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002:階段 |
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いつもという訳ではないが、碁会所から帰るとき、 「階段で行こうぜ。」 進藤が誘う。 エレベーターの方が、早い。 エレベーターの方が、楽だ。 よほど健康や環境に気を使う人でなければ、 火事でも起こらない限り階段を使うメリットはないと言える。 だから勿論大概の人間はエレベーターを利用するのだけれど。 掃除もほとんどされていない、切れた電灯もなかなか換えられない 雑居ビルの狭い階段は、危険だ。 そして、淫靡だ。 僕は進藤が、何故階段で行こうと誘うのか知っている。 でも知らない。 正確に言うと、 進藤が階段で何をしようとしているのかは過去の経験から知っているんだけれど、 それが何故行われるのかは、さっぱり分からないんだ。 人の足音でもすれば、すぐに終わるゲーム。 でも、少しくらいの人の気配では終わらない、スリリングなゲーム。 ひんやりと湿ったような汚い壁に押しつけられて、 卑猥な落書きを見つける。 時間帯によっては意外と人が通るのかもしれないな、などと ぼんやりと、考えていた。 階段の薄暗がりでは終始無言で鬱々とした面をしている進藤も、 陽光差し込む一階ホールに出た途端に、 「腹減った〜!何か食べてかない?」 と、いつもの平凡過ぎるほど平凡な、明るい少年の顔を取り戻す。 ・・・やはりあの階段は「異空間」なのかも知れない。 僕もいつもの笑顔で応じながら、そんなことを考える。 あの薄暗がりの中では、進藤は進藤でなく、 僕も塔矢アキラではないのかも知れない・・・。 それは、少し恐ろしい。 それでも明日もきっと進藤の誘いに戸惑いながらも頷いてしまう、 僕も僕だと思う。 −了− ※二人の年齢が気になるところ。 |
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