062:オレンジ色の猫(新)








ほろ酔いで町を歩いていると、塔矢に声を掛けられた。

珍しい。
塔矢も酔っているらしく、いい顔色をしている。

この後料亭を予約してあるんだが、相手にキャンセルされたから君付き合わないか。

そう言って、少しばつが悪そうに微笑んだ。



塔矢が俺を誘うなんて珍しい。
そりゃ勿体ない、付き合うよ。
そう言いながら、塔矢を振ったのはどんな男だろうと考えた。

塔矢がゲイだというのは、もちろん表立っては言われないがちょっとした噂だ。
そう言われりゃこの髪型も納得行くし、兄弟子と少し怪しいんじゃないかと 思った時期もある。
(後から聞けばこれは誤解だったらしいが。)

そんな塔矢が二人で食事に行く相手と言えば、やはり男だろう。
そこまで約束しておいて、急にキャンセルってのはどういうわけだ。
まさか塔矢がゲイだと知らなかったとか、いやいや普通に突然身内の不幸、とかも あるか、
なんて他人事だから気楽に心の中で当て推量しながら付いていった。



さて、連れて行かれたのは想像してたより立派な料亭の離れで、そこで俺たちは
また飲んでいい気分になった。


・・・こうなる事を、全く予想しなかったわけじゃない。

けど、塔矢は注意深く棋士との付き合いは避けてたみたいだし、
特に俺は自他とも認めるライバルで因縁も深い。

だからそうなりそうで、結局はならないか、とも思ってたんだけど。
結果そうなった。


それは今まで体験したどれよりも深く、
俺は女というものの存在を一時忘れた。




ところが終わったあと小用に立った時に不思議な事に気付いた。
何で?と思うようなところに蜜柑の最小単位、あの両側がすぼまった
ちいさな袋の粒がついている。
部屋に戻って塔矢にそのことを言うと


「・・・最近お腹の具合が悪くて。
 それは多分今朝のデザートだ。」



以来俺は、柑橘類を見ると一人で吹き出してしまう癖がついて困った。






−了−







※カストリ雑誌にあったネタをヒカアキアレンジ。
  猫=ネコということでよろ。








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