038:地下鉄
038:地下鉄









オレも悪かったのかも知れない。
その日は塔矢に家に来ないかと誘われたが、友だちと遊びに行くからと
断ったのだ。

別に友だちのことにまでいちいち言う必要ないし、プライベートを全部
束縛されたくなんかない。


でも・・・・

その友だちが、和谷だってことを黙ってたのは失敗だったかも知れない。





和谷の買い物に付き合って帰る途中。
地下鉄のラッシュアワー。

ホームの際でオレ達は話をしていた。


「・・・だからその子に同情するってーの!」

「まあなぁ。」

「バッカじゃねーの?あんないい子他にいねえぜ?」

「さっきからバカバカ言うな〜!そう思うんなら紹介してくれよ〜!」


和谷に向き直る。
ぎゅうぎゅう詰めのホーム。
今にも体が密着しそうなのを、和谷はさりげなくオレの肩を掴んで距離を取り、


「じゃあ、『お願いします和谷くん』は?」


顔を近づけてニッと笑う。

本来なら「あんだとぉ?」と言ってヘッドロックでもかましたいところだ。
和谷もそういうリアクションを期待しているだろう。

でも。

オレは動けなかった。
顔の血の気が引いて行く。



「・・・塔矢。」






和谷のすぐ後ろに塔矢が立っていた。


「わ、塔矢いたのかよ。何か言えよ!気持ち悪い奴だなぁ。」

「いつ、から?」


なんて聞くだけ無駄だ。こんな混み混みのホーム、遠くからオレ達を見つけても
こんなに側まで来られるわけがない。

最初、から。


「楽しそうだったから声掛けづらくて。」


塔矢が和谷に笑いかけながら言う。
その微笑みは恐ろしい。
でも和谷は気付かない。
ふ〜ん、と言ってから「オマエのツレだろ?何か言えよ」という目でこちらを見、
オレがしゃべらないので仕方なく、


「オマエは?どっかの帰り?」

「ボクも今日は午前で仕事が終わったので買い物に行ってたんだ。」


胸に抱えた本屋の袋を少し上げてみせる。
オレ達も前を通りかかったチェーン店だ。

いや、正にあの店かも知れない。
塔矢なら、あり得る。





塔矢は常にない程にこやかだったが、
オレにはアイツが怒っているのが分かった。

何に?

オレが塔矢と仲の良くない和谷と遊びにいったから?
その事を黙っていたから?
和谷が前の彼女を褒めたから?
和谷がオレに女の子を紹介してくれそうだったから?

和谷が、オレと仲いいから・・・?




塔矢との会話がなくなり、かといって無視してオレだけに話しかける訳にも行かず
和谷は黙って線路の方を向いた。

オレはこっそり塔矢の方を見た。

塔矢は和谷の背に肩を付けるようにして立ち、そしてオレを見て微笑んでいた。






フォン・・・・。


暗闇の向こうから電車の光が近づいてくる。

線路を伝って来たゴオッという音が辺りに響く。

和谷がホームの端で電車の方に顔を向け、一歩下がろうとする。

でも塔矢がそれを許さない。

それに和谷は気付かない。

音が大きくなり、車両がついにその姿を現す。



塔矢の体がすっ・・・と屈む。



「っおいっっ!!」


塔矢に向かって叫びながら、オレは和谷の腕を掴んでいた。









列車のドアはオレ達から少し離れたところで停止した。


「んだよ。離せよ。」


和谷が気味悪そうに腕を振る。


「あ、ゴメン。」


慌てて手を離すとその掌はじっとりと汗をかいていた。


「おい、ぜってーコレに乗るぞ。」


ぎゅうぎゅう詰めのホーム、和谷は隊長のように宣言してドアに突進していく。
オレが命の恩人だとも知らずにさ。

和谷の背中の後ろで塔矢とオレが並ぶ。
ちらっと塔矢を見てつぶやく。


「・・・本気だったのか?」

「何が。」


ああ絶対コイツ本気だった、と思う。


「和谷に何かあったら絶交だかんな。」


声を押し殺して塔矢にだけ届くようにささやく。

塔矢はふん、と鼻を鳴らして和谷とオレの間に体をねじ込んだ。






この話には続きがある。それはまた次回。





−了−








※とかヒカルに言わせてしまうのもどうかと思いますが。
  誰かアキラさんに教えて上げて下さい。「それ犯罪!」って。






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