023:パステルエナメル
023:パステルエナメル











『すまない。今日は急用が出来て。』

「あ、そうなんだ?うわー、助かった!オレもなんだ。悪りぃと思ってさ。」

『そうなのか。じゃあ丁度良かった。』

「ホントホント。じゃあ、また明日な。」

『ああ。』



ピ。


携帯を切って・・・見つめてしまうのはオレの悪い癖だ。
もの寂しげに見えてしまうと思う。

さて。と。

今日はどーしよっかなー。
飲みに行って、適当に女の子ひっかけて。


さっき塔矢の。
後ろにいたんだろうな〜。

今頃二人は抱き合っているだろうか。

おまえは、嘘を吐くのが本当に下手だ。

普段は聞いてもいないのに『何時から誰々さんの指導碁が入っているから』とか
細かく教えてくれるから、偶に「急用」で済まされたら一発で分かっちまうじゃんよ。
嘘を隠すには普段からちっちゃな嘘を織り交ぜてないと。

いや、おまえは賢いから、ワザとなのかな。
だったら酷い奴だなおまえって。





一人で飲んで、その後外で歩いていたら、前いっぺん会ったことのある女の子に
声を掛けられた。
もう相当飲んでるみたいで、仲間とはぐれたと言っていた。

あぶないな、って言ったら

ヒカルくんと会えたからラッキー。送ってよ。

だって。



熱くてくにゃくにゃした体を支えながら道を教えて貰って、マンションにたどり着く。
意味もなく笑っている彼女のバッグからキーを取りだし、
表札見てああ、こういう名字なんだ、なんて思いながら玄関を開けて。

ほら、上着ぐらい脱げよ。

ん・・・おちゃあ・・・。

お茶?熱いの?

ううん。冷蔵庫・・・。ペットの。

でもオレがコップに入れて持ってきた時には既にベッドに転がって寝てて、
起こすのもどうかと思って台所に戻って適当な小皿を見つけて蓋にして。

こういう時、どうすればいいのかオレには未だに分からない。
このまま帰ったら不用心だし、隣で寝てて何もしないってのも却って失礼、って事もあるし。
かといってこのまま被さったら、酔いが醒めた時なんでなんで?って話にもなりかねないし。

ん〜、でもホントは分かってる。
酔ってはいたけど、正気を、記憶を失うほどじゃなかった。
その彼女が部屋に入れたって事は、このまましてもいいって事なんだろう。
でもなぁ・・・。

なんて考えてたら急に彼女の目がぱちっと開いて、こっちを見た。
そしてしばらくオレをじーっと見た後、ニッと笑って、おいでおいでをした。






オレに男にも色気があるって事を教えたのは塔矢で、
男同士のセックスを教えたのも塔矢だった。

最初から知ってるはずもないし中学は共学だったから、コイツにそんな事教えたのは
兄弟子の一人だろうとは思ってたけど。


好きだよ。愛してるよ。


そう言って慣れた仕草でオレの体を開かせたおまえ。
その恐怖も、快感も、まるで雷のようにオレに衝撃を与えた。


うん・・・うん、オレも。

好き。

うん。ずっと好き。一生好き。


何度も、何度も何度も繰り返した、やってる事と対照的に幼い言葉。
交わした微笑み、そしてキス。

嘘の下手な塔矢の、その言葉は本当だと思う。



それでも今日みたいに、偶に塔矢はオレじゃない人を選ぶ。







あ・・・。

どこが気持ちいいの?教えて。

そんなの、いや。

本当に分かんないんだ。教えてよ。

ヒカルくんの、いじわる。

自分と違う作りなんだから分からなくて当たり前だもん。いじわるじゃないよ。

いじわるじゃん。

おまえの頭ん中も分からないよ。

・・・・・・。

どうしてそんなに笑うの?

だって。だって。




・・・ねえ、また来てくれる?

・・・・・・。

あ。黙った。

ううん、違うよ。次いつ来られるか考えてた。

嬉しいな。いつ?

取り敢えず明日の朝。

・・・・・・。

と、明日の晩。

・・・明後日早出なんだけど。

そうなんだ?

そういう夜ってブルーでさぁ。

う〜ん・・・。

だから、慰めに来て。

うん!


男には、棋士には有り得ない、象牙色にぴかぴか輝く長い爪にキスをした。
人の体の一部なのに、
先の方は、ひんやりしていた。






「塔矢。」

「進藤!」


思わず駆け寄って、近づきすぎてお互いの腕を掴んでから、慌てて回りを見渡す。
そしてまた目があって、ぷっと噴き出す。

塔矢の目が、オレにだけ見せる柔らかい微笑を見せる。
オレも、きっととろけそうな顔をしてるはず。
これがお互いの部屋なら、間違いなく抱き合ってキスしてる所だ。


「昨日はごめんね。」

「ううん。お互い様じゃん。」


―――それでも昨夜おまえがどこで寝たか知ってるよ。


「今日中押しで勝てたら碁会所行く暇ある?」

「うん!あ、でも時間勿体ねーからここで打っちゃおうか?」


―――同じ時間、オレが何処で誰と何してたか、知らないだろ。


「大丈夫かな。」

「今日は一般客少ないし。あ、そうだ、検討室なら二人っきりで打てるんじゃない?」


―――まだ微かに煙草の匂いがしてるよ。




「進藤。」

「ん?」

「・・・好きだよ。」


潜めた声で。
日常でんな事言うなよ、外国人みたいじゃんよ。


「・・・うん。オレも。大好き。」

「進藤。」

「ん?何?」

「どうした?泣いてるのか?」

「ちげーよ!」



違うけど、何だかね。



「目に、ゴミが入ったのか?」



・・・うん、ちょっとね。







−了−







※解説した方がいいのか。でも。

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