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013:深夜番組 |
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いよいよ明日からか。 北斗杯の為にやってきた日本。 セレモニーで終わった第一日目の夜、物珍しさもあって少し歩いてみた。 そして、 自動販売機の前で缶ジュースか何かを持ったまま固まってる男に出会った。 なんだ?オレの方じーっと見て。 あ。コイツ、中国か日本の選手だ。 ええっと確か、日本の。 塔矢行洋の息子でもなく、あのムカつく勘違い野郎、進藤ヒカルでもない。 一番薄い、ああ、こんな奴いたよ。 韓国は日本なんかに絶対負けない。 だから盤外戦なんて必要ないんだけれど、 あの進藤に一泡ふかせてやりたくなった。 自分のチームの奴がオレと親しくなってたら、ちょっと嫌な感じしない? 日本主催の棋杯に参加してるんだから、ニッポンジンと仲良くしなくちゃね。 オレも同じ物を買って片目をつぶり、親睦の意を伝えたつもりだが、奴は動かない。 何だ?オレが高永夏だからびびってるのか? コイツ・・・可愛い。 日本チームの中で一番キツそうな顔をしているけど、実は違うな。 オレの見立てではやはり、塔矢アキラが一番気も強いに違いない。 ちょっとは下心も手伝って、オレは奴を自分の部屋まで引っ張っていった。 部屋に着く頃には奴もリラックスして、警戒もせず気軽にドアをくぐる。 切り替えの早い男だ。きっと棋風も。 早速オレのベッドに腰掛けて、ジュースのプルトップを引く。 「××××。」 今のは乾杯、って言ったんだな。 油断しすぎだよ、君。押し倒しちゃうよ? 「何だこれ?」 コーラのような物を想像していたのに、苦い。 奴はいかにも旨そうにゴクゴクと飲んでいる。 酒か! よく缶を見ると、小さく「BEER」の文字。 ああ、それでオレに見られて固まってたんだ。 この不良め。そりゃ、固まりもするよな。 それより、なんて事だ・・・。オレまで飲んじゃったよ。 まさか日本で飲酒体験するとは。全く。 それでも奴につられて、また口を付ける。 「×××、××××××××。」 男は何か言いながら、勝手にテレビを点ける。 途端に流れ出す大勢の笑い声。 少しボリュームを絞って・・・。 ボソボソと部屋を満たす異国語は、夢の中で聞く言葉のようだ。 発音方法が近いのか、ぼんやりと聞いていたら母国語のようなのに いざ聞こうとしても何も聞き取れない。 なにか 顔が、熱くなってきた。 少し眩暈が、でもいい気分だ。 幻想的だ、部屋の天井にテレビの明かりが、ゆらゆら、ゆらゆら。 水底にいるみたい。 ここは、どこだ? ここは、ニッポン。 ここは、トーキョー。 オレと一緒に溺れながら、笑っているのは誰だ? 秀英の、獲物。 でも今はオレの、獲物。 奴は、同じくらいの年なのに酒に強いらしい。 あまり酔っていない。 なんかムカつくな。 出発前に姉が押しつけてきた、軽い精神安定剤を思い出した。 緊張なんかしないから必要ないって言ったのに。 でも、思わぬ所で役に立ちそうだ。 「おい、これ少しづつ飲んで見ろよ。」 「×××××。」 「いいから。酔えるから。」 わ。誰がそんなに一気に飲めって言ったよ。 顔を顰めてビールで飲み下して。 しばらくすると、ひっくり返ってしまった。 丁度テレビの中でも、犬の着ぐるみを着た男がひっくり返った所だった。 「まだ寝るなよ。それ睡眠薬ってわけじゃないんだから。」 寝転がったまま、焦点の定まらない目でオレを見る。 結構色っぽい顔、するじゃん・・・。 顔の横に手を突いても、目を逸らさない。 キスをしてみたら、驚いたことに当たり前に舌を絡めてきた。 あんまりタイプでもないんだけどさ・・・。 もしかして、オレと同じ嗜好持ってる? 本当はここまでする気はなかったんだけど、と思いながら 寝間着がわりらしいトレーナーを脱がせる。 かなり酔ってるかも。オレ。 ズボンも引きずり下ろして・・・。なんだ?この下着。 外人の趣味は分からない。 素っ裸になっても特に恥じるわけでもなく、変わらずぼんやりとした顔で オレの行動を淡々と受け入れる。 これ・・・完璧にラリってるな。 なんだろう。酒と一緒に飲んだのが悪かったのか? 死ぬなよ。 いや死んでもいいけど、この部屋じゃない所にしてくれよ。 思わず少し離れ、息を詰めて見つめてしまう。 その時、女の悲鳴が聞こえた。 テレビ画面はお笑い番組らしいものから、いつのまにか洋画に変わっている。 キツそうな顔をした白人の女が、目を見開いて家中を逃げまどう。 アッシュグレイの頭髪は乱れ、胸元が破れて乳房がはみ出していた。 わー・・・・。 このまま捕まって強姦シーンに突入か?地上波で?さすが外国! などと思ってわくわくしながら見入ってしまったが、 女はすぐに絞め殺されてしまった。 そしてCM。 ちぇ。 何気なく頭を巡らせてベッドに目をやると。 さっき殺されたキツい顔の女の死体が。 違う。 男だ。 でも。 魅入られたように男の上にのしかかり、首に、手を掛ける。 さっき、死んでたよな?オマエ。 ・・・ゴホゴホと咳き込む声に、我に返った。 ブラウン管の中では、怪しげなBGMの中、何も知らない次の被害者が のんびり鼻歌を歌っている。 オレの被害者は、オレの被害者は、 横を向いて、苦しそうに喉を押さえながら、 勃起していた。 斧を振り下ろす音。 またしても女の悲鳴。 乱暴に髪を掴み、 飛び散る血飛沫。 動かなくなった体に、 指を突っ込んだら。 縋ったカーテンが破れて落ちる。 薬のせいか、弛緩していた。 都合がいい。 コツ・・コツ・・とゆっくりした足音。 そう、ゆっくり、ゆっくり、そして、 まだ聞こえる微かな嗚咽。 狂ったように犯す。 最後の力を振り絞って、 いざる音。 それでも奴は勃起したままで 苦しいんだか気持いいんだか、 ポタリポタリと血の垂れる音。 その喘ぎ声、興奮しちゃうよ。 効果音に一瞬遅れて振り絞られる悲鳴。 奴の体が、ガクンと仰け反る。 ガ゛チャン!とガラスの割れる音と共に細い悲鳴が遠ざかり、 ドサッと何か重い物が地面に叩きつけられる音を最後に 部屋は暗くなり、全ての音が止んだ。 闇だ。 目の慣れない薄暗がりの中、オレとアイツの荒い息だけが響き渡る。 良かった。生きてる・・・。 唐突に不躾な明るい音楽が鳴り響き、天井やオレ達の裸が白らけて照らし出された。 溜息をついてリモートコントローラーを探し、テレビを消す。 やっと本当の、静寂。 結局、墜死したらしい二人目の女の顔は見なかったな。 でも、現実の方がきっと扇情的な顔をしている。 お楽しみは、これからだ。 くっくっ。思う存分コロしてやるから。 薄闇に慣れた目に、アッシュグレイの髪が浮かび上がった・・・。 翌朝、奴は相当弱っているようだった。 初めてだったのか。 びっくり。 オレが日本人と関係持ったなんて知ったら、釜山のおばあさん卒倒するだろうな。 相手が男ってのも大概だけどな。 かなり酷いことをしたと思うのに、それでも奴はオレを睨むでもなく 気丈に服を身につけ立ち上がる。 そして、何気なく薬を数えていたオレの手首を掴んで 「××××××××××。」 「何。」 「××××××××××××××××。××××××××× ××××××、×××××××××××。」 え・・・。何でそんな気遣わしげ目で見るの? あんなに、乱暴な事言ったオレを。 あんなに、乱暴なことをしたオレを。 「心配してくれてるわけ?飲まないよ。オレには必要ないんだから。」 「××、××××××××××××××××××、×××××。」 分からないよ。言いたいことあるならせめて英語で言えよ。 それでも立ち上がって奴と握手を交わした。 「ビビって薬欲しくなったらいつでも来いよ。そうしたらまた抱いてやるから。」 「××、××××××××、×××××××××。」 オレが何を言っているかも知らず、微笑む男。 日本チームの中でも一番弱い奴かも知れないけど、 でも多分一番いい奴だ。 一生オレと盤上では対戦できないだろうけどな。 −了− ※社くん気の毒すぎます。 |
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