018:ハーモニカ








それは、北斗杯の合宿以来初めて塔矢んちに行った時の事だった。

合宿の時は客間で打ったり寝たりしていたんで他の場所は知らなかったんだけど
塔矢の部屋に初めて通して貰ったんだ。


「へぇ〜、奇麗にしてるな。」

「キミが来るから少し掃除したよ。」

「気ぃ使わなくていいのに。」

「別に、ちょっと掃除機をかけただけで大した事はしていない。」


それにしても本当に余分な物のない、すっきりした部屋。
小さい頃からこの部屋なのかな。
オレみたいにシールべたべた貼ったりしなかったんだろうな。

本棚を見てみると、中段の引き出しを除けば上の段も下の段も
ほとんど囲碁の本や資料ばっかりだった。
それから・・・これは後から思っても失礼なんだけど、オレはホントに何気なく
引き出しを開けた。


「ちょっと。」


咎められて初めて、しまった、と思う。


「あ、ゴメン。」


でも振り向いたら苦笑していて、怒ってないって事は大したものは入ってなかったのかと
胸を撫で下ろす。
改めて目をやるとちょっとした文房具や絆創膏、やっぱり特に変なものも入っていなかった。
だがその隅っこに、一つ分からないものがある。
ビニールに皮っぽい模様を型押しした細長い箱だ。


「これ。」

「ああ、小学校で使ってたハーモニカだ。6年生の時以来使ってないけど、
 なんだか捨てられなくて。」

「ふ〜ん。」


安っぽい樹脂のパカッとした箱に入ってたオレのと違って
さすがお高そうなんを使ってたんだな。


「お茶を入れてくるよ。」


塔矢が出て行って一人になってから、また見てみる。
きちんと整理された引き出しの中。
またハーモニカに目が戻り、ちょっと中を見たくなって箱を取り出してみた。




中も奇麗だった。
小学生が使っていたにしてはへこみもないし、傷も少ない。

塔矢がこれを吹いてる所を想像するとちょっと可笑しい。
6年生・・・そうか、丁度出会った頃か。


あの頃の塔矢は可愛かったなぁ。
オレ、一瞬男か女か迷ったもんな。
でもその後怖かったけど。ふふっ。

・・・あのまま、佐為に打たせていれば。

オレと塔矢は、もっと仲のいい友だちになれていただろうか。
塔矢はなかなか佐為に勝てないだろう。
それでもオレの時みたいに失望する事なく、真っ直ぐに進んだだろう。
そして惜しげもなくオレを賞賛しただろう・・・。

実際に打っているのは、佐為なのに。


・・・ダメだ。そんなの。
オレが耐えられない。


それでも、あの頃の塔矢ともっと仲良くしたかった、笑い掛けて欲しかった、
なんて、今思ってもしょうがないというか、ちょっと気持ち悪い想像を
オレはやめられなかった。





ハーモニカを両手で掴む。

きっとあの頃の塔矢のように。

口元に、持っていく。

子どもらしい細い髪がさらさらしている様子や、俯いた時に見えた細いうなじが
瞼の裏に一気に甦った。


唇に、ひやり。

12歳の塔矢。

と、間接キス。




・・・フーーー・・・・。



ハーモニカ特有の鋭い音が、思ったより大きく響いてオレはビビった。
何だか、甘酸っぱくて切ない音色だと思った。








−了−








※「001:クレヨン」と似たシチュエーション。
  仕方ないっす。自分自身確か小学校の時以来使ってないし。
  何となく15〜6の進藤と12の塔矢のキスっていいなぁと思いました。






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