を攻められ、自分の物でないようなくぐもった呻き声が、聞こえる。
薄目を開けると永夏がオレを見て


「○○○○○?」


上がった語尾。なんてってんだろ。
「気持ちイイ?」それとも「入れて欲しい?」

指が抜かれて、代わりに熱くて太い物が当てられる。

例え言葉が分かったとしてもオレの答えは一つしかない。
精一杯の抵抗と拒否を込めて、思いきり睨み付けた。




永夏は声を立てて、嗤った。








悪夢のような時間。

初めは足で蹴ろうとしたが、足に力を入れると痛いことが分かり、
オレは死体のようにだらりとぶら下がったまま揺れている。

ただ絶え間なく喉の奥から悲鳴と、嗚咽が漏れる。

そして痛くて悔しくて、涙が溢れる。

突かれる度に擦れる背中も
痛い。

強姦される女の子さながらに縛られた手を押さえつけられ
ケダモノじみた男に限界まで足を開かされている。
男が入ってくる度に、気持ちが悪くて鼻から息が漏れるが、
きっとヨガってるようにも聞こえるだろう。

でもどうしようもない。

長い時間の間に、永夏は2、3度動きを止めた。
オレの中にじわりと熱が広がったが、抜かずにそのまま犯し続けた。



もし猿轡がなかったら。
オレに口が利けたら。

きっと恥も外聞もかなぐりすてて、泣き喚いてしまうだろう。

痛い!と

助けてくれ!と

・・・オレもイかせてくれ!・・・と。


今だけは噛み締めているタオルに感謝したい気持ちだ。




「○○、○、○○○、○○○・・・。」

「○○○○、○○○○○○。」


また・・・会話。
そして永夏が、オレの足から手を離し、両手でオレの腰を引き寄せた。
そのまま更に深く、深く。

それはいつもオレが塔矢にするように。

しなやかな筋肉、暖かい感触。
意識が朦朧とする。

今は北斗杯だ、
オレを犯しているのは敵方の高永夏だ、
その共犯者は味方のはずの塔矢アキラだ、
オレは男だ、
忘れちゃいけない、忘れちゃいけない。感じちゃ、いけない、

意識が朦朧と。

オレの心の中の鎧までもが体の中心の熱にどろりと溶け、
原始の快楽を追い求める爬虫類の脳だけが剥き出しになる。


オレは泣きながら足を絡め、一際高い悲鳴を上げて、永夏の腹に向かって、達した。







目が覚めると口が楽だった。
顎が疲れているが、猿轡は外されている。
自分の唾液が乾いて頬がパリパリする。

前に引っ張られると思ったら、塔矢が一生懸命手を縛っているシャツを解こうとしていた。

高永夏の気配はもうない。

そのままぼうっと自分の手先を見ていると、そこに絡まる指の一本の爪が割れて
少し血が出ているのが見えた。


「・・・塔矢。」

「ああ、もうちょっと待ってくれ。」


この声はずっと頭の上でしていたのに、久しぶりに聞いたような気がする。
黙って言うとおりにしていると、やがて結び目が外れて手首が自由になった。
ああ、苦しかった。
冷たくなった指先を摺り合わせる。


「大丈夫?可哀想に。痛い?」

「塔矢、オマエ・・・。」


少しづつ甦ってくる屈辱、そして怒り。


「ああ、これ?さっき結び目を解こうとしたら、固くて割れてしまったんだ。」


オレの気持ちとは対照的に、無邪気そうに小指の爪をちろりと舐める。
他の4本は怪我出来ないからって、何も一番弱い指を使わなくても。
思わず怒りの矛先が逸らされそうになる。
けど。


「オマエ、オレをはめたな?」

「え?」


きょとんとした顔で見返す。
けどオレは騙されない。


「オマエ、高永夏にオレをヤらせたな?」

「そんな・・・彼がキミに殴られたのに怒って・・・逆らえなかったんだ。」


そんなタマじゃねえだろ!
でも、少し心に迷いが生じる。
オレの肘を押さえていた手の冷たさ・・・。


「手の縛めも簡単に外せそうになかったし。」

「だとしても、オマエアイツに協力しすぎだったぜ。」

「協力なんて・・・。」

「それにオレが好きだってんだったら、なんでヤられてんの黙って見てんだよ!」

「何度も止めろって言ったよ。」

「分かるもんか!」


オレを裏切って酷い目に会わせた塔矢。
腹の底から熱い怒りがこみ上げる。
どうしてくれよう。
全然動けなくて無理だけど、本当は今すぐ滅茶苦茶に犯してやりたい。
オレと同じ目に会わせてやりたい。

オレと同じ目に・・・?

これは。




「・・・・・・そう。それはキミがボクにしたことだろう?」



突然低くなった塔矢の声に、背筋が凍る。
ざわりと逆立ったこめかみの毛の間を、汗が伝う。


「最初、ボクを犯しただろう?」


だってそれは


「どうだった?怖かっただろう?痛かっただろう?」


ああその通りだよ、だけど


「ボクだって同じだったよ。」


オマエ抵抗しなかった、


「抵抗したくても出来なかった。」


オレは猿轡をはめられてて、


「キミが好きだったから。」


・・・・・・。


「どんなに怖くても、痛くても、抵抗出来ないほどキミを愛してたから。・・・愛してるから。」







オレはそれ以上何も聞けず、力の入らない手で塔矢の手首を取り、
オレの戒めを外すために怪我をした小指の爪に舌を這わせた。

塔矢はオレの事を愛しながら、怨んでいたのだろうか。
その復讐をしたのだろうか。

いや、それ程好きだと、言いたかったのだろうか。

それとも全く関係なく、本当に高永夏に脅されて嫌々協力していたのだろうか。



オレの手を押さえていた塔矢の手の震え。
天から垂れてきた潤滑油。

分からない。

どんなに長考しても分からない。


永夏に聞けば分かるだろうが、あんな事、塔矢以外の誰に通訳頼めるかってんだ。







翌日、塔矢は高永夏に1目半差で勝っていた。









−了−







※最初のキャストは「ヒカル」が「和谷」に「塔矢を犯させる」、でした。
  しかし和谷をレギュラーにしたくなかったというのと、
  手を押さえている人物とヤってる人物の会話が見えない、という状況を作りたくて
  急遽変更。
  無理矢理永夏を使いたかったから。ではありません。おそらく。あ。自信がない。










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