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036:きょうだい |
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「ボクは、きみにとって何なんだろうか。」 塔矢は、この上なく真剣な顔をしていた。 週一くらいで塔矢の家に泊まるようになってから久しい。 アイツは痛くないはずがないと思うのに、オレが押し入れるだけで 艶っぽい声を上げるようになった。 そんな所に入れられて、ホントにそんな感じるのか? と思わないでもないが、実際足の指を引きつらせて男にあるまじき イき方をする塔矢を見ると、演技じゃなさそうだな、と思う。 正直、自分が上手いと思わないし、女の子でもこんなに感じさせられるかどうか自信がない。 なのに男・・・。 そのあたりを一度塔矢に聞いてみたことがあるんだけど 「キミだから・・・。」 と目の淵を染めて俯いた。 結局の所、よく分からない。 でも、首を反らして喉の奥をひゅうひゅう言わせながら感じている塔矢の顔はえらく色っぽいし そんな、溺れている人のような顔をするのはオレに溺れてるからだぜ、と思えば それはどうしようもなく嬉しくて、オレも・・・。 「恋人。・・・かな。」 他の奴だったら、こんな恥ずかしい答え方出来ない。 こんな事までしてて、「え。」とかいう顔されたら、やっぱショックだもん。 でも、コイツに限ってそれはない、と思っていた。 なのに塔矢は何となく不満そうな微妙な表情を見せ、 ・・・オレは顔に血が昇った。 やっぱり、ちょっとそれは違ったかな・・・。 でも、でも、オマエ抵抗しなかったじゃん。 首を傾げてしばらく何事か考えていた塔矢は、やがてす、と立ち上がって 机の引き出しを引き、中から白くて細長い紙包みを取りだした。 中には、一本の剃刀。 何をするのかと思っていたら、物々しく半紙を広げてオレの膝の前に置き、 それを挟んで正面に正座する。そして。 カミソリの刃の薄紙を剥いで 何の前触れもなく 無造作に自分の手首に 刃を乗せ。 こめかみがどくん、と脈打つ。 髪の根が逆立つ。 いきなり、何て理不尽な状況。 何しやがるんだコイツ! それでも身動き一つ取れない。 吸った息が吐き出せない。 動いたら切る、と言われているようで。 別に言われていないし冗談だとも思うんだけど。 もし、万が一そうじゃなかったら。 薄闇が部屋を覆う。 障子越しの夕焼けが、二人きりの部屋の空気の濃度を上げる気がする。 「オマ・・・」 緊張に耐えきれなくなって。 漏らした言葉を、案の定合図にして 赤い部屋の中で、一瞬だけ白い光が閃いた。 「・・エ、何すんだよ。」 意外と冷静な言葉が吐けたのは、勢いよくスパッと切ったりしなかったからだ。 5ミリ程だけ動いた刃を除くと、見る見る浮き上がった赤い線が、 ぽたりぽたりと、白い半紙の上に、滴った。 それを見て、やっぱり顔の血が、さあっと引いていく。 「ちょっと切りすぎたか・・・。」 花でも剪ったかのように平然と言う。 そうじゃないだろ!血!と、塔矢に思わず伸ばした手の首を、逆に取られた。 引っ込めようとしても、案外コイツ力強いんだよな。 「っ!」 また何気なくオレの手首にも剃刀を当てられて、本能的に力が入った。 ったく!なんなんだよ!さっきからよ! 「キミを、殺したくない。」 くたくたと全身から力が抜ける。 言葉とは逆に今オマエ、 殺してもいいって思ってるだろ! 目をぎゅっとつぶると、やはり前振りなく、す・・・と何かが肌の上を滑る感触がした。 切られた、と思ったが、痛くはなかった。 恐る恐る目を開けると、塔矢の時よりはじんわりと血が滲み、皮膚の上に 小さな小さな赤い卵が生じる。 だんだん成長してやがて張力を破って流れ出し、半紙の上に落ちる。 ぽたり。 塔矢の血の上に、オレの血が落ちる。 浸透し続ける赤い抽象画の上に、更に赤。飛び散る小さな飛沫。 とても不気味な光景だけど、二人の血が全く同じ色、というのが 妙にエロティックだった。 塔矢は血の滴る手首を、オレの手首の上に重ねる。 その時傷口が擦れて、初めて痛い、と思った。 「・・・キミ、血液型は?」 「Oだけど。」 「ああ、寛容な血液型だな。」 「大雑把って言うよな。」 こんな状況で、何のんびりと関係ない話してるんだと思う。 どこか現実逃避したかったのかも。 でも、ぬらぬらとオレの手首に擦りつけられる塔矢の手首は、何かを思い出させて、 「占いの話じゃない。確かO型は全部の血液型に輸血出来るんだ。」 「・・・へえ。便利。オマエは?」 「ボクはAB。同じ血液型にしか輸血出来ない。」 「ふーん。・・・て!まずいんじゃねえの?コレ!」 やっと現実に戻り、理性が、手を引き離す。 塔矢はもう追っては来なかった。 そのかわり自分の口元に手首を引き寄せて。 まだ少し流れている血を猫のようにぺろり、と一つ舐め取る。 「大丈夫だよ。」 またぺろり。 ぺろり。 擦りつけられて広がった血を、舐め取っていく。 舌が赤く染まった。 やがてゆるゆると白い方の手が伸びてきて、オレの手首を取る。 引く。 同じように舐め始める。 恍惚とした表情で自分の血を、オレの血を味わう。 それがまた何かを思い出させて、 もう血は止まっているのに、ざらついた舌先に這い回られると 傷からざわざわが広がった。 塔矢の唇が赤く染まった。 オレの視線に気付いて、少し笑う。 夕闇の中、唇を赤く染めて微笑む塔矢は、 ・・・美しかった。 「・・・で。結局なんだったワケ?」 オレの傷を消毒して絆創膏を貼った後、自分の手首に包帯を巻き終わった塔矢に やっと日常モードで聞けた。 「・・・お互いの血を混ぜると、兄弟になれるんだ。」 「はあ?」 何ソレ。 っていうか、大昔の映画か何かで見たことあるような気はしなくもないけれど。 随分芝居がかったことを、すると思った。 ってか、何で? 「『恋人』だったら、別れたらお終いだろう?『きょうだい』なら一生」 と言葉を切って、目を細める。 ・・・縁が切れる事はない。ってか。 目の前の恋人、もとい「きょうだい」?を見つめる。 どう受け止めていいのか分からない。 そんなに想われているのを喜ぶべきか、 いや、ヤバイだろ。 さっき剃刀を当てた時の塔矢は、オレを手に入れる為なら殺してもいい、という目をしていた。 それはゴメンだ。 なのに、唇の血が乾いて赤黒くなっても相変わらずコイツはキレイで、 さっきから擦りつけられたり舐められたりでオレの股間も血がはち切れそうで。 「けどさ、『きょうだい』ならこんなことしねえんじゃねーの?」 不安とか恐怖とか焦燥とか、色んな何もかもを振り払った。 今のオレには、そんなもん必要ない。 獣みたいに塔矢を押し倒すと どこかが手首に当たったらしく小さな悲鳴を上げる。 でもその声は、甘く響いた。 −了− ※ゲロ甘・・・? もしかしてバカップルってこういうのを言うんでしょうか。違いますか。 進藤が塔矢にひいてしまうか否か、最後まで迷いました。 少なくとも私はひいた。 |
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